幸せな魔女
初投稿です(`・ω・´)お見苦しいかと思いますが、よろしくお願いします!
字数制限(原稿用紙[400×5]の短編)で書いてみました。※最早目安と化しています。
暇つぶしでもに読んでくださると嬉しいです!
最近、幸せに思ったことはありますか? 私は、世界を旅してそういう話を聞いて回っているんです。
とある国の、外れの村。その地に似合わない格好をした一人の少女が訪れた。尖がり帽子に漆黒のマント。傍らには、お供の子犬。まるでお伽噺の魔女のよう。
「幸せのお話、ありませんか?」
畑仕事の最中の農夫婦に問いが投げられた。そうだなぁ、と彼らは口を開く。
「今年は豊作だったからな。温かく冬を越せそうで安心だ。な、おめもそう思うべ?」
「そうだね、お前さん。毎年冬の厳しさには悩まされるからね」
そんな幸せそうな会話を余所に、少女は聞こえないように、そっと小さく口の中で言葉を転がす。
『あなたの幸せくださいな』
それに気づく様子もなく、農夫が少女に質問を投げかけた。
「どうして譲ちゃんは、そんなことを聞いて旅しているんだい?」
「幸せは、皆で分け合うものです。私は、皆に幸せを届けて回ってるんです!」
少女はにっこり笑って答えた。
「ほう、幼いのにえれぇことしてんだな!」
「この子が教えてくれたことですけどね」
少女が傍で丸まっている子犬を撫でると、子犬は嬉しそうに尻尾を振った。
「私の大切な友達なんです。ずっと二人で旅をしてきたんです」
「ほう。面白いコンビだな。ほれ、幸せ話をちょっと爺にも聞かせてくれないか?」
「喜んで!」
そう微笑む少女の笑顔を、子犬は少し不安そうにちらりと見て、また丸まった。
その夜。誰も予報しなかった豪雨が吹き荒れ、静かな村に降り注いだ。雨は洪水を呼び、作物を、人を、幸せを流し、村を絶望へと突き落とした。
「誰か! 誰かいねぇのか!」
独り残った農夫は、自分の妻を、子供を、仲間を探して荒れた地を踏む。
いつの間にか、農夫は村の外れまで来ていた。外へ出る橋は落ちている。谷底では、川が魔物のようにごうごうと唸っていて、まるで農夫が落ちてくるのを待っているかのよう。
引き返そうと振り返ると、昼間の少女と子犬がそこにいた。
「ごめんなさい……」
少女は呟く。ごめんなさい、ごめんなさいと何度も何度も。誰かへの呪詛のように、懺悔のように、虚ろな瞳で。
「お前のせいだ! 魔女め!」
そう叫んだ農夫の足元が崩れ、体は真っ逆さまに谷底へと落ちてゆく。伸ばした手を掴む者は、いない。
悲鳴は、闇に飲み込まれていった。
村の外。長い夜も明け、雲間から小さく太陽が顔を出す。少女と子犬は落ちたはずの橋を渡って、小さな歩幅を進めていた。
不意に、少女の足が止まった。子犬が不安そうに少女の前に座る。
ぽつり、と少女は言葉を溢す。
「私は何で旅をしているのかな」
少女は目を閉じた。暗闇の向こうで、少女の心に響くたくさんの人の声。
『お前は幸せの魔女なんかじゃない』『不幸の魔女だ』『消えろ! いなくなれ!』
「私は何で幸せを奪っているのかな。何で傷つかなきゃいけないのかな……」
ぽたり、ぽたり。少女の頬から涙が伝い、ぬかるんだ地面に吸い込まれてゆく。
そのとき、少女を慰めるように、言い聞かせるように子犬が口を開いた。
「だめだよ、止まっちゃ。君は、幸せの魔女なんだ。幸せを喰う魔女なんだ。やらなきゃ、君が死んでしまう」
ひっ、と少女の、魔女の喉が鳴る。魔犬は魔女に歩みより、優しく囁きかける。
「大丈夫。どんな言葉を受けても、突き放されても、僕がいるから。僕が見てるから」
魔犬は微笑み、魔女は小さく首を振った。
「行こう」
そして、魔犬の瞳が怪しく光り、魔女の顔を覗きこむ。間もなく、小さな魔女は顔を上げた。
「うん。行こう」
その顔には、底からの笑顔が浮かんでおり、涙の跡も悲しそうな表情もない。
「ねぇ、次はどこ行こうか?」
「西の国はどうかな? 最近、王女様が結婚して子供を産んだって聞いたよ」
「へぇ! どんな話が聞けるんだろう。楽しみだなぁ」
無邪気な笑い声が、遠くに消える。静かになった村に、小さく霜が降りていた。
――もうじき、冬が来る。
読んでくれてありがとうございました!