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「……で、何を聞きたいんだ?」
ティーカップを片手に俺を睨むイザリア。
食堂には第七期と八期が一部を除いて集まっており、各々の前にはちゃんとした料理が並べられている。
俺としては単に親善会のようなものとして食事に誘ったわけなのだが……向こうはそうと捉えなかったようだ。
今後も共闘することが度々あるのだから、コミュニケーションは必要だろうという程度のことしか考えていなかった。
また今回の費用に関してももうポイントは個人で使うには多すぎるくらい貯まっているので、気前良く全額俺が払っており、もしかしてこれが情報料と思われたのかもしれない。
(待てよ、ということは質問に答える気がある、ということか)
だったら何を質問しようか、と思っていたところでイザリアが俺を手で制する。
「折角だから当ててやろう。スコール1、お前が聞きたいのは大規模作戦について、だ」
「違うか?」と自信満々のイザリア。
思わず「特に何も考えていなかった」と言ってみたくなったが、ここは彼女の想像に乗っかることにする。
俺は料理を切り分けるナイフの手を止め頷く。
「バレバレか」
「察するのは得意だが、腹芸は得意ではないようだな」
ティーカップを口に運び小さく笑うイザリア。
何と言うか、強者感が出ていて中々様になっている。
「データベースには記録で残っているが……」
イザリアの言葉に俺は黙って頷き、彼女をじっと見つめる。
無言でそのまま見つめ続けると「わかったわかった」とお手上げのポーズをするイザリア。
「記録だけでは足りんか?」
「足らんな」
わざとらしく息を吐くイザリアに話の流れを掴んだ俺は畳みかける。
「わかっているはずだ。情報だけで生き延びることができるような生易しい戦場ではないことくらい。故に、それを生き抜いた者から聞きたいのだ」
実際問題、これまで行われた攻勢では多数の死者が出ている。
これまでとは比べものにならないほどの戦いになる――恐らくは同期もその予感は持っているはずだ。
少しでも全体の生存率を上げる。
そのための情報共有としてこの食事会を開いた。
(もうそういうことでいいな、うん!)
ポーカーフェイスを崩すことなく、話をまとめることができた俺は切り分けたトゥエニアを口に運ぶ。
「と言っても何から話したものかな……」
腕を組み天井を見上げるイザリア。
「食い終わってからで構わない」と食べながら告げると呆れたような顔をされる。
「何と言うか……お前は食事に妙なこだわりがあるな?」
イザリアの言葉に同期を含めて何人かが頷いている。
「当たり前のようにできていたことが、ある日突然できなくなる。だから、できる今を大切にするべきだとは思っている」
どこかで見たような、或いは聞いたセリフを口にすると視線がこちらに集中するのを感じた。
なので「受け売りだがな」と言ったところ「まあ、そうだろうな」という反応が返ってきた。
それはそれで失礼な反応である。
「しかし……意外と仲間想いだな、スコール1?」
イザリアがニヤニヤとこちらを見ているが、俺はそれを華麗にスルー。
「生存率を上げることに理由が必要か?」
冷静に返す俺を詰まらなさそうに見るイザリア。
周りからクスクスと笑い声が漏れ、マリケスが最初に口を開く。
「こいつにその手の攻撃は通じないから諦めな」
「自然とやっているところに人柄が出ているとは思うのですけど……」
「不器用、と言えば聞こえはいいかもしれませんが、ただただ面倒なだけですわ」
「言葉が足りんのだ」
続く女性陣は褒めているのか貶しているのかわからない。
レイメルは割と俺に対して肯定的である。
アネストレイヤは「面倒」と否定的。
言葉が足りないのはロールプレイ上仕方ないのだ、とアーシダを見る。
「そういうところよ」と横から口を挟むエルメシア。
それに揃って頷く女性陣。
味方はいないのか、と男性陣に目を向けると「諦めろ」という視線を返された。
天井を見上げる俺をイザリアが楽しそうに笑う。
「いい仲間だな」
ニヤニヤしているイザリアから視線を外すように俺は黙って飯を食う。
ギャグキャラも連れて来るべきだったかもしれないが、そうなるとこの食事会自体なかったことになりそうだ。
この空気をどうにかしてほしい、そう思っていたところにクドニクが合流する。
これで話を聞く状況が整った。
さあ、この流れを変えてくれ――と期待する俺にクドニクが一言。
「ふむ、儂の分もあるようだな」
