えらばれなかった音たち
殺風景な会議室に突然呼ばれたと思えば、目の前の大人が勢いよくパンッと手を叩き、嬉々として叫んだ。
「ベストアルバムを出しましょう!!!」
「はっ?」
「ほら、来年周年イヤーでしょう?だからここでRiKUの名刺代わりになるように、ベストアルバムを出したらいいんじゃないかって。ちょうど節目だし、これでさらに共にスターダムにのしあがろう!!」
「僕、そういうの出すつもりありませんけど」
視線を合わせず、爪をいじりながら答えた。
「まぁ、そう言わずに。選曲はRiKUに任せるから。…それにさ、あえて言わせてもらうけど、今まで君の自由にやらせてきたよね、楽曲とか。でも、メジャーデビューしてるんだし、そこはもう少しこちらの都合を汲んでくれてもいいんじゃないの?ビジネスなんだから。」
僕はぐうの音も出なかった。大人の正論は時に暴力だ。
帰りの車の中、僕は今までリリースした楽曲を聴きながら「はぁー」と大きな溜息を漏らした。
「今度はどうした?悩める天才よ。」
「麻美さん、茶化すのやめてくださいよ。こっちは真剣に悩んでるんですから…」
彼女は僕の幼馴染の姉で、今はマネージャーをしてくれている。
彼女に事の経緯を話し、どうするのがいいのかを問うた。
「あぁ…。そりゃ作り手からするとどの曲も選べないよな〜。何か基準はないの?」
「特に。13〜14曲程度で、長さは74分ってことしか」
「そっか…。あっ、この曲は?これ私大好きだよ」
「これは僕も好きだし、思い入れはあるけど…。ライブでもあまりやらない上にアルバム曲だから、多分選ぶと外されると思う…。」
言ってて胸が張り裂けそうだった。
この曲は…と言いかけたが、麻美さんの前なので辞めた。
「本当なら全部入れれればいいのにね」
「それだ!ありがとう!麻美さん!」
彼女のこの何気ない言葉に僕はかすかな光を見出したような気がした。
「いや、素晴らしい!!やっぱりRiKUは最高だよ!!」
担当が僕のベストアルバム楽曲案を見て、目を潤ませながら喜んでいる。
そんな彼の前に僕は一枚の企画書をスッと差し出した。
僕は大きく息を吸い、意を決して発した。
「このベストアルバム、2枚組にしませんか?」
これが僕なりの“えらばれなかった音たち”への誠意だ。




