見えない宝
家の半分が地下、10人程度のオークが座れる家に、若いオークが息を切らして駆け込んできた。
「村長!人間が…!だけど、ドラゴンも一緒だったんです。あの、やくさい、とか言われてる奴です!」
村長と呼ばれた、緑の体躯はしっかりした、しかしその額には知性を育てたであろうしわの刻まれた男が目を見開く。
「なんと…!人間ほどの大きさになったと聞いてはいたが、それでも厄災だ。人間と一緒となると…」
額のしわに眉間のしわを加え、若いオークに問う。
「攻撃は、しなかっただろうな?」
小さくなってもその力は変わらないと聞く。ならば――
我らの森など厄災の一吹きで焼かれてしまうだろう。もちろん住んでいる我らも…。
――それだけは、何としても避けねばならぬ。
顔を曇らせながら、一段高いところにしつらえられたテーブルに置かれた、上等の布でできたクッションの上に目を移す。
あれがあれば、森は守れるかもしれない。
ドラゴンと人間が現れれば、姿を現すと聞いたことがある。帝国から来た男、だったか。数少ない、オークに友好的な人間だった。だが、裏切り者とされ、人間に処刑されてしまったのだ。
村長の視線に気づくと、オークの若者はおずおずと問いかける。
「村長、あれ、ほんとにあるんですか?」
くい、と顎を上げて宝のあると思しき場所を指し示す。
「ある、はずだ。」
クッションには確かに何かがおかれているかのように沈んでいる。だが、オークにはそれを持つことも触ることもできなかった。
できるのは、クッションを持ち上げることだけ。
人間から奪ったとき、確かに宝は姿を現していたと聞いていたが…。
「それにしたって、役に立つんですかねぇ。」
いぶかし気に問いかける若いオーク。当然だ。この宝は何かしたことはないのだ。太陽が姿を見せず森が痩せてしまったとき――大勢のオークが犠牲になったとき――この宝は何もしなかったではないか。
緑をつかさどっているはずだ。
太陽がなくとも、森は痩せず、大地には実りが約束される――そう聞いていた。
「今は姿を消しているからだろう。」
村長ができるのは、あいまいな答えだけだった。




