3-13
唐突に始まった駄々っ子モードを前に俺は露骨なくらい大きな舌打ちをする。
するとこれではダメだと理解したのか、今度は上目遣いで「余、もっと戦いたい」と言ってくる。
「かわい子ぶるな。殴りたくなる」
「余、最強にかわいいが?」
ウインクをするその顔面に向かって思わず反射的にハンドガンをズドン。
それを変態が「甘いわ!」と吸命鏡でしっかりと吸収する。
半端ではない強さを持っているせいでツッコミの加減がわからない。
俺は溜息を吐いて戦闘終了を告げると撤収準備に入る。
バイクを出して跨ったところで、それを止めに俺の前にフィオラが立ち塞がる。
「待て待て待て待て」
当然無視してそのまま轢き殺してでも走り去るつもりだったのだが、どうしたことかバイクがピクリとも動かない。
使っているのは事象転換か勅令剣のどちらかだろうが、バイクの状態から察するに恐らくは後者。
「待て」という命令を繰り返したことから、このバイクはしばらくは使い物にならないだろう。
なので俺はビークルを解除。
話を聞く気になったか、と仁王立ちで踏ん反り返るフィオラを前に俺は別のバイクを出す。
ちなみに「勅令剣セヴァイト」の能力は動く物質に対して命令するものであり、生物に対しては一切効果がない。
恐らくはゴーレムとかそういうものに対する特攻武器なのだろうが、生憎と今の俺は自立兵器が使えないので、先ほどの戦いでは全く出番のなかった六宝剣である。
有効範囲の狭さと「命令をしなければならない」という制約もあってのことだろうが、有効活用されていた場合、中々面倒なことになっていたに違いない。
「待てと言っておろうが!」
今度は怒り始めたので本当に嫌そうな顔をしてバイクに跨ったままフィオラを見下ろす。
「いいか? 本気の余と戦えるのは貴様くらいしかおらんのだ。命を削り合う接戦ほど強くなる手段はない。このチャンスを貴様はみすみす逃すのか?」
「戦いは人を強くする。その部分は同意しよう。俺自身、戦いの中で強くなったという自覚はある」
俺の言葉に「そうだろう、そうだろう」と満足気に頷くフィオラ。
「だが、俺は強くなる目的がお前とは違う。そして殺害が禁止行為である以上、一応の決着が見えた時点でこの戦いは終わりだ」
「よかろう。ならば次の戦いを予約してやろう」
「すんじゃねーよ」と思わず地が出たが、俺はこれをなかったことのようにバイクを走らせる。
だが、これも強化されたフィオラの身体能力で止められる。
「だから待てと言っておる!」
繰り返されるやり取りに俺は心底嫌そうに溜息を吐く。
「そもそもだ、こんなかわいい最強美少女のお願いを聞こうともしないのはどういうことだ?」
「お前が考えた最強美少女だろうが」
(笑)もつけてやろうか、と口に出したくなったが、こちらは文化の壁があるので通じない可能性の方が高い。
翻訳さんを信じていないわけではないが、ロールプレイを加味すると言わない方が自然なのだ。
「……貴様、何を知っている?」
「お前のことはしっかりと調べさせてもらった。能力対策を見ていればわかる通りだ」
お陰で結構なポイントを使わされた、と嫌味を言ってみたところ何故かフィオラが僅かに俺から距離を取る。
「貴様、まさか余のストーカーか?」
反射的にTier1スナイパーライフルをズドン。
二度目の「甘いわ!」が成立し、そのエネルギーが何処に消えるのかと疑問に思う。
「吸収させるためにわざとやっているのではないか?」という疑いはさておき、これ以上コントを続ける気はない。
なので俺は問答無用でバイクを走らせる。
しかし転移剣がこれを追い越し、現れたフィオラがまたも俺が乗ったバイクを止める。
「いい加減にしろ」
「まあ、聞け」
本題は別にある、とこれまではただの茶番であったことをフィオラは認める。
なので俺はフィオラを轢き殺さんばかりにアクセルを全開。
しかしあっさりと止められる。
ランクが下がっているせいで加速が足りていないようだ。
「だから聞けと言っておろうが!」
人の話も聞けんのか、と溜息を吐くフィオラに「お前が言うな」という全エデンのツッコミが聞こえてくる。
勿論幻聴だが、俺はさっさと本題に入れと顎をしゃくる。
「スコール1、貴様はこの戦いをどう見ている?」
これは先ほどの戦闘ではなく、エデンとデペスの戦いのことを言っているのだろう。
何とも難しい質問をしてくれる。
正直なところ、敵側の情報はあれど肝心な部分が全くないという状況を何百年も変えることができなかった、という時点でエデンがデペスに勝利することは難しいと言わざるを得ない。
それこそ、スコール1という新たな最高戦力に匹敵する英霊を加味したところで、それがいきなり変わるということはない。
とは言え、エデンは何も考えていないわけではなく、今も反攻の準備を進めているのは知っている。
(次の作戦次第……いや、既にデペスの汚染が広がり切ったこの世界で再び人類が繁栄を取り戻す、これを勝利と呼ぶのであれば、人類の敗北は既に決定しているのか?)
