門を出たあとで
夜が明ける前、東国の使者は“西の王女”の前に膝まづいていた。
「顔を上げて。急ぎの用だと聞いたんだけど?」
打算と欲に満ちた目が向けられる。
「実は、お知らせしなければならないことがあります。」
東の使者は顔を上げ、恭しく語り掛ける。
「東国の宝玉が、市場に流れました。
おそらく二束三文で売られているでしょう。」
東国の宝玉。
その言葉を耳にした途端、西の王女の目が輝く。
「それは本当なの?」
「東国の宝玉が、二束三文だなんて!」
既に手に入れるための算段をしているようだった。
「でも、それをなぜ私に?」
もっともな疑問をぶつける。
何か裏があるかもしれない。
「価値がわかる人のものであるべきです。」
「急がなければ、王国の外へ…たとえば帝国に流出するかもしれません。」
東国の使者はすまして答える。
流通はすべて把握していたはず。
なのに、そのような情報は入ってこなかった。
だが、東の王子が瀟洒なものを手に入れたという話は聞いている。
商人の、誰かが裏切っている。
「急いで、流通経路を調べて!」
西の王女が側近に命を下し、一気に事態が動き出した。
---
一方、宿の支払いができないドラゴとフウライは、出立の準備をしていた。
「ふぁ…んん、えっと、次は神殿だっけ…?西…だよね?」
あくびをしつつ、フウライが次の行き先を確認する。
昨晩――
「おかえりなさい。延長はどうします?」
宿の受付の女性には、宿泊の延長についての話をしていたのだが…
「お金がなくなっちゃってねぇ…」
白ドラゴがため息をつきながら答える。
「あらまぁ、じゃあ延長はなしですねぇ。」
女性はにっこりと答える。清潔そうなエプロンワンピースに、かわいらしい鎖マークのボタンがついている。
「どこにいこっか?ここからだと、北か西だよねぇ。」
次の訪問先を白ドラゴに相談するフウライ。
「ここから西に、ドラゴンを祀っていたという神殿があるらしいですよ。
近くに村もありますから、宿泊もできるそうです。」
ドラゴン、という言葉に目を輝かせるフウライ。
「ドラゴ、ドラゴンだって!知ってる?神殿だって!」
嬉しそうに白ドラゴに尋ねる。
「知ってるけど、行ったことはないわねぇ。
行きたいの?」
のんびりと答える。
「うん、行ってみよう!
ありがとうございます!」
最後は受付の女性に言いながら、部屋へと向かったのだった。
そして今――
赤い鱗をまとったドラゴと、眠い目をこするフウライが王都の門を抜ける。
「ん?ドラゴ、なんかあった?」
立ち止まり、遠くを見つめるドラゴに、フウライが尋ねる。
「ああ、なんでもない。行く方向を考えていただけだ。」
遠くを馬で走り去る東国の使者を、フウライから隠すように移動しながら答える。
「じゃあ、行こうか!」
フウライが張り切って次の目的地に歩き出す。
「誰かが火を放ったぞ!」
だが、何分も歩かないうちに、後ろから胴間声が響いてきた。
「フウライ、早く乗れ!」
ドラゴが背に乗るように身をかがめる。
フウライは振り向く間もなく、その背に乗り込む。
「な、なにがおきてるんだろ。」
しがみつきながら、それでもちらりと後ろを見る。
王都の中ほどから煙が上がっているのが見えた。
どうやら“本格的”に後継者争いが始まったようだった。




