最後の伊賀者 司馬遼太郎
稀代の歴史小説作家、司馬遼太郎の作品はかなり読んでいます。
最初に手に取ったのは『梟の城』だったかな、とにかくすごく面白くて、一気に読み進めてしまいました。
余談ですが、私は今作で何回「余談だが~」というフレーズが出てくるか数えていましたが、ほとんどなくて残念でした。たしか一回きりです。
司馬遼太郎といえば壮大な歴史小説家として注目されているように思いますが、普通の作家としてもかなり上手かったのじゃなかろうかというのが私の持論です。
文章も読みやすいし、なによりキャラを立てるのがうまい。
今作も短編ながらすぐにそれぞれのキャラを把握することができ、かつ記憶に残るような濃い性格をしているという素晴らしさです。
そして注目したいのが戦闘描写。
特別なことを書いてるわけじゃないんですよ。派手な言葉を使っているわけでもなければ、何行にも渡る息詰まる戦闘であるわけでもない。
短いのに、小説ならでは技巧で想像力をかきたてさせられる戦闘描写は、私も見習いたいものです。
意外と短くとも、シチュエーション次第でカッコよくなる小説の戦闘。理想ですね。
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表題作をはじめとした(厳密にはたんに『伊賀者』ですが)短編集でした。
忍者ものばかりかと思ってたら案外そういうわけでもなくて、全体的に楽しめました。
一番記憶に残ったのはやはり『伊賀者』ですね。
忍者として、変装して暮らしているうちに忍者でなくなってしまっていた……というちょっと皮肉なストーリー。
役になりきっていたからこそ忍者としての職務を全うできなかった。
なんだか切ないですよね。忍者として生きるとはどういうことなのか、考えさせられます。
そのほか、『けろりの道順』などが鮮烈でした。
好きな女を太閤秀吉に連れていかれ、ずっと気にかけていながらも素振りには出さない。そして、結局一度しか抱かれずに終わってしまったということを聞いたとき、なんとも言い難い悲しさが生まれる。
全体的に世のなか、そううまくいかないんだぜという皮肉な感じがあったのかもしれません。
歴史小説家だからこそ悟った、人生観なのかなあとちょっとだけ思います。