舞台の外のドラゴン
「あぁ…やっと着いたねぇ」
旅の緊張が解け、脱力したようにドラゴに語り掛ける。
オークダンプの村を出てから野宿を経て、ようやく宿場町に着いたのだ。
「我が飛べばすぐなんだがな。」
ドラゴがあきれたように返す。
「でも、それじゃ旅にならないじゃない。」
「何か面白いことがあるかもしれないのに、見落としたら嫌でしょ。」
フウライは口をとがらせる。
「まぁ、そうだな。」
ドラゴは目を細め、相槌を打った。
「あ!ええと、ドラゴさん、フウライさん?こちらです!」
オークダンプの少女が言っていた、友人らしき少女が、手招きをしている。
「宿に案内します。遠かったでしょう?」
「馬か馬車なら、1日もかからないんですけど。」
そうか、旅人は馬車や馬を使って移動するんだな――
フウライはぼんやりとそんなことを考える。
フウライはドラゴと鎖で繋がっているので、使うことは難しいだろう。
他愛もない話をしながら宿に向かう。
すると――
わあぁっ!
歓声が上がるのが聞こえた。
「お祭りでもやってるですか?」
満面の笑顔でフウライが尋ねる。
「ああ、お芝居する一座が来てるんですよ。大人気なんです。
ええと、あの…」
案内係の少女は言いよどみ、ちらりとドラゴを見やる。
「えいっ!やあっ!」
芝居小屋の扉は開かれ、外まで人があふれている。
そのせいか、演者のものと思しき声が聞こえてきた。
フウライがドラゴの背に乗り、ひょい、と覗くと
勇者らしき若者が、着ぐるみを着た魔物を攻撃しているところだった。
「うわあぁ!やめろおっ!」
攻撃された魔物は、派手に転げまわる。
その滑稽な姿に、観衆はわあっ!と声を上げるのだった。
「うちとったぞ!」
魔物に足をかけた若者が勝ち名乗りを上げ、芝居は終わったようだった。
「勇者、決死のドラゴン退治、っていうお芝居なんです…」
題名を告げる案内係の少女は、とても決まりが悪そうにしている。
「我は!あんなに!弱く!ないっ!」
がおおとドラゴが吠える。
「あはは!でも、とっても面白かったよ!」
腹を抱えて笑うフウライに、ドラゴがうなる。
「わああ!本当のドラゴンだ!」
「ドラゴンだ!本物はかっこいいねえ!」
芝居を見ていた子供たちは、本物のドラゴンの周りに集まってくる。
その影響なのか、ドラゴを怖がる様子もなかった。
子供たちに戸惑ったのか、ドラゴが白い光をふわりとまとう。
「ちょっと、あんたたち!あっち行きなさいよ!うっとおしいわよ!」
ドラゴにしてはやんわりと追い払おうとするも
「わあ!変身した!」
「ふわふわだ!」
「きれいだねぇ!」
触ったり抱き着いてきたり、却って子供たちを集めてしまうのだった。
「ふふ、ドラゴ、大人気だねぇ。」
フウライはのんびり、よかったねぇと、助けるでもなく白ドラゴに語りかける。
「フウライ、何とかしなさいよ!」
にっちもさっちもいかない白ドラゴが、フウライに助けを求めるも
「禁忌になるより全然いいよ!」
と、そのそぶりすら見せない。
白ドラゴはため息をついて、なすが儘にされるしかないのだった。
「やあやあ、おふたかた、どうもどうも!」
芝居が終わった一座の座長らしき男性が、小走りで近づいてくる。
「こんにちは!」
フウライはのんびりと、少し頭を下げる。
男性は手もみしつつ、
「いやあ、この芝居、大人気でしてね。」
「次の王都でも、興行を打とうと思ってるんですよ!」
「もちろん、ドラゴン様のお名前を使うからには、お礼もしますよ!」
聞くと、この街の宿代を出してくれるのだと言う。
「本当ですか!?わぁ、よかったね、ドラゴ。」
フウライは手放しで喜び、白ドラゴに向き直る。
「んー……しかたないわね。」
白ドラゴもしぶしぶ同意する。
「でもそれじゃ、割に合わないですよね。」
案内係の少女が横から割り込んできた。
「これから王都で興行を打つなら、それなりの儲けが出るはず。」
「その報酬がここの宿代だけなんて。」
オークダンプの少女の友達らしく、そのあたりの計算はしっかりとしているようだ。
「興行を打つたびに、使用料を払うべきなのでは?」
座長は決まり悪げに、しかし頭の中では計算している様子。
「ああー……、でも僕そういうのに縛られる方が嫌なので…」
座長は目を輝かせてフウライを見る。
案内係の少女は目を丸くし、まじまじとフウライを見つめる。
白ドラゴはでしょうね、と納得顔でフウライを見た。
「本当に欲がないんですねぇ…」
友人の話を思い出したのか、ため息をつき、苦笑しながら目を伏せた。
一行は手もみする座長から宿代を受け取り、宿に向かったのだった。




