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***

◇ ◇ ◇


いい歳したおじさんの宿酔は本当にみっともない。


今日の授業はお粗末もいいところだった。


受講生達が堪える笑い声が随所から聞こえてくる。


普段は厳格な教授として悪名高い尾上慎が、なんたるザマだ。


「先生、後は僕がやっときますから」と助手の筆頭である横山に、箒で塵を払うように研究室から追い払われてしまった。



おい。

ここの主は私なのだ!



しかし閉ざされた戸を叩いても開かず、家へ戻るしかない。


今日の『家』は高輪だった


昨日今日と2日間はここで過ごす予定だったからだが、朝、意気揚々と出かけていった茉莉花と息子は当然ながらいない。

シャチを見に行くと言っていた。



せいぜい近場の水族館だろう。直に帰ってくる。



居間に胡座をかいて煙草に火をつけた時だった。電話のベルがけたたましく鳴る。


おい、電話だぞ、と声をかけても家人は誰もいない。慎は一旦躊躇し、それでも鳴り続ける電話は無視できず、受話器を取った。


かけてきた相手は訛りの強い英語でしゃべった。


希望どおりの部屋が取れたという知らせだった。


「君はどこから電話をかけている?」と慎は訊いた。


カナダからだ、と相手は言った。



カナダ! 



カナダのどこだ! と問う慎へ、用事は終わったとばかりにがしゃりと受話器が降ろされる無慈悲な音が届く。


慎はなけなしの知識を総結集して考える。


キラーホエールことシャチは、世界中の海に生息している。冷たい水を好むらしいが、日本でも目撃例はなくはない。逆叉という和名もあるくらいなのだから。



何故、水族館で手を打たない!



茉莉花のお出かけ、つまり家出が、ついに海外に進出してしまった。



大変なことになった。



唖然とする慎にかまわず、庭先では、カラスがカアと一声上げていた。



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