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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

武者修行

作者:るむるむる
 
 和国子島藩、和国においては六万五千石という小さな藩。海沿いにある漁業が盛んな藩でもあり、また塩が大量にとれる藩でもあるので実際の石高は八万石近くにもなるそれなりに豊かな藩である。
 人々の性格は温和にして温厚。別の藩からくる旅人にも優しく接し、旅人の間では旅行をするのであれば最初、もしくは最後にはこの藩に立ち寄るとよいとまで言われている。
 治安に関しても他藩に比べると高水準を維持していて、それほど目立った犯罪などは起きていない。ある程度石高に余裕があるからこそ、飢えで苦しむことなく旅人などを歓待することが出来るのだろう。

 とはいえ、この藩に住むすべての者達が裕福というわけではない。余裕のある暮らしをしているものがいれば、その逆に余裕のない暮らしをしているものがいるのも当然だ。
 彼らは余裕がないというだけであり、切羽つまっているというほどでもないが、それでも苦しい生活をしていることには変わりはない。戦国乱世の時代は終わりをつげ約150年、今は天下泰平の世の中ある。腕を頼りに一国一城の主になるというかつての戦国の気風はすでに薄れ、出世をする者は学のある者、そして処世術に優れているものが大半だ。各地では剣達者な人物ほど生活に困るありさまである。

 そんな国の、一つの藩である子島藩の家において一人の命の灯が消えかけていた。

源乃丞げんのじょう、すまぬな。どうやらわしにもお迎えが来たようだ」

 寝具に体を横にして、口を開くという行為すら一苦労と言った様子である。顔はげっそりとやつれていて死相が浮かんでいるのが子供にでもわかるほどだ。
 天霧弥七、それが彼の名前である。子島藩に仕える下士の一人。禄高は三十俵二人扶持という裕福とは言えない家の家主。
 これは現在の価値に換算すると年収90万円程度、突き詰めた暮らしをしているのであれば何とか暮らしていける程度の禄高である。それを表すかのように家の中には生活に必要なもの以外何一つない。横たわっている寝具にしても簡素な作りであり布にはつぎはぎの跡があちこちにみられている。

「まあ、覚悟はしていましたからね。今更という気もしなくもないですが……」

 源之丞と呼ばれた若い男は、死を前にした男を相手に情があるとは言えないような達観した言葉を述べる。
 元服が済んでいないせいなのか、はたまた昨今の流行なのかまげは結わずに、髪もそってはいない。前髪は軽く短く切りそろえる程度で、すこし長めの後ろ髪は紐で縛り上げ邪魔にならないようにまとめている。
 目つきはややおっとりした感じで、優しげというよりぼけーっとしているという印象のほうが強い。
 体つきは同じ年頃の者に比べるとやや細身だ。家庭事情でろくに物を食べれなかったのが影響しているのかもしれない。
 黒い色合いの着物に灰色の袴をはき、弥七の前にたたずみ見据えている。

「やれやれ、相変わらず何を考えているのかわからないような物言いだな……少しは悲しみを見せてもばちは当たらんと思うがの」

 源之丞の言葉に苦笑する。自分の息子ながらどこか達観しているような何を思っているのかわからないそんな言葉をかけられても腹の立つことなどない。むしろ息子らしいともいえる。
 だが、自分が亡き後息子は大丈夫なのだろうかと心配もある。藩主から与えられたお役目を無事引き継ぐことが出来るのであれば多少苦しくてもなんとかやっていけるだろう。しかし源之丞はいまだ元服しておらず、いわば未成年という身である。

「まあせっかくだからわしが死ぬ前に元服させよう」

 源之丞の歳は今年で数え十六。元服するにふさわしい年齢でもあるが、弥七が病床のとこについてからそれどころではなくなり先延ばしにしていたのだが、いよいよ死期が近づいたという事で死ぬ前にせめて息子を一人前にしようと決めたのだ。
 本来はそれほど贅沢は出来ないが、祝い酒などを用意してあげるのが親の務めなのだがそれすらかなわぬ身である。せめて以前から考えていた名を与えそれを持って元服の儀をすませようと考えたのだ。

