表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

最終話 追放代行団 リザードテイル

◆リザードテイル


 リザードテイルの事務所には、やわらかな陽光が差し込んでいた。


 カナンが掃除のために窓を開け放っているせいで、いつもより部屋の中は明るい。風が入り込み、カーテンがゆるく揺れている。


 机の上には書類が積み上がり、椅子の背にはコートが無造作にかけられている。部屋の隅には空になった酒瓶がいくつも転がっていた。その中央で、カナンが箒を動かしている。


「ちょっと、邪魔だからどいて」


 苛立った声で言われ、ソファに寝転がっていたヴァンが顔を上げた。

「えー」


「えー、じゃない。掃除してるの、見えないの?」


 ヴァンは渋々足をどかす。箒がその下を通り過ぎ、床の埃が集められていく。ヴァンは周囲を見回した。


「しかし誰だよ~、こんなに部屋を散らかしたの」


 カナンはぴたりと箒を止めた。

「お前だ!」

 勢いよく指を突きつける。


「見なさい、この酒瓶の山!」

 部屋の隅を指差す。積み上がった瓶が、かすかにカチャリと音を立てた。


 ヴァンは一瞬だけ考えるような顔をして、それから頷いた。

「……なるほどな」


「納得するな」

 カナンは深くため息をついた。しばらく掃除を続けてから、ぼそりと言う。


「それにしても」

 箒を動かしながら、不満げに口を尖らせた。

「ユアン・リーフの件を解決したことで、ようやくウチの名前がギルド中に知れ渡ると思ったのに、全然依頼が来ないわね」


 ヴァンはソファの背に腕を回しながら答える。

「まあな」


 事務所の奥では、ユリウスが机に向かっていた。顔を上げずに言う。

「僕はその分、自分の魔法研究ができて嬉しいですけど」


 指先が空中のスライドをなぞると、術式図が切り替わる。

「付与術の構造解析は非常に興味深い分野です」


 カナンが振り返る。

「……まだやってるの?」


「非常に貴重なサンプルを観測できましたので」


 ヴァンが苦笑する。

「お前、それ絶対ユアンのこと言ってるだろ」


「否定はしません」


 あの夜の後、ユアンは自ら蒼天の牙のもとを訪れ、彼らに頭を下げた。

 翌日――自分の力を偽っていた天才付与術師ユアン・リーフの名は、ギルド中の話題となった。

 そしてユアンは、リザードテイルのもとからも、ギルドからも去っていった。


「パーティのお誘いの件なら辞退させていただきます。罪を償った後、ボクは自分のパーティを持つリーダーになります。本音でぶつかり合える、本物のパーティを作るつもりです。ヴァンさん、あなたたちのようなね」


 誰に追放されたからでもなく、誰に誘われたからでもなく、ユアンは、自分の道を歩き出した。


 カナンは箒を壁に立てかけ、思い出したように言った。

「そうだ。ユリウス、あのときの女装、もう一回見せてよ。超可愛かった」


 空中の術式を操作していたユリウスの指が止まる。

「お断りです。二度とやりたくありません」


 ヴァンがソファの背にもたれたまま笑う。

「そうか? 結構ノリノリに見えたぜ?」


 カナンが即座に頷く。

「ねぇ、ユーリちゃん! お願い!」


 ユリウスはゆっくりと顔を上げ、咳払いをした。

「それよりも、僕が女装する意味はあったんですか?」


 ヴァンはあっさり答えた。

「いや? 特には」

 一瞬、部屋が静まり返る。ヴァンは悪びれせず、続けた。

「ユアンを釣り出すためとは言ったが、あれは嘘だ」


 ユリウスの目が、すっと細くなる。

 空中に浮かんでいた術式の一つが回転し始めた。

「……攻性術式、展開します」


 静かな声が部屋に響く。ヴァンがソファから飛び起きた。

「バカ! やめろ! お前、事務所まで壊すつもりか!」


 カナンは腹を抱えて笑っていたが、はっとして慌てて一歩後ろへ下がった。

「ちょっと待って、せめて私が壊した外でやりなさいよ!」


 魔法陣がさらに明るく光る。部屋の隅の空き瓶が、震え始めた。


 そのときだった。


 コン、コン。


 不意に、事務所の扉を叩く音が響いた。


 三人の動きが同時に止まる。


 回転していた術式も、ユリウスの指先一つでぴたりと静止した。


 全員が顔を見合わせる。


「……今の」

 ヴァンが首を傾げた。

「ノック、だよな?」


 もう一度、控えめな音が鳴る。

 コン、コン。


 ヴァンが立ち上がり、扉の方へ歩く。ドアノブに手をかけて、ゆっくり開いた。


 そこには、まだ若い冒険者が立っていた。少し緊張した様子で、帽子を握りしめている。

「あの……」

 男はおずおずと口を開いた。

「パーティの追放の件で、相談したいんですけど……」


 その言葉を聞いた瞬間、部屋の空気が切り替わった。


 カナンは何も言わずに奥の流し台へ向かう。棚からカップを取り出し、湯を沸かし始めた。


 ユリウスもまた静かに指を動かす。空中に浮かんでいた術式が消え、代わりに淡い光の記録パネルがいくつも展開される。

「相談記録、開始します」

 淡々とした声が部屋に響く。


 ヴァンはそれを背に受けながら、ゆっくりと口角を上げた。


「……ああ」


 そして、いつもの調子で言った。


「その追放、俺たちに預けてもらおうか!」



読んでいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をしていただけると励みになります。

感想もいただけたらとても嬉しいです!


最終話までお付き合いいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

また彼らの続きを書きたいなと思っていますので、そのときはぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