3-20
ベルクシオの説教が終わり、しんなりしているデイデアラを置いて留置所を出る。
おっさんが涙目で俺を引き留める所為で結局最後まで居てしまった。
この事についてはベルクシオから謝罪を受けているが、微妙な時間潰しをしてしまったと本気で思っている。
他人が説教されている場に同席である。
居心地の悪さでどうにかなりそうだった。
では何故その場に居続けたか?
おっさんの涙目に負けたわけではなく、ベルクシオが何か言いたげな素振りを見せたからだ。
なので留置所を出るなり俺は視線で用件を促す。
「良くも悪くも、陛下は感情を優先するお方ですから……」
眼力が足りなかったらしく、聞いてもいないことを聞かされた。
相手の察しが悪かったという可能性もあるが、同じことを繰り返しても仕方ないのでちゃんと口に出して用件を尋ねる。
「それで、俺を残した理由は何だ?」
「……誰に話すべきか悩みました。そんな時にあなたがやってきた。スコール1、あなたならば丁度良い」
言い方に少し引っかかるものはあるが、俺は黙ってベルクシオに続きを促す。
「ナックも、オーヴァもウェジンもいない。アリミシア様も、ハイラレイン様もいない。あの方の傍にいた者は、今や私一人だけとなりました。いや、こう言うべきでしょう。『私だけが戻ってしまった』と……」
そう言って遠くを見つめるベルクシオ。
恐らくは生前デイデアラの周りにいた人物の名前だろう。
それらが何を意味するのか?
残念ながらそれを察するにはあまりに俺はデイデアラという人物を知らなさすぎる。
よってただ黙って話の続きを待つことしかできない。
「私とてあの日々を思い出さないことはありません。しかし、残された我々と違い。あの方は我々を救い、先に逝ってしまわれた。だから陛下はその先を知らず、あの平和と言えなくとも穏やかな日々を思い出すのでしょう」
要するに再会してゾンビハザード前を懐かしく思うデイデアラと、その世界で戦っていたベルクシオとの間で互いにすれ違いが起きている、とでも言いたいのだろうか?
(守るために犠牲になったが、残された者は地獄のような世界を生きねばならない)
なんとなく話は見えてきたと思ったのだが、話は俺の予想とは全く違っていた。
「今の陛下はとても不安定です」
思わず「そうか?」と言いたくなるくらいには平常運転な気がする。
念のため、これまでのデイデアラの行動を最近のものと比較してみる。
(……うん、違いわかんねぇ)
黙り込む俺をどう解釈したのか、満足そうに頷いているベルクシオ。
「いや、同意したわけではないのだが」と言えないのが、空気を読める日本人の悲しい性である。
「かつての日々を思い出すのでしょう。事あるごとに陛下は私と自然に話す状況を作ってくださいます。そう、今回のように……」
「そうだろうか?」と首を傾げる俺とそれを無視して熱く話を続けるベルクシオ。
ここに来てようやく状況が読めてきたのだが……とどのつまりは「忠誠心が暴走してる奴が勝手に何か言ってるだけ」である。
案の定、ベルクシオは「今の陛下は陛下らしくない」と言ってその原因が自分にあると思い込み、あのおっさんが過去に縋る様子が見ていられないから何とかしたい、と力説している。
数百万のゾンビから国民を逃すために一人で足止めする国王の姿をみたら忠誠度もカンストするか、と理解に前向きの姿勢を取ってはみたが、当事者でないのでさっぱり言いたいことが伝わらない。
そんな俺に何をしろというのか?
ベルクシオの話を聞き流し、いい加減鬱陶しくなってきた俺はこの流れを断ち切るように口を挟む。
「それを俺に聞かせる理由は何だ?」
「言ったはずです。丁度良い、と」
まるで都合がいいから利用するかのような発言に若干不機嫌になるが、続く質問に俺は言葉を失った。
「あなたは考えなかったのですか? この戦いが続き、次の英霊召喚で本来のスコール1……あなたが成り代わった彼が呼び出された時のことを」
「その時、あなたは正常でいられますか?」とベルクシオが俺に問う。
それは完全に抜けて落ちていた視点。
彼ならば、本物のスコール1がここに来る可能性を考えるか?
そんなものは答えるまでもない。
(完全に失念していた。彼にとって「英雄」と言えばスコール1だ。ならば地球出身である俺が出てきた時点で、次があることを考慮するのは当然だ)
俺が来るまでは地球から召喚された者が誰もいないことから、色々と理由を付けて呼ばれていないことに納得できる。
だが、その前提は俺が召喚されたことで崩れている。
次があると考えるのは至極当然のことなのだ。
同時にもう一つの事実に気が付いてしまう。
スコール1は二人いる。
これが何を意味するか?
