赤い夜の始まり
森が群青色に染まり、虫の声が聞こえ始める。そろそろオークの森の村人も就寝の準備をしていた。
「た、大変です!森の入り口に人間が!攻めてきました!」
森の安全を監視する若者が駆けこんできた。
村長は目を見開きつつ若者へ目を向け、次に宝を見やる。
「若いのを集めて迎え打つのだ!弱いものは海のほうへ避難を!」
命を受けた若者が踵を返して走り出ていく。眠りに着こうとした森が目覚め、あわただしく避難する村人たちと迎え撃つ若者の悲鳴や怒号が飛び交う。
村長はこれからのことを考えて胸が沈む。ここのところ戦闘は発生していなかった。なぜ――
そして、昼間のドラゴンと人間を脳裏に浮かべるのだった。
一方、人間側では先頭に軍服に身を包み、眼鏡を直しながら森を見つめる補佐官の姿があった。
自分が出るという町長を押しとどめ、自分が危険を負うことで町民の避難を任せたのだ。
少し口角を上げると
「森に火を放ってください。混乱させるのです。」
そばに控える指揮官に伝える。指揮官が頭を下げて命令の実現のため走り去るとやはりそばに控えていた兵士に向かい
「ドラゴンに向かって火を放ってください。」
と命じる。兵士は心得たとばかり走り去る。
「さて、仕上げはどうなることか…。」
眼鏡の奥で目を細め、言っている言葉とは裏腹に胸を張って森へ歩き出した。勝利を確信しているのだ。
すでに混乱し始めた森に、赤い炎が撃ち込まれた。緑の宝に守られた森は、それでもいくつかの木に火が付いた。
オークの若者たちは槍を手に、人間の軍を押し返し、木に燃え移った火を消した。それでも高い木に付いた火を消すのには手間がかかる。
宝の乗った台を持った村長は、意を決したように家を出て、海へ向かうことにした。
鎖のマークがついたボタンを付けた兵士が、森の外れで火矢をつがえた。
既に気配を感じて目を開け、聞き耳を立てていた白ドラゴは次の瞬間赤い翼を広げ、火矢を叩き返す。
いきなり“布団”にはじかれたフウライが跳び起きた。
「おわわっ。な、何?どうしたの?」
ドラゴを見やるが、ドラゴは森のほうに目を向けたままだ。寝ぼけ眼で森に目をやる。
「え、えっ、火?燃えて…なんで!?」
「ここも危ないな。仕方ない、逃げるぞ。」
翼で視線を遮り、背中に乗るように促し。
「あ、ああ、うん。わかった。」
のろのろと背に乗ると、ばさり、と翼をはためかせて飛び上がった。




