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3-22

 第一期の英霊にして最初の規定外領域到達者「カリツ・コールマン」については驚くほど情報が少ない。

 現在唯一残った第一期の英霊であり、現存している最古の英霊でもあり、眠りについてなお最強の座に君臨し続ける男。

 その彼が何処で眠っているのかを知る者は少なく、彼についてはエデン側が意図的に情報を隠蔽していると思われる。

 それ故に彼の存在を知る者はこう言う――「カリツはエデンの切り札である」と。

 普通に調べてもカリツの存在を知ることはできても大した情報を得ることはできない。

 しかしレイメルは長期に渡って眠り続ける手段を調べることで彼に辿り着いた。

 その過程でカリツに関する情報を幾つか手に入れることができたのだと言う。


「エデン最初の最高戦力であり、その能力は指定座標の破壊。肉眼で確認できない距離のデペスの群れをたった一撃で壊滅させた、という記録もありました」


 エルメシアと似た能力ですね、とアイスをまた一つ口に入れるレイメル。


「性能は段違いのようだがな」


 そう言って俺もアイスを一つ摘まむ。

 実際その能力はとんでもなく、記録にある3000メートル級の特型をカリツは一撃で沈めている。

「彼がいなければエデンは滅んでいた」とさえ言われる特型のデペスをカリツは合計五回単独で撃破しており、この記録が嘘でなければ最強という評価も頷くしかない。

 しかしこれはエデンの彼への依存度を示す数字に外ならず、何としてでもカリツを還すわけにはいかない理由になってしまっている。

 どんな条件で彼は眠ることを受け入れたのか?

 それを知る術も、その機会も恐らくはない。

 どのような人物であったかを知ることも恐らくはないだろう。

 それ以上に彼の出番がないことをただ祈る。

 そんな敵の相手などしたくないし、出てきてほしくもない。


「聞いていますか、スコール1?」


 どうやら上の空だったらしく、テーブルの向かい側からレイメルが俺の顔を覗き込んでいる。

 俺が見えていない、と言う割にはすっかり見えているような動きになっている。

 先ほど考えていたことを打ち明けてみるとレイメルも考え込んでいる。


「きっと、彼の世界にはまだ守りたいと思うものがあったのでしょう」


 残してきた者を守るためここで戦い続ける。

 この世界が滅べば、いずれは彼が守りたかったものも飲み込まれる。


「そうだといいな」


 彼がそのように選択したことが、恐らく誰にとっても都合が良く、きっと正しいことなのだろう。

 思うところがあるのかお互い何も言わず、器の中のアイスだけが減っていく。

 そんな中、静かであるが故に聞こえる足音。

 勢いよく厨房の扉が開かれ、入ってきたのはデイデアラ。


「お、ここにいたかスコール1」


 留置所から出てきたようだが、どうやら俺に用があるようだ。

 こちらに向かって来るデイデアラを見ながらアイスをまた一つ口に入れる。

 これで最後の一つとなったが、レイメルは残されたものが何味か知っているようで手を出さない。


「お前が手を回してくれたんだろ? お陰で予定より早く、すっぱぁ!」


 当然のように断りもなくアイスを口に入れたデイデアラがその酸っぱさで悶えている。

 横目でレイメルを見ると口元が思い切り笑っているので、やはりわざと残していたようだ。

 日頃セクハラされている恨みでもあるのかもしれない。


「お前らよくこんなもんが食えるな……」


 吐き出そうとするデイデアラを俺は眼力で止める。

 人のものを勝手に口に入れたのだから最後まで食べなさい。

「わかったよ、食べればいいんだろ」とゴリゴリとアイスを噛み砕いてさらに悶絶するデイデアラ。


「他にも色々な味があったんですが……」


「それが偶々残ってしまいまして」とレイメルは楽しそうにデイデアラへ伝える。

 もしかしたらレイメルは足音でおっさんがこちらに来るのを察知して、あの酸っぱいのを残しておいた可能性が出てきた。


(このおっさんを甘やかしても碌なことがないのでむしろグッジョブか?)


 レイメルにだけ見えるように親指を立てるとクスクスと聞こえる笑い声。


「あー、噛んだのは失敗だったか?」


 舌を出しているデイデアラが水を取りに行き、それを見て「これに懲りてくれたらいいのですけど」とテーブルに身を乗り出したレイメルが俺にだけ聞こえるように呟く。

 それに同意したところでカップを持ったデイデアラが戻って来る。

 レイメルも元の位置に戻っており、酷い目にあったと水を飲むデイデアラ。


「それで用件は?」


「ああ、予定より早く出ることができたのはお前が何かやってくれたんだろ?」


 当然心当たりがない俺はこれを否定する。

 ついでに何かやっていたらそれはベルクシオであると教えておくが、これに嫌な顔をするデイデアラ。


「いや、あいつがそんなことするかぁ……って何だこれは?」


 そう言ってデイデアラがテーブルの上に置かれた動く写真を手に取る。

 出したまま忘れていたことに気づいたレイメルが「あっ」と小さく声を上げる。

「ほうほう」と誰のどこを見ているのかがよくわかるデイデアラから写真を取り返そうとするレイメル。

 しかし野生の反応速度を持つデイデアラが手を高く上げてそれを阻止。


「こんなもんがあったのか」


 見上げるデイデアラと飛んで取り戻そうとするレイメル。

 デイデアラは写真に夢中のようだが、俺の目の前にはもっと揺れてるものがあることを教えてはやらない。

 俺はもう一枚の写真をデイデアラに手が届くギリギリを狙って投げ渡し、それを掴もうと体勢を崩したところでレイメルに取り返される。


「……お前のかよ!」


 写真を投げ捨て文句を言うデイデアラだが、誰のものかと言った覚えはない。

 レイメルも写真を取り返してホッと胸を撫で下ろしている。


「恐らくだが、お前のも販売されているぞ?」


 俺の言葉に「ほう?」と興味津々のデイデアラ。

 ということで先日の件を話し、現在人気投票イベントが開催されていることを教えてやる。


「おいおい、俺様が地下にいる間に面白いことになってんじゃねぇか」


 慌ただしく厨房を出ていくデイデアラを見送り、二人揃って溜息を吐く。


「相変わらず落ち着きのない人です」


「そうやって駆け抜けるように生きたのだろうさ」


 ベルクシオに言われているので一応程度にフォローはしておく。

 ともあれ、アイスもなくなったのでこれでお開きか、と空の器を持って立ち上がる。

 すると俺の前に立って写真とペンを差し出してくるレイメル。

 首を傾げる俺に「サインを書いてもらえますか?」とまさかのファン宣言。

 予想外の展開にしばし思考が止まるが、次のレイメルの言葉で再起動する。


「とてもよい値段で売れると思いますので」


 当然俺の答えはNOだ。

 両手で×印を作る俺を見てがっかりするレイメル。

 転売ダメ、絶対。

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― 新着の感想 ―
>サイン  ×を出したのはスコール1の中の人の判断としてはまったくもって間違ってない。むしろよくやったというべきか。何故って? 世の中には筆跡鑑定と云うモノがあってな?勘のいい読者ならこのヒントだけで…
いやサインを売るなよ。
両手でバツ作るの想像するとなんかかわいい
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