三匹の子豚と狼
とあるところに一匹の狼が居りました。
狼はとても知能が高く、また大岩をも持ち上げることのできる怪力を持っていました。
ある日のことです、狼はとても飢えていました。
狼がとぼとぼと歩いていると一軒の家を発見しました。
コンッコンッ。
狼は家の戸を叩きます。
「はーい」
中から出てきたのは一匹の雌豚だった。
雌豚は狼を見るとすぐさま戸を閉め鍵をかけた。
ドンドン! ドンドン!
狼は戸を叩き続けた。
中から雄豚の声がします。
「自分たちには子供がいて子供たちがこの近くに家を作ったからそっちへ行ってくれ」
雄豚は自分の子供達を出しにして狼を追い返そうとしました。
「自分たちが助かりたい為に子供を売るとはなんて親だ! こんな奴らこっちから願い下げだ」
狼は立ち去りました。
豚の親子の関係は最悪でした、親豚には三匹の息子がいましたが三匹とも親のスネばかりかじる穀潰しで、先日ようやく家を追い出したばかりでした。
しかし家を出た三匹は家を立てた祝儀をくれだの、生活費をくれだのと催促してきたのです。
これでは家に置いていた時よりも酷い、母豚はうつ病寸前でした。
そんな時です、あの狼が現れたのは。
父豚は思いました、狼に息子たちを食べてもらおうとそうすれば自分たちも幸せ、狼だって幸せになれる、そう思ったのです。
親豚達が寝静まった頃、狼は薪を集めていました。
集めた薪は親豚達の家の周りに立てかけ、火をつけました。
火はあっという間に燃え広がります。
親豚達は家と一緒に丸焼きになりました。
「こんな親では子が不憫だ、仕方がないから俺が食ってやる」
狼は親豚達を食べてしまいました。
翌日、長男豚が親を訪ねます。
お腹が減ったので朝食をねだりに来たのです。
彼の家は藁で出来ていたので火が使えず料理ができませんでしたから。
長男豚が実家に到着するとそこには黒焦げになった廃墟と一匹の狼でした。
「ぎゃああ」
長男豚は大声を上げて、一目散に藁の家に帰って行きました。
狼はその大声で目を覚まし、急いで追いかけました。
長男豚は家にたどり着くと戸を閉め立てこもりました。
それを見た狼はにやりと笑い、家に火をつけました。
長男豚は丸焼きになりました。
狼は長男豚を食べました。
翌日、次男豚が長男豚の家を訪ねました。
先日貸した絵本を返してもらうためです。
次男豚は長男豚の家まで来ましたが、何も残ってませんでした。
「おかしいな、兄さんの家はここにあったはずだぞ」
次男豚は首をかしげながら、三男豚の家へと向かいます、弟に別の絵本を借りるためです。
ずっと茂みに潜んでいた狼はその後を追いました。
次男豚は三男豚を家に着きました、立派なレンガの家です、玄関と換気のための小窓が二つに煙突付きです。
次男豚は三男豚に兄が居なくなったことを言いました。
「それはもしかすると悪い狼の仕業かもしれないね、兄さんも気をつけたほうがいいよ」
次男豚は弟の忠告に従い早めに家へと帰りました。
次男豚の家は木造平屋建て、釘を一切使っていません。
狼は次男豚の家にたどり着くと、夜になるのを寝て待ちました。
日が暮れ、月が顔出した、次男豚が寝静まった頃、狼は起きだしました。
トントントン。
狼は次男豚の家の戸に板を釘で打ち込みます。
次男豚は起きません。
トントンットットットン。
狼はリズムを刻みながら釘を打ち付けます。
次男豚はようやく目を覚まします。
「うるさいなぁ、今何時だと思っているんだ?」
次男豚はベッドから起き上がると戸の方へと向かい、外を確認しようと戸を押しました。
しかし戸は開きません。
ドンドンドン!
次男豚は誰かが悪戯をしていると思い戸を思いっきり叩きました。
「誰かいるのか! ふざけてないでここを開けろ!」
次男豚は叫びました。
「お前の父と母、そして兄を食べた狼だぞ!」
戸の前に立っていた狼は言いました。
「なんだって!? 兄さんだけじゃなく父さんと母さんまで?」
次男豚は相手の正体が狼だと知ると急に怖くなりベッドへと潜り込みました。
狼は次男豚が静かになったのを確認すると家に火を放ちました、木造の家はよく燃えました。
次男豚は丸焼きになりました。
狼は次男豚を食べました。
翌日、狼は三男豚の家を訪ねました。
勿論三男豚を食べるためです。
コンッコンッコン!
