彼女の終わりと俺の終わり
はじめまして、光之下影有と申します。
見切り発進でゆったりと書いていこうかと思います。
処女作の完結を私個人の目標として、一人でも読書の方に楽しんでいただければなと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
ファニル暦452年2月5日、俺の暮らすニック街はついに陥落した。いつもおまけしてくれたパン屋も、昔遊んだ小川も、そして我が家も、全て喰われて無くなった。あるのは無数の不気味な歯形。奴らの通った後にはそれしか残らない。建築物も地形もぐちゃぐちゃになって、仮にこの地を取り戻したとして復興出来るのはどれだけの年月がかかるのか……
「……」
ガタゴトと揺れる馬車の中、俺は一人の少女を抱えこんで泣いていた。腕の中の少女は荒い息をこぼし、表情は険しい。当然である、もうすぐ死ぬのだから。
奴らに片手片足を喰われてすぐに止血の魔法をかけてもらっていたが、治癒院に着くまではもたないと聞いている。せめて最期を看取って欲しい、少女本人からそう言われた。
彼女には両親がいない、何故ならしばらく前に奴らに喰われたから。
彼女には兄弟がいない、何故ならしばらく前に奴らに喰われたから。
彼女には俺しかいない、何故なら俺は喰われなかったから……勇敢なこの少女に守られ……俺だけが命を繋いだから。
奴らに喰われかけた俺を救うために、少女は火魔法と風魔法を操り時間を稼いだ。その時間のおかげで王国の精鋭部隊『殲滅者』が間に合い、俺は生きた。俺だけは……生きた。
あと一分、いやあと三〇秒でも殲滅者の到着が早ければ、彼女は今も生きていたはずなのに。
何が王国の精鋭部隊だ。彼女一人救えないポンコツどもが。役立たずが! ゴミが!!
違う。分かってる。ああ、分かってるとも。
真にポンコツで、役立たずで、ゴミなのは誰であるか……
俺だ。
ゴミの俺が生きて、勇敢な彼女は死んだ。ここはそういう世界だ。
ありがとう世界。おかげで今日も生きています。ハハ……ハハハ……。
この日俺は知ったんだ、勇敢なものから死んでいく。
最後まで生き残るのは、きっとゴミだ。
滅びを待つだけのこの世界で、最後に死ぬのは俺らゴミだ。
ありがとう、勇敢な戦士達よ。俺らの為に死んでくれて。
さようなら、ミリヤ。俺の大切な人。世界が終わり、ゴミすら死に絶えるその時まで、さようなら。
泣き疲れた俺は、そのまま目をつむり、まどろみに沈んだ。
馬車の後方では、勇敢な殲滅者たちが、奴らを牽制しながら馬を駆けている。
きっとこんな状況で寝られるのは俺くらいのものだ。すぐ後ろには奴らが迫ってきているのだから。
でも俺は知っている。死ぬとして、最初は彼ら殲滅者。次に勇敢にも立ち上がった、街の人達。そして最後が俺達ゴミ。問題ない。問題なんて何もない。
その日馬車は走り続けた。ひとまず安全といえる次の街まで。着いたのは次の日の夕方。
一日以上走った馬は酷く疲労し、奴らに追いかけられながら馬車に乗っていた街の人々は更に酷かった。
街に着いた俺はすぐに治癒院へ向かった。もしかしたら、彼女は助かるかもしれない。もう息はしていないけど、もう暖かみは感じられないけど。
もしかしたら……そんな馬鹿げた希望を抱いて。
拙い文章ですが、お付き合い頂きありがとうございました。今後もよろしくお願いします。