「元服は構いませんが……」

 と源之丞の言葉がそこで途切れる。死を前にした人間になんと言って声をかければいいかわからないと言った様子だ。何もこんな時に元服の儀をしなくてもと思ったのだが、ではいつ元服の儀をすますというのだという自問自答にかられ言葉を失ったのだ。

 父が元気になった時に改めてすればいいと考えていたのだが、弥七はおそらくこのまま黄泉に旅立つとわかるだけに反論の余地がないと気づいてしまったのだ。

 黙り込んだ源之丞を確認して弥七はゆっくりと体を起き上がらせ正座し、源之丞に相対する。
 それに合わせるかのように源之丞も父に対して姿勢を正し向き直る。

「天霧源之丞よ。これより輝近てるちかと名乗るがよい」

「天霧源之丞。元服名、確かに受け取りました」

 これにより源之丞は、輝近と名乗ることになる。この輝近という名前は戦国乱世において、火鹿かじか流免許皆伝の腕を収めた大名であり、その最後は家臣の裏切りによって生涯を閉じた大名である。
 これだけを聞くと縁起の悪いようにも聞こえるが、かの大名は神刀大名とも言われ、夜間に行われた家臣の裏切りの際、宝物庫にある三十本近くの名刀を長い廊下に次々と突き刺し寝間着姿で敵兵を迎え撃った猛者でもある。
 すぐに首をとれると考えていた家臣だったが、輝近の首をとったという報をきいたのはすでに日が高くなってからの事だ。
 現場に赴いた家臣が目にしたのは山のような死体と大量の血。そして刃こぼれしぼろぼろになり折れた名刀、宝刀の類であった。
 当時、戦において使われていたのは主に槍と弓で、刀というのは最後の護身。あるいは首をとるときにだけ使われる代物であり、ましてや刀で身につけている鎧を切り裂くなど並外れた技量の持ち主でないとできる技ではない。できたとしても刀のほうが持たないのである。
 しかし、輝近はそんな既成概念を吹き飛ばすような戦いをしてのけ、当時の人たちを驚かせたのだ。
 だが、輝近がどのように戦ったのか詳細な記述はなく、また火鹿流も戦国乱世の波にのまれ伝承するものを失い今には伝えられていない。

「それにしても輝近ですか……あれほどの者と同じ名前というのが少し気後れしますね」

 輝近の伝承を思い出しながら苦笑する。
 父が何を考えてこの名を自分に授けたのかその意図がさっぱり見えない。しかし弥七は名を与えるとまた寝具に横たわり静かに目をつむる。

 きっと無理をしたのだろう。そう考えて父に名の意味を問うような無粋な真似はすまいと輝近はそっと部屋を出た。
 部屋を出る瞬間に背に声がかかる。
「お前の人生だ。これからは天涯孤独の身になる好きに生きろ」


 そしてその夜、弥七は静かに息を引き取った。最後に自分の務めを果たし満足した安堵感が気をゆるませたのかもしれない。

 輝近は天霧家の菩提寺である新福時に父の遺体を渡し弔ってくれるように頼む。

「弥七はいったか……まったく若い者が先に行くというのはどうも忍びないな」
「父が若い……ですか」

 菩提寺の和尚は不可思議に問う輝近の疑問に顔をほころばせる。

「わしから見れば息子のような年じゃからな。お前さんなんて赤子も同然じゃわい」

 年齢不詳の新福寺の和尚。いったいいくつなのかそれを正確に知る者はいない。中には戦国の時代から生き抜いているというものもいれば、戦国で散っていった者達が形を無したのがこの和尚というものもいる。とにかく長生きしていることには間違いない。そんな人物から見れば確かに自分は赤子も同然だろう。腹を立てることもなく妙に納得してしまった。

「それでお前さんはこれからどうするのだ?」
「強くなろうと思います」
「ほっ。この天下泰平の世において強さを求めるか……家の役目はどうするのだ?」
「藩にはすでに父が亡くなったむねを伝えております。このまま何事もなければ無事に家を引き継ぐこともできますが……」
「何やら悩みがあるようじゃな」

