虚身の村
「ねぇ、ドラゴ…ここでいいんだよね?」
閑散とした通りを見渡しながら、フウライが尋ねる。
廃神殿になっているとはいえ、神殿へ行くための村にしては人通りが全くないのだ。
「あってるな。山の向こうに神殿がある。」
「……崩れてるが。」
神殿のありかや状態が分かるのか、ドラゴが答える。
王都を出てから途中、宿場町に泊まりながら山間の村の情報を集めた二人。
街とまではいかないまでも、にぎわっていると聞いていた。
通りには食堂や衣料品店などが軒を連ねているが、いずれも開いている様子はなかった。
ふと、衣料品店の横から人影が飛び出してきた。
大きな医療用バッグを抱えているところを見ると、医師か薬師のようだ。
彼はこちらに気が付くと、目を丸くして立ち止まる。
「な、なんだろ。」
フウライがたじろぎ、ドラゴと人影、交互に視線を移す。
「さあな。」
ドラゴが答えると、人影が意を決したかのように、こちらに近づいてくる。
つい、とドラゴがフウライの前に出る。
「あの、ドラゴン…ですよね?」
人影はおずおずとこちらに話しかけてきた。
「あ、そうなんです!彼はドラゴ。僕はフウライです。」
ほっとしたのか、フウライが紹介する。
人影はさらに目を丸くしてから目を細め、にっこりと笑う。
「ようこそ、ドラゴさん、フウライさん。」
「僕はこの村で薬師をしています。驚かれたでしょう。こんな……」
薬師はいったん言葉を切ってあたりに目をやる。
「いつもはもっとにぎわっているんです。」
「……ただ、病気が蔓延してしまっていて。」
言いづらいのか、目線を下に向けて唇をかむ。
「ウツミムシか。」
ドラゴが薬師に問いを投げかける。
薬師ははっと目を見開き、ドラゴに顔を向けた。
「ウツミムシ?」
フウライは聞いたことがないのか、横からドラゴに問いかける。
「虫だ。刺されると、少し希望を失うんだ。」
「一度や二度ならすぐ治るが、何度も刺されると病気になる。」
胸に発疹が出て、何もできず、弱ってそのまま…。
ドラゴが目を伏せてフウライに説明する。
そんな虫がいるのかと、フウライは目を丸くする。
自分が住んでいた村では、そんな奇妙は虫はいなかった。
「どこかで大繁殖して、村を襲ってきたのです。」
「虫は退治できたのですが、薬草が足りないんです。」
言葉を受け取るように、薬師が続ける。
「もし、もしできるならなのですが。」
「神殿の周りに生えている薬草を、取ってきていただけませんか。」
手を合わせ、拝まんばかりにドラゴに訴える。
「行けない理由でもあるのか。」
神殿なら、自分らで取りに行けば済む話である。
なぜそれができないのか――
「神殿に行くと、ドラゴンの祟りがあると言われているのです。」
「雷に打たれるのだとか。」
何人かそれで亡くなっていると聞いています。とも付け加えられた。
――馬鹿馬鹿しい。祟りだなんて、そんなわけあるか。
ドラゴは内心そんなことを思いながら、フウライを見る。
「…ですが、ドラゴさんならば、たたられることはないかと…。」
「もちろん、報酬はお出ししますし、宿は治療院に泊まってください。」
薬師はそんな言葉で締めくくった。
緊張した面持ちだったフウライは、報酬の言葉に目を輝かせ、ドラゴに問いかける。
「どうなのかな?報酬…宿場町で結構使っちゃったからさぁ…」
ドラゴは少し目を見開くと
「我は構わんぞ。ただ、山奥の神殿は飛んではいけない。」
「木がぎっしりで、降りられないからな。」
翼をバサバサと動かしながら、フウライに答える。
「そもそも、神殿に行こうと思ってきたわけだし…」
いざとなったら、が使えずちょっと意気消沈するフウライ。
それでも、薬草を取りに行くと約束してその日は治療院へ泊まったのだった。




