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「そもそも簡単に出入りできそうな椅子に誘うのもどうかと思うが……」
肩を叩かれ消え去った十三番目の彼がリストラされた会社員にしか見えず、俺は思わずそう呟いてしまう。
「戯け。余が立ち上がらせたのは『無貌』だ。あやつは余と共に戦場を駆けた者ではない」
なので本来はあの椅子に座ることのない者らしい。
十三番目の選定を遅らせるために用意された陰の者たち――それが無貌と呼ばれる人物なのだそうだ。
「あの座に出入りが許されるのは余の戦を支えたが故の褒賞。本来座るべき立場にない者たちよ」
つまり十三番目の彼はそこに相応しい者が見つかるまでの代わりということのようだ。
だからと言って首を縦に振るようなメリットもないので、答えは勿論変わらずNOである。
「ふむ……確かに余の説明不足だったかもしれんな」
「今頃か?」と喉まで上がってきた言葉を飲み込み、何を持ってそこまで自信満々に誘えるのかが逆に知りたくなってきた。
「まず一つ、余と共に最後まで戦うことができる!」
ブオンとバイクのエンジンが音を立てたところで「二つ目!」とフィオラが待ったをかける。
「余の完璧で美しい体を堪能できる!」
ウインクをしながらポーズを決める変態を無視してバイクが走り出す。
同時に「待てい!」と勅令剣を発動してバイクを止めてくるフィオラ。
「クソが、クールタイムが意外と短い」と心の中で吐き捨て、ビークルを解除して次のバイクを出す。
「この体に反応せんとか……貴様、不能か?」
いつの間にか裸になっている露出狂。
そんなことより、このやり取りでおかしなことに気が付いた。
「そもそも、呼び出される英雄になって自我は残るのか? 肉体を失えば下半身事情など関係ないだろう」
俺の言葉にフィオラは「え?」と状況を理解できていないような声を漏らす。
明らかにある食い違い。
俺は溜息を吐きたいのを堪え、バイクに跨り空いた椅子を指差す。
「あの椅子について説明しろ。あと服を着ろ」
「余に命令するか……まあ、よかろう」
そうして語られる英雄召喚のシステム。
所々自画自賛が混じったため要約するとこうなる。
「英雄の座に座る者たちは生前お前と一緒に戦った者たち。しかし十三人目がいなかったため、数合わせに『無貌』と呼ばれる裏方を入れており、それと入れ替えることで十三番目の英雄を呼び出すことが可能となる。十三番目となるものは椅子に座ることで複製されるが、その力を最大限発揮できるようになるのはオリジナルの死後となる」
「うむ。我が英雄の一人となっても死ぬわけではない。不完全とは言え、貴様が二人になるのだ。どれほどの戦力増強が見込めるかなど言わずともわかろう」
そのメリットだけを提示していたならば、もしかしたら俺は頷いていたかもしれない。
だが、そこに座って出てくるのは本当にスコール1なのか?
この懸念点がある以上、結局は拒否していたに違いない。
何よりも、明確に拒否する理由が俺にはある。
「利点は理解した。だが断る」
「単純に力を貸すと思え。貴様は既にやっておるだろうが」
武器を貸すのとは違うだろうが、と言っても恐らくは聞く耳を持っていない。
メリットも提示している、と不満そうな顔をするフィオラだが、その条件が問題なのだ。
「お前がついてくるのが一番嫌なんだよ」
驚愕の表情と「そんな馬鹿な」とでも言いたげなリアクションを取るフィオラ。
流石にこれ以上構い続ける気はないので帰ろうかと思ったところで、エデンの方角から信号弾が上がった。
「……襲撃か!?」
状況を察した俺はそう叫ぶとバイクを走らせる。
その後ろにフィオラが着地したことを確認してから全速力。
「ふむ、このタイミングでか」
「何か気になることでもあるのか?」
俺とフィオラが戦う以上、襲撃がないと予想される日時で行うのは当然だ。
そうなるように調整していたにもかかわらず襲撃があった。
恐らくはそのことかと思ったのだが、他に理由がある可能性もある。
「エデンから少し離れすぎたのかもしれん」
「連中を刺激した、ということか?」
俺の言葉に「うむ」とだけ返すフィオラ。
その可能性は確かにある。
となると今後、この変態との全力戦闘はより条件が厳しくなり、上手くすれば二度とできなくすることも可能なのではないか?
