中国行きのスロウ・ボート 村上春樹
ついにやってきました、村上春樹の作品です。
個人的に彼は日本歴代屈指の作家だと思っています。もちろん人によって評価は分かれるでしょうが、あの文体と作品の雰囲気を表現できるのはいまだかつて村上春樹だけではないでしょうか。
なにがすごいって、深く読み込めることなんですね。
一見するとただの意味不明にも近い小説です。
ただ、書かれた当時の時代背景やら作者の境遇やらを考慮すると、不思議にメッセージが浮かび上がってくるんですね。
私自身は作品論を支持しているので作者がどうのこうのというのはあまり好きじゃないんですが、彼の作品においては作者の意図を読み取っていかないと迷路に迷い込んでしまいます。
たとえば「ひつじおとこ」がいるとして、それをどう解釈すればいいのでしょうか――まず、ひつじおとこってなんでしょうね?
そんなことが気になった人はまず短編から入ることをお勧めします。
村上春樹の世界に慣れるためにはちょうどいい入門編になると思います。個人的には彼の作品は長編のほうが優れていると感じているので、これのあとに各長編を読んでみるのもいいでしょうね。
さて、この『中国行きのスロウ・ボート』は村上春樹の初期の短編集です。
表題作を含め、七つの短編が収録されています。私がとくにいいなと思ったのはそのなかでも『土の中の彼女の小さな犬』と『シドニーのグリーン・ストリート』です。
後者は主人公が私立探偵という彼には珍しい設定です。
そしてひつじおとこが出てきます。
……ちょっと興味が湧いて来たでしょうか?
――――――――――ここからネタばれあり―――――――――――――
村上春樹は短編よりも長編のほうが好きです。
彼の小説は意味不明な部分も多いけれど、ときどき綺麗な文章が混じっているから好きです。なんともショボイ理由ですね。
そして私は雨の降っているシーンというものが大好きです。
仮面ライダークウガの最終決戦に向かう前とか、アニメ版涼宮ハルヒの憂鬱のサムデイ イン ザ レインとか。
しとしと雨が降っている中の、ちょっとした陰鬱とした気分と、その前に待ち受けている事件と……そういうのが堪らなく大好きです。
そして『土の中の彼女の小さな犬』は見事にその雰囲気を表現してくれました。
正直言ってその前の短編はあんまり完成度高くないし、面白くもないなあなんて感じてたんですけど、ラストふたつに入って評価を改めました。
とりあえず今回は『土の中の彼女の小さな犬』だけ感想を述べます。
あらすじは、簡単にいうと雨の降り続く中ホテルに缶詰めの主人公が、ある女の人と出会うという話です。その女性は昔飼っていた犬を預金通帳といっしょに埋葬したのですが、一年後にとある事情で掘り返してみると、思ったよりも感傷がなかった。それなのに犬の死体の匂いが手からとれない……。
ちょっと切ないですね。
まずは主人公が彼女とケンカして、雨の食堂に向かうシーン。
いいですねえ。哀愁漂ってますねえ。そこに現れる、ちょっときれいなお姉さん。もう恋の予感がぷんぷんです。
私の文章力では表現できないくらい雰囲気が良いです。
しかし、どうしてまた犬の匂いは手からとれないんでしょうね。分かりそうで、ちょっと言葉にするのは難しい感じがします。
あんなに悲しかったはずの死が、どうして不思議と悲しくない。
そこに関連性があるような気がしますね。背負わなきゃいけなかったはずの悲しみをあっけなく失ってしまった罪悪感がずっと残っているような――ま、文学の解釈は自由です。
というわけで今回はこの辺で。
ペース遅いですね、相変わらず。頑張ります。




