夜が終わるころ
炎の熱が届かない高さまで舞い上がると、そのままオークの森の上へ羽ばたきを進める。
その様子を見上げているのは避難するオークであろうか。
フウライはドラゴの背に乗り鎖にしがみつきつつも、オークの森の様子を伺う。
「あ!今なんかキラって光ったよ!」
避難するオークの最後尾のあたり、だろうか。オークの手のあたりが光った気がしたのだ。
「大事なものを持ち出したんだろう。だが、そんなこと気にしている場合ではないな。」
火矢に追い立てられるように、オークの森とオークヘイブンから遠ざけれているのだ。
その様子を注意深く観察している者――
ずれた眼鏡を直し、口角を上げる。
――姿を現しましたね。
いつの間にか、避難する村長の前に立ちはだかる。混乱に乗じて先回りしたのだ。
「あなたがオークの森の村長ですね。」
静かに語りかける。
「その通り。何が起きたか知らないが、オークは何も関係していない。」
鋭い眼光を放ちながら補佐官を睨めつける。
「そうでしょうか…。人間とドラゴン。ドラゴンは厄災と呼ばれています。ならば人間を取り込み…」
――あなた方に与したのでは?
「そのようなことは一切ない。それに森に火を放っても優勢なのはオークだ。」
実際に犠牲は人間のほうが多かった。だが、これ以上森を焼かれては――。
「なるほど。そういうことなら…、我々は和平を望みます。今までのように、警戒しあうのではなく、真の和平です。」
懐に手をやり、一枚の羊皮紙を取り出す。
その羊皮紙を見て村長は息をのむ。
魔法契約書。
話には聞いたことがある。帝国の秘術とも呼ばれる技で作られたものだ。約束を破れば滅びが待っているという。
「ご存じのようですね。」
ならば話は早い。と羊皮紙を広げ、内容を見せる。
人間はオークの森に入らない、オークはオークヘイブンを攻めない、という内容の不可侵条約のようだった。
「ただし――」
眼鏡の奥が鋭い光を放つ。
「そちらの宝を頂きましょうか。それはあなたがたのためのものではない。」
村長は即答できなかった。今までずっと守ってきたものだ。宝を抱く腕に、わずかに力がこもる。
だが、オークの願いは叶えられたことはない――。
確かにこれは人間の物なのだろう。
「……いいだろう。だが先に和平を結んでからだ。」
絞り出すような声で村長が同意を表明した。
「ご英断です。」
眉と口角を上げると、近くの兵士から短剣を受け取る。指を少しだけ傷つけ、魔法契約書に血を垂らす。
その魔法契約書を、短剣とともに村長に差し出す。村長は同じように魔法契約書に血を垂らした。
魔法契約書は強い光を放つとそのまま消えてしまった。契約が成立した、ということだった。
もしどちらかが約束を破れば、その街――森――は滅びることになる。
「…これを。」
差し出された台に乗っていたのは、みずみずしい木の葉を今取ったかのような緑のかけらだ。そして、あの美しい青いかけらと同じ質感を持っている。
「本当にあったんだ…」
「我らに力を貸さなかったのは、人間の物だったからなのか。」
その姿を初めて見たオークたちの間でどよめきが起きる。
その宝が人間の手に渡った瞬間、燃えていた木々が一斉に沈黙し、村長をはじめとしたオークたちも沈黙したのだった。
森の木々はすでに白い光をまとい始めていた。