「もしもし、子豚さん居るかい? 狼だけどお腹が減ったから開けてくれるかい?」
三男豚は扉の前まで来ると狼に言いました。
「狼さんか、悪いけど今僕は忙しいから、帰ってくれないかい?」
ドンドンドン!
「約束が違うじゃないか! 君の兄弟を食べたら料理をご馳走してくれる約束はどうしたんだ!」
そう、狼は三男豚に雇われて兄豚達を食べたのでした。
しかし三男豚は言いました。
「ごめんね、君が父さんと母さんまで食べてしまうとは思っていなかったんだ、料理は母さんの仕事さ、僕じゃ作れないよ」
三男豚は邪魔な兄豚達だけを食べてもらうつもりでした。
日頃母豚、父豚に迷惑をかける馬鹿な兄達を懲らしめるために。
「君の両親は最悪な奴だったよ、家に行ったらなんて言ったと思う? 自分たちより家を出た三匹の子豚の方をどうぞだってさ。君も見捨てられていたんだよ」
この言葉に三男豚はショックを受け泣きました。
泣いて泣いて、日が暮れるまで泣き続けました。
「それで、約束はどうするんだい?」
三男豚が泣き止んだ頃に狼は尋ねました。
「僕が準備するよ、少し時間がかかるから外で待っててね」
三男豚は思いました、自分がこんなことを計画したばっかりに兄ばかりか愛する父と母まで失ったのです。
三男豚は身勝手な仇討を考えました。
煙突に繋がっている竈に火を点けそこに大鍋を置き、なかにたっぷりの油を入れました。
そこに朝シメたばかりの鶏を入れます。
ジュワァァ。
鶏肉を揚げました、とてもいい匂いが換気の窓と煙突から外へと漂います。
狼はその匂いを嗅ぎ待ち遠しそうに、そわそわし始めました。
それから三男豚は、海老、芋、魚などを揚げていきます、ゆっくり時間をかけ、狼が待ちきれなくなるのを待つために。
狼が待ちきれなくなるのにそう時間は掛かりませんでした。
狼はレンガの家をよじ登り、換気窓から中を覗きました。
家の中では三男豚がご馳走を食べていました。
「おい、俺にも食わせろ」
狼は吠えました。
「勿論いいよ、ただし家に入りたかったら煙突から来てよね、サンタさんみたいにさ」
そう言って三男豚はご馳走を食べ続けます。
狼は我を忘れて、煙突まで登りました。
しかし狼はそこで止まりました。
なぜなら、煙突から下を覗くとそこには油がグツグツと煮えたぎる大鍋があったからです。
「畜生、あの豚野郎め……」
狼は忌々しそうに大鍋を睨みます。
しかしこの狼、ただの狼と侮るなかれ、知恵のある賢狼たる彼は稲妻の如き早さで地を駆け、スイカ程の大きさの石を抱えると、再びレンガの家を登り始めました。
再び換気窓まで来た狼は中を見ました、三男豚はまだご馳走を食べています。
しめしめと思いながら狼は煙突まで登りきりました。
そして手にした石を煙突に投げ入れます。
ヒュー――――。
大きなものが落ちてくる音に三男豚は気づくと竈の近くまで駆け寄りました。
ドボン。
石が大鍋に落ちると石の重みで大鍋がひっくり返りました。
「あっちちち!」
三男豚は熱せられた高音の揚げ油を頭から被ってしまい床を転げ回りました。
狼はすかさず煙突に火を投げ入れました。
火は油に引火し、瞬く間に燃え広がり、レンガの家は大きな竈に早変わり。
三男豚は丸焼けになりながら、玄関まで転がっていくと扉をぶち破り、外へ出ました。
三男豚は転がりながら庭で育てていたハーブの花壇に飛び込みます。
花壇には火傷に聞くハーブが植えてありました。
三男豚は自分にハーブを擦り込みます。
しかし狼が家の上から再び三男豚目掛けて火を放ちました。
「ハッハ! 子豚の香草焼きだ!」
三男豚は香草焼きになってしまいました、焼き加減はレアです。
狼は約束通りご馳走にありつけ幸せになりましたとさ。