 よくここで刀の修行に打ち込んでいた輝近。
 弥七が元気だったときは弥七からよく手ほどきを受けていたものである。他の若者が遊んでいるときにすら一心不乱に刀を振り、日が暮れても家に帰ろうとはしなかった。

「藩を……国をでて外の世界を見分してみたいと考えています」
「藩ではなくこの国をか……?」

 輝近の紡いだ言葉に和尚は言葉をなくす。藩を抜けるのでさえ大仕事なのに国を抜けるともあればさらに困難を極める。
「なぜそんなに強くなりたい?」
「理由なんて特にありませんよ。ただせっかく身につけた力がどこまで通用するのか試したいだけです」
「天下泰平の世の中……だが、お主のようなにはつまらん世の中なのかもしれぬな」
「そうですね。人を斬ることが出来ないなんて退屈ですよ」

 のんきそうな顔で物騒な言葉を平気で言う。相変わらず少々危険な思想を持っているなと和尚は苦笑する。昔、「なぜ人を斬ったら罪に問われるのか」と本気で聞いてきた子供は多少年月を経ても考え方は変わっていないようである。

「それに父は好きに生きろと言いました。国抜けしても誰にも迷惑が掛からないのであればそれをしようと思います」

「仕方のない奴だな……ちょうど異国の商人がこの藩に立ち寄っている。そのものと話をつけてやろう」
 止めても考えを改めることなどするようなものではない。無理にすればそれだけ多くの血が流れることになる。なれば穏便に事を進めるのが一番だと和尚は考えた。
 輝近がいなくなっても大した騒ぎにはならない。また適当に噂話を流し父の死の衝撃で人知れず首をくくった。あるいは神隠しにあったなどと吹聴しておけば気に留める者もいなくなるだろう。

 そう考えて輝近の国抜けを手伝うことにした。

 話はとんとん拍子に進み、輝近は異国に行く船に乗ることとなる。言葉の違いに苦心するも和国語が堪能な異国人がいたのでかなり助かった。

「ところでこの船はどこに向かっているんです?」
「……呆れたな……むしろどこに向かうか目的もないのにこの船に乗り込んだのか?」
「行先はあまり興味はなかったので。人を斬れる場所ならどこでもよかったんですけどね」

 輝近の言葉に彼は一歩後ずさる。危ない奴と断定したのだろう。
「やだなあ。露骨に距離なんかとらないで下さいよ。ルークさん」
「いやとるだろ普通……平和そうな顔して物騒な言葉を言うなよ。和尚から扱いには注意してくれとは言われてたが……」

 ルークと呼ばれた中年の男性は警戒した表情のままさらに距離をとる。いきなり人を斬りたいと平然と言うこの少年をこの船に乗せてよかったのかもう少し慎重になるべきであったと少なからず後悔したのだ。
 まあ何かあればこの船には屈強な海の男たちが何人もいるので取り押さえることは出来るだろうから特に問題はないだろうと気を取り直して相手の質問に答えることにした。

「向かっている先は迷宮都市パルティア。多くの冒険者が名声と富を求めて向かう都市だよ」
「めいきゅうとし? なんですか?」
「まあ簡単な説明をするとだな……」

 とそこへ騒ぎが起き、船が揺れる。二人の体もその揺れに合わせてぐらつき、ルークはあわや海に落ちると思われた寸前、輝近の手が伸びて助かった。

「す、すまん……」
「いえ、どういたしまして。それより何事ですか?」

「わからん……先頭のほうが騒がしいな……行ってみよう」

 二人が甲板の船首部に足を運ぶとそこには大小さまざまな魔物と海賊の混成部隊が船員を襲っていた。
 戦闘はすでに開始されていて、不意を受けた商船側が劣勢状態を強いられている。