いただこう、と遠慮なくまずは食事をすることを選択。
リオレスとクドニクに食堂へ来るように連絡を入れたので、二人の分も用意していたのが仇となった。
これまでの会話から食事を止めるわけにもいかず、俺はしばしこの空気の中で耐えることを余儀なくされた。
皆が食事を終えて本題となった情報共有へと移る。
結局リオレスはやはり来ないつもりのようだが、戦術担当がいるならば目的に沿っているので良しとしよう。
「こちらでも情報は仕入れているが、まずはそちらとの齟齬がないかの確認をしておこう」
クドニクの発言に頷くイザリア。
現状は予定の変更により、目的が人類の生存領域の拡大へと変わっており、そのための資材を急ピッチで仕上げている真っ最中である。
本来であれば北東にある都市跡に存在するであろう寄生体の生産設備、或いはそれに類するものの破壊までが目的であったが、第八期がエデンの想定以上の能力があり、ここを抑えつつも第二都市建造のための土地確保となる中継地点の作成を最終目標と定めるに至る。
これはエデンと第二都市を結ぶものでなく、北部全域を観測するための拠点であり、第二都市を守る砦にもする予定であることから、この中継地点の戦略的意味は大きい。
また、当初の目的である「寄生体の生産設備の破壊」が達成できない場合、中継地点の位置を変更し、第一都市であるエデンの拡張を行うための砦とする。
「――ここでまでは良いか?」
クドニクの言葉にイザリアは驚きの表情を浮かべている。
「そこまで調べているのか」
もう内部に情報提供者がいるのか、とイザリアは面白くなさそうである。
先輩風でも吹かしたかったのだろうか?
「時期に関しては次の大規模襲撃の後だとは聞いているが……そちらはまだ予測ができていないはずだ」
「そちらも正解。付け加えるなら、次の大規模襲撃は南から。これを潰しておかないと北に進むのはリスクが高い」
「道理だな」と頷くクドニク。
予想以上に調べ上げていることに感心するイザリアは情報源を聞きたがったが、当然クドニクは沈黙を貫く。
恐らくはジョニー経由で伝わっているのだろう。
心当たりはあることを顔には出さず、俺は黙って二人のやり取りを聞く。
「当時の記録を見る限り、こちら側から打って出れば周囲のデペスが反応する。スコール1とフィオラ・アルフメルデの戦いで大型が釣れたのも、恐らくはこの習性が原因だろう」
「そして、一定ラインを越えれば連鎖的に反応し、周囲のデペスが一斉に動き始める」
情報を付け足すイザリアにクドニクは頷いた。
これがあるからある程度は敵を削ってから攻勢に出る必要がある、
ここまでは俺も知っているし、恐らく同期のほとんどが知っている情報のはずだ。
「儂が問題視しているのは攻め込んだ先――つまりは特型だ。考え得る限りの最悪を想定しておきたい」
「データベースにある特型の情報はあてにならないと?」
イザリアの問いに当然とばかりに頷くクドニク。
特型というのは基本的に同じタイプのものがいない。
「特殊」だからこその特型であり、過去に出てきたタイプと似たものは確認されているが、全く同じというのは大昔にいたかもしれない、という程度である。
まだ第一期が現役だった時代、碌に確認もしないままに消し去られた特型の中にいた可能性がある、という程度の話だ。
俺としても人類を模倣する人形型についてもっと情報が欲しいと思っている。
「魔法を使ってくる、というがそれがどのようなものなのか知っておきたい」
口を挟む俺を見て「そういうことか」とイザリアが納得したような表情を浮かべる。
「なるほど、私を選んだのもそれが理由か。しかし、これを機に第六期との親交を得る、というのも一つの手だったと思うぞ? 何せ、経験なら向こうが上だ」
「そちらは機を見てやればいい。歴史上最も優れた魔術師の一人と称され『万能』の二つ名を持つ現代魔術師――選ぶに不足はないはずだ」
俺の言葉に気分良く鼻を鳴らすイザリア。
実際、調べた限りでは、魔術関連で彼女に勝る英霊は数少ない。
敵を知ることに関しては解析が得意なジャミトスが生きていれば、と思わなくもないが、生憎彼は特型との戦闘経験がないのでその仮定は意味がない。
魔法の座学を受けるに至り、ある程度の知識を得た俺の考えでは彼女から意見を聞くのが恐らく最も正解に近い。
なんとなくで始めた食事会が予想外の方向へと流れてしまったが、何だかいい感じの結果に収まりそうである。
終わり良ければ総て良し。
さあ、イザリアから特型に関する情報――特に向こうが使う魔法の情報を聞くとしよう。




