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3-24

 このエデンで人気を得るには強さを示すことが重要である。

 ではデイデアラとケイにはどれほどの差があるのか?

 実際に戦えば恐らくはデイデアラが勝つ。

 また、地形次第ではかなりいい勝負になると俺は見ているが、戦場における戦果を見ればデイデアラに軍配は上がるだろう。

 しかしケイが弱いというわけではなく、彼女は戦術的な運用をすることで高い評価を得る。

 その証拠にエデンはケイの評価を改めており、今では第八期の主要メンバーの一人として数えている。

 両者を比べると「個のデイデアラ」と「チームのケイ」と言ったところだろう。

 ならばこの人気の差はどこから来るのか?

 最初は見た目だろうかと思っていたのだが、デイデアラとケイのフォトカードを見て二人の差に納得した。

 ただ戦場で暴れ回るのがメインのデイデアラに対し、ケイは一枚一枚に特徴があった。

 特に戦闘中であるにもかかわらず、余裕を示すように無表情でパタパタと足を動かし、地形操作で相手を捕らえた瞬間に見せる獰猛な笑み――このギャップは非常に強く印象が残る。

 他の写真と比較しても出来が良く、ケイという人物を知るには良い素材と言える。

 同時に「なるほど、これは人気が出るのも頷ける」と動く写真の重要性を理解する。

 これまでエデンが記録することができている範囲でしかこの写真は作ることができない。

 職員はともかく、市民にはこの写真の情報が最も大きな印象であり、これでの出来栄えが人気を左右すると言っても過言ではないのだろう。

 なので見せ場のあったリオレスやエルメシアが八期の中でも上位に位置し、逆に存在を消した忍者や戦果は出せども絵になる場面がなかったデイデアラは人気が低い。

 このように人気の分析をしてみたが、順位を見る限り恐らく間違ってはいないだろう。

 また「何故貴重な資源を使ってまでフォトカードを作るのか?」という理由も少しではあるが見えてきた。

 

(英霊と市民、両者の世代交代を考えて、記録や映像として残すためにやっていると考えれば合理的か?)


 歳を取らないとは言え、英霊はいつまでも戦い続けることができるわけではない。

 第一期は眠りにつくことで一人だけが残り、二期はもう誰も残っていない。

 三期と四期も残り僅かであり、フィオラのいる第五期も元から少ない人数が今や三人にまで減っている。

 いつかはエデンを守る主要メンバーが入れ替わる。

 その準備と考えれば資源を使ってでも行うことに合理性を見出せるのだ。

 一度真相を聞いてみてもよいかもしれないが、果たしてスコール1はそんなことを気にするだろうか?

 関連する何かを聞かれなければ、自ら積極的に話題にするほどでもない。

 ローガンはスコール1を「必要以上に察しが良い」と評価しており、それに当てはめた場合、俺は「全て把握している。或いはほとんどわかった上で何も言わない」と振る舞うのが正解に最も近い気がする。

「何とも難しい立ち位置をキープしなければならないな」と自然に溜息が漏れてしまう。

 それを近くにいる二人がどう捉えたか?

 少なくともクドニクはこの件を思ったよりも深刻に考えているらしく、俺の溜息を悪い方向に捉えたかもしれない。


「不本意だが、あの阿呆が取り返しのつかないことを仕出かす前に取り押さえるか、それとも見張りを付けるかくらいはするべきだろう」


「いや、幾らあのおっさんでもそんな……」


 クドニクの提案に反論しようとしたマリケスの語尾が濁る。

「そんな問題を起こすか?」という自問に可能性を感じてしまい、その答えが唸り声となって口から漏れている。


「この戦いは先が見えん。だから第八の評価を落とすことが、後々どのような弊害をもたらすかが予想できんのだ」


 将来起き得るリスクは今のうちに摘むべきである、とクドニクははっきりと言った。

 エルメシアの時と同じことを言っているが、今ではその意味を正しく理解できる。

 クドニクは未来を見据えて発言している。

 これを過敏と捉えるか?

 それとも果断と捉えるか?