(俺が英雄と……「人類の希望」と見上げた存在が召喚される可能性をエデンは真っ先に考えたに違いない)
それどころか他のチームのメンバーが来ることも期待している可能性が極めて高い。
スコール1を現在の俺と同等と見做しているのであれば、エデンが俺の活躍に沸き立つのも当然である。
同じ能力を持って呼ばれるわけではないだろうが、その希望が「ある」と思っているのだから熱狂してしまうのも頷ける。
だが、彼らが呼び出される可能性は恐らくない。
その理由は言わずもがな。
明らかに俺はイレギュラーな存在だ。
ここに召喚された全員が同じ境遇である可能性を否定しての断言だが、恐らくは間違っていないだろう。
俺が成果を上げれば上げるほどにその期待値は上がっていく。
残酷なことに俺が作り上げてしまった「スコール1」という偶像は、エデン全体を巻き込み取り返しのつかない状態になっているのかもしれない。
ベルクシオと別れてからも俺はずっとこのことばかりを考えていた。
ちなみに向こうの用件だが、要するに「デイデアラの様子がおかしいからそれとなくでいいから見ててね」というものだった。
過保護と言うか何とか言うか……そんな風に甘やかすから調子に乗って変な行動をするのではないだろうか?
翌朝、目が覚めた俺は未だに昨日のことを引きずっており「どうしたものか?」と頭を悩ませていた。
完全に失念していた地球軍の召喚と自らの活躍が肥大化させた期待と偶像。
向こうが勝手に期待しただけ、と突き放すことは容易いが、それはそれで後味が悪い。
結局、この問題の答えと呼べるものは一つだけ――それも「俺がこの戦いを終わらせる」と何とも物語の主人公めいたものだった。
実際終わらせるつもりはあったが、それがこんな理由で改めて決意する形になったのは予想外だ。
ロールプレイを考えるならば、これを淡々とこなすのがグッド。
変に熱量を感じさせるのは控えるべきだろう。
幸い次の英霊召喚にはまだ時間がたっぷりとある。
悩むのはずっと後にすることであり、今目の前にあることに全力を尽くすべきだろう。
「これでこの件は終わり」とベッドから立ち上がると同時にアリスから通信要請が来る。
端末を操作するとただ一言「助けてください」とアリスの声が聞こえてきた。
その短い救助要請に俺は飛び出した。
助けを求められればどんな絶望的な状況でも助けに向かう。
それが「スコール1」である。
だが、向かった先で後悔することもある。
「ようやく来たか、スコール1。余を待たせるとはなっとらんな」
そこにいたのはフィオラ・アルフメルデ。
こいつに絡まれたことでアリスは俺に救助要請を送ったようだ。
「なんてことをしてくれたんだ」とアリスを見るとそっと目を逸らされた。
つまり悪いことをしている自覚があるということだな?
いや、この場合は脅迫に屈した、と見るべきか?
犯人を見ると目が合ってしまい無意識に溜息が漏れる。
しかしそんなことを気にする奴ではなく、まずは手始めに自分語りから入るナルシスト。
「余の美徳は星の数ほどあれど、完璧で究極の美少女である余にも不徳はある」
「星の数舐めんな」と喉まで出かかった声を引っ込め、口を挟むのも無駄だと悟っている俺は黙って変態を喋らせる。
「余はせっかちなのだ」
「そんな余もかわいかろう?」とあざとくポージングする糞ウザイ変態。
周囲から「それくらい知ってます」という視線を向けられるも、その全てを己への称賛と捉える完璧で究極の変態が俺の大きな舌打ちを無視して話を続ける。
「先日の戦いでは貴様との決着が着かなかった。すぐにでも再戦をしたいところだが、貴様の回復を待たねばならぬ。そこで今話題となっている動画に目を付けたわけだが……」
こちらも時間がかかる、と肩をすくめ「こんな余も絵になるだろう」とウザイドヤ顔を披露する。
「よって、ここは一つ短期間でできる勝負を思いついたのだ」
そう言って胸を張る変態とまばらに聞こえてくる不揃いの拍手。
この職員たちの諦めきった表情には同情しかない。
「それは……人気投票だ!」
ポーズを決めて新たなイベントを宣言する変態。
恐らく既に根回しは済んでいるので確定事項だろう。
人が朝から悩んでいたのにこの能天気はこんな馬鹿なことに労力を費やしていたのである。
「こいつの頭かち割れねぇかな」と思わず呟いてしまったが、恐らく誰にも聞かれていないはずだ。
やる気のない拍手と高笑いが聞こえる日常とか本当に勘弁してほしい。
そう思ってアリスを見ると「頑張ってください」と頷かれた。
あ、俺もうこっち側なんだ。




