通れなかった道
「喧嘩にならなくてよかったねぇ。挨拶もしてくれたし、意外といい人なんじゃない!?」
フウライはほっと息をつきつつ、ドラゴに目を向ける。
チラリ、とフウライに目を向け、
「あたりまえだ。何にしろ我が一緒なのだ。そうそう簡単に手を出すまいよ。」
当然だとばかりに胸を反らす。
ふ、と顔を上げたフウライが首をかしげながらおずおずと聞く。
「もし、彼らが、攻撃してきたら、ドラゴは、どうするの?」
「当然!焼き尽くすまでよ!我らに!攻撃など!」
翼をばさりと広げ、さらに胸を反らしつつそれでも控えめにゴオッと火を吐き出す。
フウライは目を見開いたが、それでも森に被害を及ぼさないよう気を遣うドラゴを見て目を細める。
「ふふ、頼もしいね!でもそうならないことを願うよ。」
「攻撃しなければよいのだ。」
ドラゴはしたり顔でつぶやく。
「まぁ、そうだけど。」
魔物だったら大抵はこちらから攻撃しなければ、攻撃されることもないだろうけど…でも人間はどうかな。
フウライは少しだけ顔を曇らせる。と、目の端に木漏れ日に照らされきらりと光るものが映った。
目を向けると、そこには――
馬車が長い年月さらされたであろう朽ち果てた様子で横たわっていた。
「あ、何かあるよ。馬車…かな。どうしたんだろう。」
そちらに体を向けるフウライを、後ろから呼び止める。
「やめたほうがいいぞ。」
「なにかあるの?」
顔をこちらに向け、にっこり笑うフウライ。ふわり、と淡く白い光をまとい、赤い翼を畳む。
「本当に好奇心が旺盛なのねぇ。何があっても知らないわよ?」
「ふふ。でも危なくないんでしょ。だって白ドラゴだもんね!」
「まぁ、少なくとも攻撃はされないわね。」
二人で軽口をたたきながら、馬車のほうへ向かった。
フウライは朽ちた車軸に慎重に足をかけて上から馬車をのぞき込む。
だが、そこには色あせて破れ、中身の飛び出た座席が残っているだけだった。
「何もないや。」
少しがっかりしながら降りると、馬車の横に上等な青いビロードらしきものが落ちているのが見えた。
「あれ、なんだろ。」
ビロードは、一度だけ本島から来た貴族が着ていたのを見たことがある。つるつるして、どうやって洗うのかな、と疑問に思ったものだ。
そういえば、白いドラゴもなんだかビロードみたいだな――
「ひぇっ!」
ビロードを少しだけ持ち上げたとき、一緒に白い棒のようなものがついてきたのだ。
それが骨だとわかるのに、時間はかからなかった。
「ほ、ほね!ほねが!」
「人間の腕の骨ね。ここはオークの森の入り口。港へ行こうとして――」
――やられたのねぇ。
足に力が入らないらしいフウライを抱き起しつつ、その骨のいきさつに思いを巡らせる。
「護衛がいるから大丈夫だと思ったのかしら。」
白ドラゴはため息をつきながら、周りに目を向ける。
「あ、あ、こんなに…」
先ほどは気づかなかった骨が、回収されぬままに転がされている。中には簡易な甲冑らしき残骸も見て取れた。
ビロードの服らしき残骸に再度目を向けると、引きちぎられたらしき糸が、ボタンを失い寂しげに風に揺れていた。
「貴族の服だもの、上等なボタンだったんでしょうね。」
「誰が持っていったんだろ。」
「……骨だけおいていったのねぇ。」
「…」
よく見れば、あるはずの剣も見当たらない。オークが持ってるのは槍だった。ならば…
「さ、もういいでしょ。先を急ぎましょう。オークヘイブンまでは森を出たら川の向うよ!」
重苦しくなった空気を振り払うように白ドラゴが指さす。
フウライは少しだけ首を左右に振ると、顔を上げて期待を胸に抱くのだった。




