救いのあとで
「やったぞ!水だ!」
ドラゴンの言葉に半信半疑ながら、掘り始めて10日目、湖からの水が地上に通った。
「あのドラゴンは頭がいいと思ってたんだ!」
「ああ、難しい計算だってしてたしな」
「毎日の水だって汲んでくれて、ドラゴン様様だな!」
最初にあった時に不安の言葉を投げたのと同じ口で、今回ばかりは賞賛の言葉を投げるしかなかった。
「しかし…誰がじゅ、じゅぶつ、だっけか?そんなものを…」
「村の人間でねぇことだけは確かだな。」
「そういえば、水が汚れる前に、入口んとこの小僧が知らねぇ女を見たって言ってたが…」
「あんときは、近場の村の野菜売りだろと思ったが…まさか…」
小高い丘の上、森の中から村人たちに鋭い視線を投げる者たち。
「大きな被害がなくてようございましたな。」
優し気な面持ち、背で腕を組み、仕立てのよさそうなシャツを、金属でできた鎖のマークの入った第一ボタンまで留めた好好爺然とした人物が、近くにいた者たちに柔らかく話しかけた。
エプロンと、チュニックに鎖のマークのついた飾りボタンを付けた女が進み出て、少し引き締まったを声を震わせ、
「はい、呪物を沈めるのは心苦いものがありましたが、幸い死人などはでなかったようです。」
「大勢のために、多少の犠牲はしかたのないことです。ですが、死人が出ないに越したことはないのです。よくやりましたね。」
ほめられた女は身を縮ませて頭を下げるが、どこか誇らしげだった。これからすることは、全ては明日を生きる人間のためなのだ。
「それで、アレは引き上げたのですか?」
「ただ今、湖に3名ほどで向かっています。隠していた船もありますので、すぐに引き上げられるかと。」
「そうですか。アレを引き上げれば湖は…汚れていくでしょうが、仕方ありません。…ドラゴンが目覚めた時のため、準備していた甲斐がありました。」
既に光のなくなった湖面を、ランプを下げた小舟が進む。湖中からチラチラと光る青が、その場所を示していた。
彼らはその光の上に着くと、重りと網のついた縄を慎重に垂らしていく。青く光るそれを掬うと、ゆっくりと引き上げる。
彼らの手の中にあるそれは、水滴を押し広げたような青いかけらで、石とも貝殻ともつかぬ質感を帯び、手のひらにずしりと重みを残していた。
「これが…」
神秘的なそれは、触れれば拒まれ、離せば引き寄せられるような不思議な雰囲気をまとっていた。
「これは…我々が手に入れても本当に大丈夫なものなのか…?」
「我らの正義を疑うのか!」
それでも持ってきた箱に無造作に入れる。その瞬間、湖面の光がわずかに揺らいだが、それに気づく者はいなかった。