「この海域で海賊だと? 聞いてねえぞ! ンな話!」
 ルークが悪態をつきながらも曲刀を振り回し素早く応戦する。

「輝近! てめえはどっかに隠れていろ!」

 年少の輝近を気を使っての事なのかこの場から逃げるように指示をする。逃げると言っても限られた船内である。いずれ限界は来るだろう。

 ただの時間稼ぎにしかならないとわかっていてもルークはそう指示をせずにはいられなかった。
 全身鱗に覆われた魔物の鋭い爪がルークを襲う。

「舐めるな!」
 ルークの曲刀と相手の爪が火花を散らす。素早く曲刀を引き横一線、見事に相手の胸板を切り裂き絶命させる。

「てめえら! 海賊ごときに浮き足立ってるんじゃねえ! 気合を入れろ!」
 ルークの一括により船員たちが士気を取り戻し素早く陣形を組みなおす。不利だった状況がわずかに改善するが初撃の痛手が効いていて、有利な状況には持っていけない。

 このままではじり貧になる。仲間の船員たちも魔物と海賊の両面からの攻撃で次々と倒れていく。


「あはははは! 名高いレムルナント商会の船もこれで終わりよ。ずっと付け狙っていたかいがあったわ」
「てめえは……なんでここにいんだよ! 縄張りがちげえだろうが!」

 顔見知りなのだろうか、相手の頭と思われる人物を見てルークは舌打ちを漏らす。本来であればこの海賊はこの海域に出没しないのだが、以前ルークが指揮する商船を襲い逆に返り討ちにあった海賊である。

 相手の言葉から復讐の機会をずっとうかがっていたのだろう。ご丁寧に魔物まで飼いならしての周到さである。

「以前の仇をとらせてもらうわよ。さあお前たち殺しつくせ!」

 海賊たちからは「おおお!」という声が、魔物たちからは何とも言えない奇声が発せられる。
 リザードマンの剣が船員の一人を襲う。鮮血が舞い上がり、断末魔の叫びをあげながらその船員は血だまりに伏す。

「ギルス! てんめえ! よくも!」
 ルークが怒りとともに曲刀を一閃。しかしリザードマンの盾により弾かれる。
 体勢を崩れ、その隙を見逃さずリザードマンが手にしていた剣を振りかざす。

「くそったれが……」
 死の瞬間、感覚が研ぎ澄まされ相手の動きがやけに鮮明に映る。がどうすることもできない。脳内の感覚に体が追い付けるわけではないのだ。ゆえに相手を睨みつけるしか彼には残された手段はなかった。

 しかし、武器を振り上げたリザードマンの腕が、ことりと落ちる。目を疑ったのはそれを目の当たりにしたルークである。前触れもなくそして見事なまでに綺麗な切断面だけが残されたその腕から大量の血が流れ始める。続いて首が切断され天高く舞い上がった。

「な? なんだあ?」
「何を勝手に死に急いでいるんです。ここで死なれたら僕はどうなるんです?」

 そう声をかけたのは先日この船の客人となった輝近であった。この場においてもおっとりとした口調に緊張感のかける顔つき。思わず力が抜けそうになる。

「輝近! 隠れていろって言ったはずだろ!」
「死にそうな目に合っていたくせに何を言っているんですか? あなたは……」

 年少の少年にそういわれて思わず口をつぐんでしまう。危ないところを助けてもらったのは事実なのだ。しかし、助けてもらった割には輝近は武器を抜いた様子がない。刀と言われている武器は相変わらず腰のさやに納刀されたままである。なのにどうやってリザードマンを切ったのかさっぱりだ。

「それにこんなにおいしそうな獲物がたくさんいるのに黙ってみていられるはずがありません」

 輝近のおっとりとした表情に妖しげな、それでいて冷酷な笑みが刻まれていく。命知らずの海の男であるルークからして背筋に怖気が走るようなそんな表情である。

「全員、斬っていいんですよね?」
「あ、ああ……だけど無理はするなよ」

 輝近はルークの言葉には返事をせずに、敵の中心部へと歩き出す。ゆっくりとした歩き方だ。せわしなく動いている戦場には似つかわしくない動きである。

 海賊の一人がそんな輝近に斧を振り上げ一気に振り下ろした。

「おらよ!」

 余計な言葉はかけずに気合を発する声のみである。それだけ彼は戦いになれている人物なのであろう。
 しかし、すっと身を引かれその攻撃は相手には当たらなかった。
 決して速い動きではない。むしろ遅いと言ってもいいくらいの動きである。その証拠に相手の姿をしっかりととらえていた。なのに初撃があっさりとかわされたのだ。
 そして彼は自分の体を真上からとらえることになった。それも相当な距離からである。なぜ自分は自分の体を上から見ているのか、疑問に思いながら意識は闇にのまれていった。

