宿を拠点に
「窓の数からすると、五組くらい泊れそうね。」
入口からしばらく歩いたところ、村のおおよそ中ほどで、その家の前に立った。
白ドラゴがその家をざっと見て、そう判断する。
「けど、今は稼働してないのかしらねぇ。」
ところどころはがれた外装。
汚れた窓にカーテンが閉まっている。
それを見てため息をつく。
「…観光地にしようとしたこともあったんです。でも…」
「何か特別な景勝地があるわけでもないし、うまくいかなかったみたいで……」
きまり悪そうに少女がつぶやく。
「あ、い、いらっしゃいませ!」
少女たちが来たのを見たのか、中から女性があわただしく飛び出してきた。
「お食事の準備はできています。どうぞ、中へ。」
中へ入ってもイメージは変わらなかった。
ところどころ壁紙が剥がれ、塗装を塗り直している最中なのか、
塗料の入った容器が置かれている。
「あ、まだ工事はしていますが、いつでもお泊まりいただけるようにはなっているんです。」
女将が取り繕うように語り掛けてくる。
「ですけどねぇ。なんの取りえもない村になんて、誰も来ませんよ……。だって、何をしに来るんですかねぇ。」
最後を自嘲気味に言って、女将は片頬を上げる。
少女は唇をかみしめ、フウライは視線を下に向けるだけで、何も言うことはできなかった。
「さ、こちらです。どうぞごゆっくり。」
手を食堂に差し出し、口早にそう言うと、まだ仕事が残っているのか、そそくさと立ち去っていった。
一行は、パン、スープ、卵料理といった食事が並ぶ食卓に着いた。
「わぁ!おいしそう。いただきます!」
腹ペコを思い出したらしいフウライが、真っ先に手を付ける。
少女はそこまでお腹はすいていないのか、手でもて遊ぶパンを見つめつつ、話を始めた。
「それで、オークの森のことなんだけど……」
「あぁ、オークの森を使いたいって話だったわね。何に使うの?家具でも作るつもり?」
言い淀む少女に、白ドラゴが口をはさむ。
オークの森を使いたいという村長との会話を思い出し、使い道について尋ねる。
「……昔、オークヘイブンではオークの森の木を使った家具を作ってらしいんです。その家具には、不思議な力があったって聞きました。」
「癒しの力、みたいなんですけど……」
「ううん。それはどうかしら。」
何かを思い出そうとしているのか、白ドラゴは少し顔を上げる。
「昔……なら確か、オークと人間が共同で森を管理するって話だったはず。」
思い出しながら、慎重に話を進める。
「オークが木を見出して、人間が彫ったり、組み立てたりするって聞いたわよ。」
首を傾げつつ、思い出したことを語っていく。少女の目がだんだんと輝いていくのが分かる。
「出来上がった物には不思議な力が宿って、一度だけ願い……だったかしら。
何か奇跡が起きるんだったかしら。」
「人間が自分で作らないとダメだったって聞いたわ。
奇跡だかなんだかが起きたら、その木の作品は崩れてしまうんですって。」
一気に話した白ドラゴは、満足げに一同を見渡す。
二人とも目を輝かせ、ドラゴを見つめていた。
ひときわ目を輝かせた少女が、勢いづいて話し出す。
「じゃ、じゃあこの宿を拠点に、村外の人に来てもらって、
オークの森で見いだしてもらった木から、何かを作る――というのはどうかな?」
「私たち村人は世話係として、オークとの仲立ちができれば!」
村が再生できるはずだと、少女は言い募る。
「それで、オークたちは何がもらえるの?」
フウライが素朴な疑問を投げかける。
村にはいいかもしれないが、オークには何がいいんだろう?
「あ、それは…」
「フフ…フウライは手厳しいわねぇ。」
白ドラゴが楽しそうに首を振る。
「えっ!だって、オークにお願いするなら、何か報酬がいるかなと思って!」
フウライは慌てたように弁解する。
自分も何かしたら報酬をもらっていたので、当然だと思っていたのだ。
「まぁ、そこは交渉次第よ。オークは人間と違ってそういう“欲”はあまり持ってないの。」
何か考えがあるようにそう告げると、一行はオークの森へと出発することにしたのだった。




