空を裂くドラゴンと、大魔法使い
空を引き裂きくように、赤い翼のドラゴンが不毛の大地から飛び出そうとしていた。
「……逃がさんぞ!赤き厄災!」
黒いローブをまとう偉大な魔法使いは最大の雷撃を放ち、行く手を遮る。
ドラゴンは体を切り返し、大きく口を開け紅蓮の炎を放った。
怒り狂った炎は大地を焼いて岩を焦がし、黒いローブに迫る。
「グレムド・ウォール!」
地面から巨大な土の壁が上り立つ。
炎を遮る大地の魔法。
だが、その壁は炎によって少しずつ削られていく。
急がなくては――
これより大きな魔法が使えるのは1度きり。
「イシラス・ラグナ!」
翼の周りの空気が凍っていく。
羽ばたきを奪われたドラゴンは地面に叩きつけられた。
震える手で懐から小さくて白い、内に柔らかい光を秘めた玉を取り出す。
天に掲げながら、高らかに謳う。
「鎖がつなぐもの、それは――」
「厄災!」
白い玉はその声に呼応し、姿を変える。
銀の輝きに虹の影を宿す大きな鎖。
鎖はもともとそこにあるのが当然というように、ドラゴンの首にからみつく。
天を衝く雄たけびをあげた次の瞬間、ドラゴンの体は小さくなっていき――
ついには人間よりちょっぴり大きいくらいのサイズに――縮んだ。
「これでもう動けまい…」
息が上がり、今にも斃れんばかりの魔法使いは安どの笑みをこぼした。
「一方の鎖は人間が持つものだ。だが………」
……そんな者は現れないだろうよ。
言い捨てると、足を引きずり背を丸めて去っていった。
「動けないなど、なぜあの者はそう思ったのだ」
ドラゴンはひとりごちる。
この鎖は、自分を縛っておくことなどできないのに。
しかし、それを知っているのは、縛られている当の本人だけだった。
縁還の鎖。白ドラゴンだった時、赤き老ドラゴンが切なげに、
でも自分には関係ないというように、語ってくれた物語。
「だが…」
待ってみるのも悪くないな。
これを持てる人間が、果たして現れるだろうか?
ドラゴンの胸には少しだけ、何か明るいものがともったようだった。




