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ドラゴとフウライ ― 旅の先にあるもの ―  作者: ナナマル
王都編
38/46

芋が焼けるまで

大粒の雨が体を叩き、耳にはとどろく雷鳴が絶え間なく響く。

これでは野宿は無理だろう。

二つ目の宿場町を出た後、王都へあと二日といったところの山中で、二人はひどい嵐に遭遇した。

ドラゴは翼でフウライをかばいつつ、尾根の脇にある山小屋へ飛び込んだ。


体の水分を払いつつ、フウライは暖炉に薪をくべる。ドラゴがフゥ、と火を控えめに吹いた。


「あったかーい。」

「早く服が乾くといいねぇ。」


ドラゴが担いでいたバッグの中にあった、宿場町で購入した芋を並べ、乾いた布で体を拭きながらほっとしたように腰を下ろす。

ドラゴはフウライから視線を外し、フウライの奥を見つめる。


ギシ


後ろの隅――

ドラゴの視線の先に、黒い影がゆらりと動いた。

打裂羽織ぶっさきばおりにたっつけ袴といった出で立ち、脇に刀と振り分け荷物を置き、座っている。

黒く長い髪の毛は、一つに束ね、後ろに流していた。


物音にはじかれたようにそちらに目を向ける。

あの人は嵐の前に来たのかな。

雨に打たれたわけでもなさそうな様子に、フウライは首をかしげる。


「失礼――驚かせてしまいましたか。」

「嵐がきそうだったので、早めにこちらに寄せてもらっていました。」


先客はその疑問を見透かしたかのように、おだやかに答える。


「あっ。ああ、こ、こんばんは。」


慌てて挨拶を返す。


「その格好だと、東国の者だな。風を読んだか。」


ドラゴがそう判断すると、フウライは感心したようにドラゴに目を向ける。


「ご存じでしたか。」

「おっしゃる通り、風が嵐を運んでくると思い、早めに山小屋に入った次第。」

「馬で来ていたのですが、この嵐では――」


山小屋には厩舎がないので、馬を自由にするしかない。

無事に宿場町についているといいのですが、と先客はつぶやく。


ガタガタと音を立てて開いた扉から、薪を背負った老女が入ってきた。


「おやまぁ、お客さんかね。」

「ここにはあまり人は来ないんだけど。」

「ひどい嵐だものねえ。」


聞くと、山小屋を管理しているのだという。


管理だって?それにしては――


疑問に思う暇も与えず、老女の両手が刃に変わる。

ドラゴはフウライを隠し、東国の先客は刀を取り、膝を立てた。


次の瞬間、左側から回り込みドラゴの後ろを狙う。

ドラゴが左に体をずらし、火を吹いた瞬間、老女の右手が伸びる。


しまった!


ドラゴが右に体をずらそうとするが、そうするには遅かった。

老女の刃は、少しだけ右側に体が出たフウライを狙ったのだ。


「うわっ!」


フウライが声を上げて頭を下げる。

東国の先客が鞘から刀を抜いた時、ドラゴの吹いた火が反射してフウライの目を直撃したのだ。


その頭上を、老女の右手の刃が通り過ぎた。


ドラゴはそれを逃さず、右手とともに頭に食らいつき、老女を床に叩きつける。

そのまま内部めがけて火を放った。


「おまえは!やくさいじゃないのか!なぜにんげんと…」


断末魔とともにそんな言葉をドラゴに放つ。


「厄災?ああ、昔はな。」


もう聞いていないであろう老女に、そんな言葉を投げつけたのだった。


「ドラゴぉ…」


なんとも情けない声でドラゴを呼ぶ。

命を狙われたのだ、無理もないことだった。


「大丈夫か。怪我はしてないだろうな?」


怪我用の薬草を手に入れておくべきだったか、と思いながらフウライを気遣う。


「ありがとう、大丈夫。でもあんな怖い魔物がいるんだね…」

「あ、ありがとうございました。おかげで助かりました。」


東国の先客にもお礼を言う。

偶然にせよ、刀の光がフウライの命を救ってくれたのだ。


「いや、私は何もしていませんよ。」

「ただ、刀を抜いただけです。」


フウライの素直さにあてられたのか、微笑みながら刀を鞘に戻した。


「もしかしたら、これ奇跡かな。何時だろ。」


オークダンプの少女との約束を思い出し、ドラゴのバッグからノートを取り出し、まだ震えている手で日時をメモする。


「意外と律儀だな。」


ドラゴが感心する。


「意外とって何だよ。約束は、守らないとでしょ。」


むくれた顔をしつつも、ノートを仕舞う。


「芋が焼けたようだぞ。」


ドラゴが芋を見て、フウライを見る。

パアっと顔が明るくなったフウライは暖炉に駆け寄った。


「お芋、いかがですか?お腹空いてないですか?」


東国の先客に、よく焼けた芋を差し出す。


「ありがとう。いただきます。」


礼儀正しく言うと、芋を受け取る。


「フウライ。」


見ると、ドラゴが口を開けている。

赤い時は手がないんだった。

芋を少しちぎっては口に入れ…を繰り返す。

自分はその合間に芋をかじる。


「そちらの…ドラゴさん、は…」

「とてもお強いのですね。」

東国の先客が、言葉を選びつつ、ドラゴたちに話しかける。


「実は、東国の主から使いを頼まれて、王都まで行く予定なのです。」

「この先、まだひとつ山を越える必要があります。」

「あのような魔物を一人で倒すのは難しいでしょう。」

「ですから……護衛をお願いしたい。」


というと、頭を下げる。


「報酬は、王都での一週間の宿泊代と、他にお金をいくらかお出しします。」


報酬。


「ドラゴ、困ってるみたいだし…」


王都での宿泊代の心配がなくなるのだ。断る理由があるだろうか?


「仕方ないな…」


ため息をつきつつ、ドラゴが同意する。


「ありがとうございます。」


東国の使者は、ほっと胸をなでおろしたのだった。

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