厄災じゃないドラゴと、働く理由
旅立ちの日は山中で野宿となった。その後半日程歩き、夕方が近くなった頃”ぐうぅぅ~”とフウライの腹が鳴った。
「あぁ、おなかすいたぁ~」
へにゃへにゃとした様子でフウライがつぶやく。無理もない。食べるものは森を通る際にもいだ果物ぐらいで、他は何も食べていないのだ。
「人間とは…弱いものだ。我は腹など減らんし、なんなら食べなくとも死なん!」
「えぇ…便利だねぇ。でも僕は食べないと死んじゃうんだよねぇ。」
「…それは」
そうか。人間は食べなければ死んでしまうのだな。確か、食い物を買うには金が必要だったはずだ。そして、労働の対価に、金や物を受け取るというシステムだったな。そんなことを考えつつ、口をついて出た言葉。
「バイトとやらをすればいいのではないか?」
「いい考えだと思うよ。僕だってそうしたい。…けどさ」
右腕を上げて、シャラシャラと鎖を鳴らす。
「残念だけど、これじゃ無理なんだよねぇ。」
さほど残念がってもいない様子で続ける。
「ドラゴは力があるんでしょ?きっと需要あるんじゃないかな?」
「……我が働くってこと?」
恐る恐る聞いてみる。にっこりと笑うフウライ。決定である。
そんなやりとりをしているうちに、目的の漁村の入り口に立った。見ると、村人ら数人がなにやら深刻な様子で話をしていた。こちらに気づくと、ドラゴを見て目を見開く。
「あ…あ…!や、厄災のドラゴン!?」
「こんな村何もないぞ!」
「いや、ここは初代の…」
「子供たちを中へ!」
バタバタと子供たちを家の中へ避難させ、こちらをにらみつけながら近づいてくる。ドラゴは目を細め、フウライは突然の出来事に目を丸くしている。
「でも、なんかちょっと小さくないか?」
「それに、鎖で人間とつながってるぞ。」
落ち着いた村人もいるようで、冷静に状況を判断する者もいる。ハッと気づいたフウライが、村人たちとドラゴの間に入る。
「このドラゴンは、ドラゴっていうんだ!厄災じゃないし、別に攻撃したりしないし、とっても優しいんだよ!」
もちろん事実である。フウライにとっては、だが。拍子抜けしたらしい村人も攻撃してこないドラゴンより、目の前の問題のほうが重要だったのだろう、いぶかしげに見ながらもすぐに話し合いに戻る。
その様子を見て、ドラゴはふわりと白いドラゴに変わる。
「水に問題があるんでしょう?」
「なんでそれを!?」
実際村人たちが困っていたのは水問題だ。村にある唯一の井戸水が”汚れて”しまったのだ。ドラゴが変身したことより水問題のほうが重要だった。だが、家の中の子供たちは違ったらしい。キャアという嬉しそうな声が聞こえてくる。
「飲めば腹を壊すし、洗濯をすれば皮膚がかぶれるんだ」
「死人は出てねぇが、水が使えねぇことには変わらねぇ」
「山の湖に水を汲みに行くんだが、半日はかかってな、しかも大量に汲めるわけじゃねぇ」
「樽をつないだんだが、どうやって運べばいいんだかねぇ…」
「報酬があるなら、手伝うわよ」
白ドラゴがさらりと宣言する。