「初手の相手としてはいささか物足りないかな……」

 首のないすでに死体となっている人物への感想を述べて、輝近は周りを見渡す。そこは敵の中心部であり、見渡す限り敵だらけだ。後ろのほうでは味方が戦っている音が聞こえてくる。

「それでは、天霧源之丞輝近……初陣と行きますか」

「グギャァ!」

 空から鋭いくちばしを突き出しながら大きな鳥が輝近に向かって一直線に舞い降りてきた。

「火鹿流抜刀術初伝が一つ……風鳴かざな」り」

 キインと甲高い音がはっせれたと思った瞬間、鳥が縦に引き裂かれていた。その音を聞いたものはそちらに注意を向けるが別段変わった様子はない。ただ鳥だけが引き裂かれ戦場に身を投げていた。何が起きたのか近くにいたものは幾度か瞬きをする。

 若い見慣れない衣装に身を包んだ男がいつの間にか自分達の近くにいた。仲間の一人が斧を振り上げたと思ったら首が切断され、鳥が空中から襲いかかったと思ったら真っ二つに引き裂かれている。

 若者は別に武器を抜いた様子など一切見せない。ただのその場にたたずんでいるだけである。

「てめえ! 何をしやがった!」

 一部始終を見ていた海賊が、声を荒げて手斧を投げ飛ばす。すさまじい勢いだ。並の剣で防いだとしてもその剣ごと切り裂かれると思われるほどの威力である。

「火鹿流初伝二の太刀……一閃」

 輝近は腰を落とし、斧に────正確には斧を投げた人物────向かって刀を抜刀する。すさまじい速度で抜き放たれた刀からそのまま剣閃が飛ばされ斧を切り裂き、斧を投げた人物すら両断した。

 ざわりと周囲が注意を向ける。船員と戦っていた海賊たちも手を止めるほどだ。船員たちも輝近の使った不可思議な術とも思えるような力に目を奪われた。

 そんな周りの注目など気にせず輝近は自ら繰り出した技の度合いを確かめる。

「ふむ……どうやら火鹿流は外の世界でも充分通用するみたいだね。ならばどこまで通用するのか……わが先祖から名をいただいたからにはそれにふさわしい戦果を挙げなければ……おそらく父もそれに期待してあのような事を言ったのでしょう」

 なれば火鹿流の名を天下に知らしめる。家臣の汚い裏切りによって死んだ神刀大名。記述が少ないという事でその強さを疑問視する者もいる。いやむしろ疑問視している人たちの声のほうが大きいと言ってもいいくらいだ。
 それを黙らせるには強さを証明しなければならないが天下泰平の世で強さを証明するのは難しく、また証明したからと言って重く用いられるとは限らない。「火鹿流の使い手です」などと言っても信用してもらえるはずがない。
 ゆえに、外の世界に飛び出す選択をしたのだ。和国には多くの異国人が訪れ商売を行っている。異国で名を広めれば必ず和国にもその名がとどろく。ゆえに外の世界に飛び出す決意をしたのだ。
 もちろん彼の個人的な趣向も含まれている。常人からしてみれば少々危うい考えの持ち主。天下泰平の世では自分の趣向が満たされない。人が斬れる合法的な場所を求めてのことでもあるのだ。

 そして今の戦場は自分の趣向を満たすまさにごちそうである。異形の怪物? それがどうした。わが国では怪物退治などすでに子供の児戯に等しい行為だ。実際はそうでもないが……少なくても輝近にとってはそういうことになっている。

 魔物が相手だろうが気後れすることなどない。むしろ強敵であればあるほど強さの証明が出来る歓喜に打ち震えることになる。

「肩慣らしも済みました。天霧源之丞輝近! 推して参る!」

 そうして輝近は口元を釣り上げ鮮血をまき散らすことに喜びを見出していくのであった。

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