 後者とする者がいるからこそ、彼の周りには人が集まったのだろう。

 生前の功績から「希代の名将」とまで言われた彼の言である。

 ならば聞き入れて損はないはずだ。


「見張りを付けよう」


 俺の言葉に二人の視線がこちらに向いた。

 予想外だったのか、二人とも少し驚いたような表情をしている。


「デイデアラは良くも悪くも感情で動く。先日やらかしたばかりでまた問題を起こせば、最悪は第八期の信用問題に発展する恐れがある」


 クドニクの発言に同意する形で二人に行動を促す。

 とは言え、これで俺も動かなくてはならなくなった。

 ロールプレイ的には微妙なラインだが、実際問題あのおっさんが何をやらかすか想像がつかず、こっちにまで影響が出る可能性を否定できなかったのだ。

 こうして静かな日々はお預けとなり、慌ただしく騒がしい日常へと上書きされる。

 言い訳はしない。

 忘れていたのは事実なのだから。




 行動方針が決まればすぐに動く。

 クドニクはいつものメンバーに話を通し、マリケスはデイデアラを探しに向かう。

 俺はと言うとクドニクでは応じてくれなさそうな相手や、比較的親しい相手に話をすることに決まった。

 メール等の通信手段でやれば早いのだが、未だに端末を使えない、或いは使う気がない連中がおり、これに関しては以前アリスから「記録だと全員が使うようになるには大体数年かかるそうです」と言われていた。

 当初は「まさかそんな」と文明の利器を使用しない、という選択肢がそう長く続くはずがないと思っていたが……ものの見事にその予想は覆されている。

 ポイントの利用や調べものは比較的早く利用できるようになるのだが、通信ができるようになるのには時間がかかるらしい。

 理由としてはエデンに対する警戒や不明瞭な理屈、不慣れな操作から感じる非効率などが挙げられるそうだ。

 お陰で通信相手のアドレスや番号がわからない。

 聞いたところで把握していないので答えがない。

 そんな訳でまずはアリスにメールを送信。

 時間的に仕事中だろうし、そこまで急ぎの用件ではない。

 並行して誰かいないか探して回る。

 しばし廊下を歩き続けたところ、午前中に発見した良いスポットの近くに来たのでそちらを覗いてみることにする。

 するとそこには第八期の女性陣が集まっており、全員分のカップと僅かなお菓子がテーブルの上にあった。

「女子会か」と先を越されていたことを少し悔しく思いながら彼女たちに近づく。

 すると俺に気づいたアネストレイヤがこちらに向かって優雅に手を振る。

 お嬢様っぽい見た目の所為か妙に様になっている。


「スコール1か、こんなところで会うとは珍しいな」


 アーシダの言葉に頷くケイと無言のウィーネリフェルト。

 レイメルは静かに手を振っている。


「機会があれば、ここでゆっくり食事でもしようかと思っていたのだが……」


 既に知られている場所だったか、と残念そうにしながらもレーションガチャを開始。

 それを見るなり「チョコレートでお願いします」と遠慮がないレイメル。

「私の分はいらないよ」と研究員の服装をしているリアディが軽く手を振る。


「久しぶりか?」


「そうでもないさ」


 積もる話はあるかもしれないが、まずは彼女たちにこちらの用件を伝えつつ、レーションの箱を報酬代わりに手渡す。

 俺の話を聞いて「あー」や「確かに」と言った同意する声が複数上がる。


「そういうことでしたら、エルメシアには私の方から言っておきますわ」


 協力を申し出るアネストレイヤに「助かる」と一言礼を言う。

 しかし二人はいつの間に仲良くなったのか?

 一つの可能性が頭を過ったが、それは口に出すべきものではないと話を進める。


「デイデアラを煽ったようだが……」


 そう言いながらケイを見るとただ一言「身長」とだけ言ってレイメルから手渡されたレーションを齧る。

 小さな少女にしか見えない彼女の姿を見れば、背が低いことであのおっさんに何か言われたのだと想像するのは容易い。


「先手はデイデアラか」


 俺が溜息を吐くとケイは黙って頷いた。

 身長が低いケイは実年齢より幼く見られがちである。

 彼女については生前の情報があまりに少なく、ほぼ何も知らないと言ってよいが、それでもこの姿が全盛期というのであれば、長生きはできなかったことが窺える。

 そんな彼女が身長について揶揄されれば……そこまで考えると「やり返すのも止む無しか」と納得したところに一人の手が上がった。


「あの髭、一回シメた方がいいんじゃない?」


 ウィーネリフェルトのこの一言を皮切りに、日頃セクハラをされて鬱憤が溜まっているのかデイデアラに対する女性陣の不満が爆発する。

 そこまでやる必要はないと俺は思うが、女性陣はそうではないらしく、あーだこーだと話が弾み始める。

 そこへ何か考え込んでいた様子のアーシダが一言。


「私の記憶が確かなら『髭は汚いから近寄んな』が先だな」


 アーシダの言葉に全員の視線がケイに集中すると当の本人は露骨に目を逸らした。

 おう、どっちもどっちじゃねーか。

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戦いは同じレベルの者同士でしか発生しない……!
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