確認と悲鳴
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白い濃霧が垂れ込む鬱蒼とした森。そんな森の一角では、木々がメキメキと倒れる音が聞こえる。それを引き起こしていたのは一匹の蛇だった。全長五メートル程で霞がかった黒い皮膚に覆われており、目は恐怖を想起させる程に鋭い。
蛇は口から黒い塊を形作るとそれを木々に放つ。木々が倒れる度に歓喜の声を上げる蛇の正体は将である。彼は何故混乱していないのか、それは少し前に遡る。
確かに転移した直後は状況が何一つ分からず混乱の極致だったのだが、次第に冷静になると、将は頭の中に情報のようなモノが存在する事に気が付いた。確認すると驚く事にそれは、将の転移した世界ーすなわち魔界に関しての情報だった。
将がその情報から知った事は次の通りである。
・此処は魔界と呼ばれている異世界である事・魔界は大陸と海が地球と近似しており、広大である事・魔界には魔物のみが存在しており、特に会話するだけの知能を有している魔物を魔族と呼び、魔族は国を造ったりと殆ど地球の人間と変わらない事・魔族では無い魔物は魔族達によって討伐されているが、数の多さから根絶は不可能で持ちつ持たれつの関係である事・魔族は意思によって自らの能力を可視化する事が出来る・魔界には魔法が存在しており、魔物なら誰にでも備わっている魔力を使用する事で魔法を行使する事が出来る
それ以外の情報は分からなかったが、将にとってはこれだけでも有難かった。なぜこんな情報が頭の中に存在したのかは置いておくとして、将はこれで大分冷静になる事が出来たのだ。
将には両親・親族が居ない。幼い頃に両親を亡くしてからは一人で生きて来た。幸いにも両親が遺してくれた遺産は莫大で生活には困らなかったが。
友人は存在したし、突然居なくなって心配をかけているとは思うが、こうなってしまった以上駄々を捏ねても仕方が無いと割り切ることが出来た。
将は自分の能力を可視化し確認する事もした。
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筋力C耐久C-俊敏D魔力A-幸運C格C
スキル【闇魔法】
固有スキル【解析】
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すると、頭の中に能力が表示されたではないか。スキルというのはゲーム等でよくあるモノだろうと将には推測出来た。試しに【解析】を使ってみる事にした将は、ちょうど直ぐ近くにあった一本の木に対して【解析】を使う。
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ネブラ森林の木:ネブラ森林に存在するありふれた木
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すると今度は頭の中にこのような情報が入って来たではないか。つまり【解析】というのは使用する事で情報を知る事が出来るスキルだと将は理解した。
次に【闇魔法】を行使しようとした将。ここで場面は冒頭に戻る。
将はすっかり魔法を使う事に慣れていた。魔法というモノは体の中心から流れる魔力を使用して事象改変をするモノであり、それを体感的に理解した将はすっかり得意げだった。今は【闇魔法】の一つである、闇の魔力を一点に集めて塊を放つ魔法を使っていた。
将は便宜的に【ダークボール】と呼んでいる。
周りの木々もあらかた倒し、満足した将は一息ついた。と同時に魔界に来て誰にも会っていない事を気にかけていた。都合よく知識が存在したとはいえ、まだ分からない事も多い。それにお腹が空いてきたのも事実だ、何か食べるモノが欲しい。
とちょうどその時であった。森の奥から女の子の悲鳴が聞こえてきたのは。