睦月VS沙霧〜明かされる本音〜
最終章スタートはいきなりの......
よろしくお願いします。
俺は沙霧を放課後屋上へ呼び出した。
あの日以来避けていた沙霧と向き合うために。
……
「まさか睦月からお呼び出しがかかるなんて思って
なかったわ」
「俺もお前と関わることなんてあの日が最後でもう
ないと思ってた」
「私は会えると思ってたよ。だって約束したでしよ?ずっと一緒にいなきゃダメって」
“ずっと一緒にいよう”
幼少期の記憶なんてほとんど残ってない中、沙霧と
したこの約束を俺が不思議と忘れたことはなかった。
「その約束、沙霧覚えてた....のか?」
「もちろん。だから私が睦月から離れることはなかったでしょ?」
「あぁ、だから俺たちはずっと一緒だった。雨の日も晴れの日も登校も下校も」
「そうよ。だから睦月はこれからも私といればいいの?私おかしいこと言ってる?」
側から見れば沙霧は変なことは言ってなあのだろう。
幼馴染同士が昔の約束を大切にしているだけ。
だがそれはあの日の沙霧の発言がなければの話だ......
けれど俺は、そこの真意を聞く前にもう一つ聞きたいことがあった。
「なあ沙霧、なぜそんな当たり前のように一緒に入れると思う?あの日、お前は本気で好きじゃない、幼馴染としての縁を切りたいだの、馬鹿だの散々俺のことを言った」
2年間貯めていたものがある俺の中で溢れ出す。一度出してしまうと止まることができないそれらが......
「なぜ直接言ってくれなかった?あの時、いや、約束をした仲が続いていたのなら言えたはずだろ?
それか、俺が沙霧を好きになったのがダメだったのか?2人を壊したのは俺なのか?」
あの日、俺は沙霧に裏切られた。
ただ一つだけ胸に引っかかっていた塊。
沙霧をこうしてしまったのは俺が告白をしたからなのだろうかということ。
自分の傷が癒えず、気づかなかった思い。俺は傷つくべきして傷ついたのか?ということだ。
「むしろ睦月が好きと言ってくれたのは嬉しかったわ。ま、結局あの頃の私たちは付き合ったところで
上手くはいかなかったけどね」
「じゃあ、なんであんな言葉を?」
「そんなの簡単よ。私はあの日、睦月が教室に戻ってくるのを知ってた。だから敢えて傷つけるようなことを言った。ま、次の日に別れようって言われるのは
想定外だったけどね」
......は?全然わからない。俺の理解が乏しいのか?
そもそもなぜ俺が教室に戻るのを知っててそんなことを言ったんだ?
「あ、安心して。私の本心じゃないことも混ざってるから。で、どうだった?」
「どうだった?お前の想像通り、いやそれ以上にダメージは大きかったさ。幼馴染で好きだったやつに縁
切りたいなんて言われるなんて思いもしてなかった
からな」
「でも結果として私のことをずっと考えるようになったんじゃない?」
「どういうことだ?」
俺の理解力が足りないのか、沙霧の言ってることの
真意がわからない。俺を傷つけ、こいつは何がしたかった?
「私ね、睦月の言うように幼馴染という関係に物足りなさを感じてた。その時に睦月が私のことを好きと言ってくれた。その言葉は本当に嬉しかったわよ」
「だから、ちょっと早いかなと思ったけどクリスマスの日に私の初めてを捧げた。2人が繋がった時、確かな幸福感はあったけど、やっぱり私の中の物足りなさを満足させるものではなかったわ」
「睦月は逆に凄く幸せそうな顔をしてた。付き合ってからのそれは一緒にいても見たことのない顔ばっかりだった。その時、私は気づいたの。
睦月の心を支配したいなぁって!私だけが睦月のことを考えて、睦月も私のことだけを考える。それは今
まで得たことない以上に快感だったわ」
「色んなことを試して、今度はダメージを与えて本格的に依存させようって思ったんだけどあの日は失敗しちゃったんだよね~それが睦月の言うあの日の私の
真意」
沙霧の言葉に唖然とする俺だったが、かろうじて言葉を出す。
「沙霧、俺は......お前にとっての何だったんだ?」
「うーん、何だろうね?だけど、私には無くてはならないものかな~」
俺は......俺は沙霧と一緒にいられて凄く幸せだった。
幼馴染としてじゃなく、1人の女の子として沙霧を
好きになって、告白した時にOKもらった時は本当に夢のようで、毎日がそれまで以上に楽しかった。
クリスマスの日も2人で出かけてお小遣いを貯めて
買ったネックレスをプレゼントした。当時中学生が
買うにはだいぶ背伸びしたものだったけど何より沙霧の笑顔がたまらなく嬉しかった。
クリスマスの夜、付き合い始めてからは初めての泊まりで俺と沙霧は一つになった。付き合ってから受け身になることが多かった沙霧に俺は自分を求められた気がして、あの日は寝ずに一生懸命頑張ったよ。
幼稚園から中学まで、沙霧との思い出は溢れんばかりにある。あいつと触れ合わなかった時間は高校に入ってからのこの時間だけで、いつも一緒だった。
いつも俺の前を歩く沙霧、そんな背中が眩しくて、だけどいつも優しく手を差し伸べてくれる沙霧が俺は大好きだった。
だけど、俺が追いつきたくて追っていた背中はもう存在しないらしい。
別に今日ここで話すことによって、あの日が誤解だったなんてことは期待してなかった。
だけど少なからずあの日に対して沙霧も思うことが
あったんじゃないかとは思ってた。
だけど......
沙霧にとって俺はただの都合のいい、自分の欲を満たすだけの道具でしかなかった。
俺の心を支配したい?
その通り、小さい頃から他の女子には興味なかったし、お前の望む通り支配されてたよ。
お前が俺の気持ちを裏切り、それを忘れるために地元を離れても俺はいつまでもお前がやったことが頭を離れず、人を遠ざけるようになった。
高校生活人を遠ざけて、3年間過ごしていくのだと
思ってた。だが、出会いは嘘告白ではあったが胡桃と
出会い、色々ありながらもあいつの真っ直ぐさに俺は
少しずつ惹かれた。
そして、高校祭を通して神野とも仲良くなり、少しずつでも俺は前へ進めた。
まあ、このタイミングで沙霧、お前が転校してくるとは思わなかったけどな。
お前を見た時、幼馴染に裏切られたトラウマが顔を出し、あの時と同じように逃げそうになった。
だが、俺はあの時と違って1人じゃない......らしい。
「睦月、ずっと黙ってるけどどうしたの~?私との思い出にでも浸っちゃったかな?」
だから、俺はもう沙霧の道具にもおもちゃにもなら
ない。俺は過去を振り返らない。
「あぁ、思い出に浸ってたよ。お前との思い出はどれも楽しかったよ」
「そうでしょ?だから睦月は私とずっと一緒に......」
「だが、俺の思い出にある沙霧はどうやらもういないみたいだ。悪いが俺と沙霧、2人が一緒にいる未来は......ない」
ここまでご覧いただきありがとうございます。
もしこの作品を面白いと感じていただけましたらブクマ、評価、感想よろしくお願いします。




