前を向いて飛べ
山奥の村とは少し違う音で目が覚めた。ドラゴは床の上で身を丸め、フウライはベッドで伸びをする。パンとスープで軽く腹ごしらえするのはフウライだけだ。
「ドラゴ、本当に食べないんだねぇ」
「食べられないわけではないが、必要ではないからな」
「そっかぁ」
いつか一緒に食べられるといいな。誰かと一緒に食べるとそれだけでおいしいし。
村長が忙し気に扉を開けて入ってくる。
「準備はできたか?準備できたら、村の広場まで来てくれ」
村長に連れられ村の広場へ向かうと、すでに取っ手のついた樽が準備されていた。村に一人だけの鍛冶屋が夜を徹して作ったものだ。
フウライはドラゴの背にしがみつき、ドラゴはゆっくりと、慎重に羽ばたいた。ドラゴの足が地から離れる。
「ひっ…ひえっ!う、浮いてる!浮いてる!」
さらにドラゴの首の鎖にしがみつく。見に来ていた村人たちもあとずさる。無理もない。今、この世界に空を飛ぶ人間はいないのだ。
「落ち着くんだフウライ、そんなに首を絞めては飛ぶ方向が変わってしまうぞ!」
「うう…」
なんとか息を落ち着かせ、引いていた鎖を緩めるが、体の震えはまだおさまらないようだった。
ドラゴは少し羽ばたくスピードを上げ、さらに上昇する。上昇するにしたがってフウライの顔が伏せられていく。
「フウライ、顔を上げるんだ。そして、前を向くんだ。いいか、お前が見たほうに我は進むのだ。湖の場所は我が知っている。だからフウライは前を見ていればいい」
乗り物の運転は見た方向に進むものだ。ドラゴが乗り物なら見た方向に進むというのは間違いではないのだろう。
こわごわと顔をあげ、まっすぐ前を見据える。ドラゴは取っ手をつかみ、さらに上昇し、ゆっくり湖へと羽ばたいた。
次第に速度をあげ、木々が後ろに下がるのが速くなった頃、ドラゴに問いかける。
「ねぇ、水が問題だって、どうして知ってたの?」
「うむ、村に入る前に村人が話していたからな。」
「聞こえたってこと?」
「まぁ、そうだな。」
――地獄耳。
「そうなんだ…えっと…どこまでの音が聞こえるの?」
「我にもわからんな」
いろいろなものを聞かれそうではあるが、そこは仕方ないと割り切った。そんな会話を交わしているうち、湖の端が目に飛び込んでくる。




