風の子と、ドラゴンと、世界の扉
ドラゴンは目を見開いた後、その目をゆっくり細める。あの鎖を持てる者がいるとは。長生きしてみるものだな。だが、あのようなものに巻き付かれた者は、いったい何を思うのか――
一方、鎖が巻き付いた右腕をあっちにやり、こっちにやりとためつすがめつ観察している。もちろん、満面に笑みを浮かべ、目を輝かせながら。
「これ、軽いね!」
聞いているかどうかもわからないドラゴンに語りかける。
実際、重さは感じない。
それほどの鎖であれば、重量はかなりのものとなるはずだ。なのに、まるで何もつけていないかのように、だがしっかりと腕に絡みついている。
ドラゴンは思い切って、その問いかけに答えてみることにした。
「あー…、それは…、もう…、取れないぞ」
鎖が付いた右手をおろし、目を丸くしてこちらに向ける。
そして――
「へぇ!そうなんだね。うーん…じゃあ、もう家に帰れないかな?」
困ったような、それでいて嬉しそうにドラゴンに返す。まるで、ドラゴンと会話をするのは当たり前なのだというように。
「あぁ…まぁ、そうだな。我は…その、厄災といわれているしだな…」
だんだんと語尾が小さくなっていく。
「やくさい?ああ!うーん、でもそんな風には見えないね?」
語り継がれてきた赤い厄災の話を思い出したが、目の前にいる小振りなドラゴンは、とてもじゃないけどそうは見えない。
「何を言う!我は!人々に恐れられた!厄災ぞ!」
沽券にかかわる。ここはしっかりとくぎを刺すべきだろう。
「このような!サイズに!なっても!力は!変わらんのだ!」
ぜぇぜぇと息を切らし、主張すべきことを主張する。
「おお!」
輝いていた目をさらに輝かせ、ドラゴンの全身に目を走らせる。
「すごいね!」
賞賛を送る。
「語彙が少なすぎるだろう!」
本当に褒められたのか。ドラゴンは脱力し、心の中の困惑と向き合った。もっと、何かないのか?なんなんだこいつは。だが、
――悪くない。
「家に帰れぬのなら、旅にでも出てみるか」
唐突なドラゴンの誘いに、逡巡したのは一瞬だった。
「うん!」
いくら風のような彼でも、旅に出るとなれば家族は心配するだろう。これまでも何日か帰らないことはあったが、それでも数日だ。
だが、その家族の心配は少しだけ彼の心を重くしていた。
もう18歳。成人の儀式も済ませている。それに、彼が見ていた世界を、実際に目にすることができるのだ。
旅に出ない理由なんてない。
「行こう。世界を見る旅に!」
そうして、一行は旅に出ることにしたのだった。




