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第4話 ガルドの証言

◆ユアン・リーフ


「お、揃ってるな」

 黒い外套の男、ヴァン・サンライトが、遅刻を悪びれもせず部屋に入ってくる。


 彼はまず室内を一周、視線だけで撫でた。

 ガルド、レオ、マルタ、シェナ。……そしてボク。


「よし。時間が無い。今から大事なことを言うぞ」

 酔客然としていた昨夜とは違い、真剣な面持ちでヴァンさんは続けた。

「追放で揉めるとギルド内でのパーティの評価は下がり、昇格審査にも響くんだ。お前ら真剣に……」


「ヴァン」

 カナンさんが優し気な声で、ヴァンさんを遮り、その名を呼んだ。


 次の瞬間。

 ——ゴン!!

 乾いた音がした。


「いっ……!」

 カナンさんの拳が、ヴァンさんの頭のてっぺんに落ちている。

 ヴァンさんが情けない声を上げ、両手で頭を押さえてしゃがみ込む。


「遅刻、したよね」


「そ、それがその、寝坊をしてしまいまして、びっくりして、また寝て……」


「謝れ」


「か……カナン様、ごめんなさい! お許しを!」


「謝る相手が違う!」


 ヴァンさんは頭を撫でながら態勢を変え、床に正座をした。

「皆様、申し訳ありませんでした!!」

 深々とボクたちに土下座する。


 カナンさんがガルドに向き直る。

「ごめんなさい。出鼻をくじかれた気はしちゃうと思うけど、こんなんでもヴァンは悪い奴じゃないから」


 ヴァンさんは咳払いを一つした。

「では、改めて。蒼天の牙のリーダーは……ガルド、あんただったか。いくつか確認させてくれ」


「答えられる範囲でならな」


「結成の経緯だ。どういう流れで今の形になった?」


 短い沈黙の後、ガルドが口を開く。

「最初に立ち上げたのは俺だ。元は単独で動いていたんだが、組んでやることに決めたんだ」


「理由は?」


「合理的判断だ。俺に剣の腕があったって一人じゃ限界があった。ただの傭兵で終わりたくなかった」

 視線が横に動く。

「最初はシェナと始めた。その癒しの力が欲しかった。それからレオ、マルタを加えた。最後にユアンだ」


 ヴァンさんは脚を組み直した。

「次だ。お前たちはA級に上がろうとしている。立派なもんだ。どうやってそこまで来た?」


 ガルドは少し考え、答える。

「俺たちはC級に上がったが、そこでくすぶっていた。依頼も小物ばかりだった」


「転機は?」


「ギルドに無理を言って、難度の高いダンジョンに挑んだ。失敗もあったが、踏破できるようになった。そこから評価が上がった」


「そいつは随分と無茶をしたもんだ」


「合理的判断だ。俺たちの実力ならば十分攻略可能だった」


「とはいえだ。パーティの成長曲線は緩やかだったわけだ」

 ヴァンさんはガルドを挑発するようにそう結論付けた。ゆっくりと視線を巡らせている。

 ボクは思わず背筋を伸ばした。


「具体的な加入時期を聞こう。時系列が欲しい」


 ガルドが親指を立てる。次に人差し指を。

「まずシェナ。そこから三ヶ月後にレオ。さらに半年でマルタ。……ユアンはその後だ」

 ガルドは最後に小指を立て、また握った。


「それでは、貴方たち蒼天の牙はユアン加入後にB級へ上がったのですね?」

 ユリウスさんが空中に年表を展開する。日付と依頼履歴が並ぶ。そんなデータも持っているのか。


「さっきも言ったが、あくまでも、昇格は俺たちの実力が上がった結果だ。戦術理解も、装備も、連携も向上した。ユアンの力ではない」

 ガルドがそう断ずると、レオが頷き、マルタも同意する。


 どうやら“俺たち”の中には、ボクはもう含まれていないようだ。


「なるほどねぇ」

 ヴァンさんは短く応じ、ユリウスさんは淡々と記録を続ける。

「加入順序、昇格時期、リーダーの主観的評価は“追放対象者のパーティへの貢献度は低い”。こんなところですね」


 ヴァンさんが一拍置く。

「そもそも、お前がユアンをパーティに入れようと思った理由は?」


 全員の視線がボクに集まる。ガルドは短く息を吐いた。

「そいつから声を掛けてきたのさ」


「ほう」


「加入させてくれ、と。実力は正直、よくわからなかった。前のパーティを抜けたばかりで、付与魔法が使えると言った。それで受け入れてやったんだ」


 ヴァンさんは頷く。

「他のメンバーにはお前が声をかけたんだよな」


「ああ。俺からだ。シェナも、レオも、マルタも戦闘を見て、俺が必要だと判断した。ユアンだけは例外だ」

 ガルドの声は冷たい。


「確認したい。ユアンを追放する意思は、もう変わらないのか?」


 ガルドはヴァンさんを見据えた。

「逆に、なぜ追放しないという選択肢があるんだ?」


 室内の空気が、わずかに重たくなる。


「俺たちの実力はA級に相応しい。A級になるなら1人を切らなきゃならない。切るならユアンしかいない。全ては合理的判断だ」

 感情をあえて排したような言い方だった。ユリウスさんがすぐに指を動かし記録した。


「最初から結論は見えている。こんな聴取に何の意味がある!?」

 ガルドの声量が上がる。


 ユリウスさんが追記する。

「心拍数上昇。“合理的判断”を繰り返すのは、熟考を避ける感情的で単純な思考の人間が持つ特徴である、と記録します」


「俺をバカにしているのか!」

 机を叩く音が室内に響いた。シェナが体を強張らせる。

「時間の無駄だ。帰るぞ」


「待て」

 ヴァンさんが軽く手を上げる。


「ユリウスはこういうヤツなんだ。許してやってくれ」

 場を和らげるような声だった。


「あんたの意見はわかったよ。だが、蒼天の牙はお前だけのものじゃないだろ? 他のヤツの話も聞かせてくれ」




読んでいただき、ありがとうございます。

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本作は毎日19:00更新予定です。

明日14日19時に

第5話『追放と失恋』を更新します。

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