「……貴様、何を考えている?」
妙なところで察しが良いのが英霊という連中。
俺はただ一言「急ぐぞ」とだけ言うとバイクの速度をさらに上げた。
「何があった!?」
エデンに到着するなり大声を上げるフィオラ。
待っていた上層部のお偉方から直接状況を教えられるが、彼らの焦りようとは異なり冷静に話を聞いている。
最高戦力としての威厳がこの時くらいは感じられる。
「喜べスコール1」
話を聞いている最中にフィオラがこちらを向いて笑う。
「ついに大型のお目見えだ」
笑える話ではないだろうが、この戦闘狂は違うらしい。
ゲートが閉じたので俺もそちらへと合流すると丁度敵戦力の詳細を表示している最中だった。
「大型1に中型24か……」
小型がいないとは言え、これは結構な戦力なのではないか?
そんな俺の考えを察してか、ミグニが「大規模襲撃の戦力に匹敵します」とこの状況を教えてくれる。
既に全ての英霊たちは作戦室におり、いつでも出撃できるように準備中とのことである。
「よりによって機械型とはな」
「はい。まだ三年は先と予想しておりました」
フィオラとお偉方の会話に大型の機械型デペスの情報を思い出す。
(確か全長200メートルくらいの空中要塞みたいなやつで長距離射撃が可能な最も危険視されているデペスの一つだったか?)
大型なんて全く見なかったので記憶が少々怪しい。
なので端末を借りて調べる。
「最悪は俺が切り札を使うか?」と思ったが、特型になればサイズがその十倍の空中要塞が出てくる可能性もある。
特型は基本固有個体で近いものはあっても全く同じものは確認されていないらしいが、今後もそうであるという保証はない。
「本当にデペスは謎だらけだな」と思っているとどうやら話はまとまったようだ。
「『彼』を起こす」
レデルの言葉に全員の表情が曇る。
「飛行タイプでなければ現在いる英霊でも犠牲なしで対処もできただろう。だが敵が全て空を飛んでいるのであれば、どれだけの犠牲が出るか……」
そう言いながらも俺の方をチラリと見るレデル。
何を求めているのかはすぐにわかった。
「手段はある。だが、それは一度きりの可能性が高い」
「それとも単騎で突っ込むか?」と勝算がゼロではないことを仄めかす。
正直に言うと空を飛ぶデカブツを相手にするのは慣れている。
そして敵の情報は既にある。
これらを確認した上で俺はこう思った。
(強力な武装を全ぶっぱしたら案外なんとかなるかもしれないんだよな)
しかしそうなるとミーティアがないのが悔やまれる。
「バスターキャノン」という固有カテゴリのミーティアならば、これ一つで二十四体の中型を半分以上倒すことができる。
何なら大型にぶち込んで被害を見てもよかった。
だがないものはない。
仕方なしにミーティアなしでの戦術を組み立てているところに待ったがかかる。
「いや、君を犠牲にするような真似はできない」
レデルの言葉に頷く一同だが、一人だけは違う意見だった。
「よかろう。ならば余が共に行こう」
エデンの最高戦力が名乗りを挙げる。
現在活動している英霊ツートップによるタッグとあって盛り上がる始める周囲。
「これならば……」とお偉方が期待を口にする中、それらを片手で制したフィオラが俺の前に立ち手を差し出す。
そんな俺の答えはというと……勿論NOだ。
ポーカーフェイスのまま胸の前でバツ印を作る俺に全員が固まった。
(いや、確かにこいつの戦力は有難い。でもさ、空中戦したりバイクで敵の上を音速超える速度で走るような高速戦闘には間違いなくついてこれない。自由飛行ができないから空中戦は不向きなんだよ、こいつ)
先ほど戦ってわかったが、フィオラは真価を発揮するのは地上戦である。
消耗した状態で不向きな空中戦をさせるのは少々リスクが伴う。
それを含めてこいつとタッグとか普通に嫌なのできっぱりと拒否したというわけである。
「余、最強に強いんだが?」というセリフを前にしても俺はバツ印を崩さない。
キレたフィオラが俺の胸倉を掴み、どうにかしてそれを宥めようとするお偉方。
戦う前に何やってんだ、と言いたいが、俺にも原因があるので何も言えない。
さて、どうやって彼らを説得したものか?




