噂が回る街
「ねぇ、あそこに入るのはどうかな。」
フウライが恐る恐る聞いたのは、ひときわ目立つ看板のカジノである。
両親にギャンブルは身を滅ぼす、と言われていたので見ないようにしてはいたが、どうしても惹かれるものがある。
「あら、いいんじゃない?」
「先立つものがあるなら、だけど。」
白ドラゴはあっさりと肯定する。
フウライは白ドラゴの担いだバッグから、報酬の入った袋を取り出し、素早く計算する。
「このくらいならいけそう。」
王都の宿泊費一泊分くらいだろうか。
報酬の中から無くなってもまぁ問題はない……と思えるくらいの金額だ。
ギャンブル代を別の袋にしまい、ポケットに突っ込む。
ギィ
重々しい扉を開き、中に一歩足を踏み入れる。
そこにはきらびやかな世界が広がっていた。
貴族・庶民が入り乱れて遊んでいるようで、様々な衣装を身に着けた人で溢れてる。
人気があるのは宝石ルーレットだ。
きらきらした物が大好きな、チップを握りしめたフウライがふらふらと近寄る。
「さぁ、この玉がどの宝石に止まるのか、賭けてください!」
その瞬間を見逃さないディーラーが、小さな玉を掲げて煽る。
「ぼ、僕はこれに。」
青く美しい宝石に昼食代くらいのチップを置く。
ディーラーがホイールを回し、玉を放つ。
固唾をのんで見守る白ドラゴとフウライ。
ゆっくりと回転が止まり、玉が転がり落ちたのは……
残念、ピンクの宝石だった。
「僕、ギャンブルには向いてないみたい。」
ため息をつきながら、もう二度とやらない、と心に決めるのだった。
「こういうのは運なのよ。フウライは他で運を使ってるから。」
白ドラゴが笑って慰める。
フウライもそんなもんか、と納得する。
確かに大した苦労もなく生きている。
ギャンブルで運を使って、この生活を手放すわけにはいかない。
「我はどうかしら?」
そういって、緑の宝石にチップを置く。
ディーラーがホイールを回し、玉を放つ。
結果は――緑の宝石!
「お客様、ドラゴンですよね。何か力を……」
ディーラーは不正を疑うが
「どんな力を使うってのよ!」
全て言う間もなく、白ドラゴが否定する。
どんな力を使えばそんな小さい玉を操れるのか言ってみろ、と言い募る。
「我が使えるのは、赤い時の火だけよ!」
とどめを刺し、ディーラーはそれ以上何も言えなかった。
火を吹かれても、と思ったのもあったかもしれない。
その後も白ドラゴは勝ち続けたが、そろそろ飽きてきたフウライによって、カジノ体験は終了となった。
「あと、一週間は延長して泊まれるわね。」
戦利品を見て、白ドラゴは満足げだ。
「またのお越し、お待ちしております。」
カジノとしてはたいした金額でもなかったし、ドラゴンが遊んだカジノとして宣伝するつもりのようだ。
見送る店長らしき男性の横には、熱心にスケッチしている店員が見えた。
「宣伝に使うつもりかしら。ちゃっかりしてるわねぇ。」
白ドラゴがあきれたようにフウライに語り掛ける。
「まぁ、いいんじゃない?」
「ドラゴが儲けてくれたんだし。」
カードゲームやサイコロゲームにも勝てなかったフウライはいささか不満気ではあったが、宣伝自体には文句がないようだ。
「何か飲みましょうか。おなかすいたでしょ?」
提案する白ドラゴは、不満から意識を逸らそうと内心必死だ。
肉と魚と酒が書かれた看板が掲げられたドアを引いて、中に入る。
ドラゴンを連れての食事ともなると、やはりおしゃれなカフェ…ではなく、酒場になるからだ。
昼を過ぎたぐらいだったが、食事をとる庶民でにぎわっている。
王都だけあって、様々な職業の人間がいるようだった。
「それにしても、酒が高くなっていけねぇや。」
昼間から酒をあおる職人が、不満をぶちまける。
「そういえば、王様が倒れたって聞きました。」
フウライが水を向ける。
「あぁ、あんたら旅してんのか。」
「そうなんだよ……ここだけの話、後継者争いが起きててな…」
ここだけの話、と声を潜めているつもりのようだったが、潜まってはいない声量で話し出した。
「中央のお坊ちゃまのせいで、税金が上がりっぱなしよ。」
「貴族を集めてパーティ三昧だ。」
やれやれ、といった調子で中央の王子の行動にため息をつく。
「流通ってことなら、西のお姫さまもねぇ…。
輸入品にとんでもない課税をしているって聞いたわ。」
「国内の商人には人気だけど、私みたいに輸入がメインだと…」
お茶を輸入している、という女性が嘆く。
「だからって、北の王子様がいいかっていうと…。
武力に優れて正義感があるというけど、戦争がお好きだし。」
「兵士の息子はとても尊敬している、というけれど…。」
息子が兵士という女性は、戦争を恐れているようだった。
「その点、南の王女様はとても頭がよく、いくつか商品も出していますよ。」
学者の卵だという若い男性は、南の王女を推しているようだった。
「ただ、それ以外のこととなると…。」
自分の得意分野にしか興味がないのが難点なんだと、頭を抱える。
「東の王子様もなぁ…。」
「最初は何ていい人だ、と思ったもんだが。」
「良いことを言うだけで、結局こっちには何も回ってこねぇ。」
「自分は高そうな、ヘンテコな服をきてんのにな。」
不満が噴出する酒場に、白ドラゴとフウライは何も言うこともできず、聞き役に徹するしかないのだった。




