歓待の夜
村の寄り合いに使えるほどの大きさの家が村長の家だ。もうすでに準備ができているようで、酒を酌み交わす7,8人ほどの村人が見えた。さっきの子供たちも混ざっているようだ。
「ようこそ、いらっしゃいました!」
「小さな島だけど、ゆっくりしていってくれ!」
「客人は久しぶりだものね。」
「ほう、本当にドラゴンが一緒とは!」
二人の姿をとらえると、次々に歓迎の言葉を口にする。
「さあ、こちらへ。」
村長に案内されると、フウライはその隣に座り、ドラゴはその横にどかりと座る。漁村にしては豪華な食事を前に、朝から何も食べてないことを思い出す。
「うわぁ、おいしそう!」
手近なごちそうから手を付け、満足そうにほおばる。
「ドラゴも食べなよ!おなかはすかないけど、食べれるんだよね…?」
「うむ、だが手がないのでな。」
「はいっ、どうぞ。」
よく焼けた魚を差し出す。少しだけ引いた体を前に倒し、おずおずと口にする。
「うむ、うまいな。」
味は感じるみたい――フウライは目を細め、いっぱいの笑顔になるのだった。
「酒はいかがかな…?」
村長は地酒であろう、白く濁った液体の入った盃を差し出す。
「あ…、僕、飲めないんです…」
「そうでしたか、では…」
酒を酌み交わしていた若者が、す、と立ち上がる。手には淡い橙色のみずみずしい果物を手にしている。
「じゃあ、これ行ってみろよ!島の奥でしか取れない、珍しい果物なんだ。」
フウライの前にくると、その手を差し出した。ふわり、と果物のいい香りが漂ってくる。フウライが手を伸ばそうとした、その時。
「やめておけ」
低い声で、ドラゴが制止する。
「脂の多い物の後にそれは腹を壊す。」
なるほど、と伸ばそうとした手を引っ込めたフウライは、申し訳なさそうに告げる。
「ありがとう!でも、もうおなかいっぱいだから!」
「そうか!残念だな!」
席に戻ろうとくるりと後ろを振り向きざま
「チッ」
と舌打ちしたのを聞いたのは、ドラゴだけだった。
「ゴホン…」
気を取り直したらしい村長が咳払いをする。
「実は、困っていることがありましてな…この村の浜辺に幽霊が出るようなのです。」
「ひえっ!」
幽霊。フウライは生まれてこの方、そんなものとは縁がなかった。話に聞くのだって怖いから、兄姉にはそんな話をしないで、と頼んでいたぐらいだ。三番目の姉がそんな話をして怖がらせるものだから、父に叱られてたのはいい思い出だ。…だがこれは現実だ。
「ドラゴ、幽霊だって、どうしよう…」
島に降りたことを後悔しながらも、ドラゴに助けを求める。
「落ち着くんだ。人間が住んでいれば死にもする。幽霊なんぞそこら中にいるだろうよ。」
「そうだけど…」
少し落ち着いたフウライを、申し訳なさそうに見ながら村長が続ける。
「怖がらせてしまって申し訳ない。ですが、子供たちもとてもおびえておりましてな。ぜひ、そちらの――」
ドラゴのほうに目をやりつつ
「お強い方に退治していただけないかと。それに、いくらかなら報酬も出せますし。」
報酬、でフウライの目が少しだけ輝く。旅には欠かせないのだ。仕方ない。強く懇願されてしまっては、引き受けるしかないだろう。
「では、我が寝ずの番をしてみるとしようか。」
フウライは寝てろ、というドラゴに少しだけ安心するフウライだった。