仮にデペスとの戦いに勝ったとしても、その後が続かない可能性も十分あり得るのだ。
答えるのが難しい。
それ故の思考時間と沈黙なのだが、それを答えと受け取ったフィオラが語り始める。
「答え難かろう。デペスの戦力はあまりに未知数。どの時点で勝利となるか、これが誰にもわからんのだ」
そういう視点もあるのか、とポーカーフェイスのままこの戦闘狂に感心する。
確かに戦いに関してはこいつに一家言がある。
敵がどれだけいるかわからないのだから、どこまでいけば確実に勝利と言えるのかはっきりしない。
大元を倒したとしても、他の場所からまた出てくる可能性だって否定はできない。
そう考えているのであれば、こいつが「答え難い」と言った理由もわかる。
終わりが何処にあるのかわからない戦い。
「うん、地獄だわ」と悲惨な未来を思い浮かべて冷静になったところで、改めてこの戦闘狂の話を聞くことにする。
目線で続きを催促したところ、フィオラは俺の考えを読み取ったのか満足そうに頷いた。
「想像できたようだな? ならばもうわかったはずだ。今、この世界には圧倒的な力が必要なのだ」
生前がどうかは知らないが、この世界でフィオラが力を求める理由はこれのようだ。
この戦いを終わらせるために動いていたことが何よりも驚きの事実である。
「だからより強くなるために戦え、と言うのか?」
「否」
理由があって俺と戦おうとしていたのは一応理解できた。
納得はできないが、それでも確認のために言葉にしたのだが……まさか違うとは思わなかった。
だったら先ほどのやり取りは何なのか?
やはりただの趣味だったのか、という猜疑の視線を向けるが、これを無視してフィオラは話を続ける。
「力なら、今、余の目の前にいる」
その言葉に俺は意識を臨戦態勢に切り替える。
だが、フィオラは「そういう意味ではない」と俺に落ち着くよう促す。
「確かに余は『手に入れたものを再現する』能力を持っている。だが、それは余が生前に手にしたものに限定される」
意外な事実にポーカーフェイスを崩し、驚き表情を浮かべてしまう。
そんな重要なことを何故今話すのか?
俺に何をさせるつもりなのか?
目の前の人物像を考えると警戒が勝る。
俺は油断なく話を聞き続ける。
「だが、例外はある。それ故に、最後の一枠を厳選せざるを得なかった」
その言葉の直後、現れたのは十三個の石造りのような重厚な椅子。
そのいずれにも透き通った人物が座っており、その姿を見た俺は彼らがフィオラが呼び出していた英雄であることを理解する。
しかしそうなると一つ知らない英雄がいることになる。
椅子に座る彼らに歩み寄るフィオラは俺が知らない人物に手を添える。
「大儀であった」
フィオラが配下へ語りかけるような声をかけ、その人物に触れると最初からそこには誰もいなかったかのように揺らいで消えた。
「十三の武具、十三の英雄。それが余の定めたルールだ」
そう言ってフィオラは俺に向き直る。
「余の十三番目の英雄となれ、スコール1」
そしてこの戦いを終わらせる鍵となれ、とフィオラは俺に告げる。
勿論答えはNOだ。
俺はポーカーフェイスのまま首を横に振り、頭上で両手を使ってバツ印まで作って全力で拒否してやった。
と言うか、何か考えがあってのことなのだろうが、どう考えても説明不足である。
驚愕で固まる戦闘狂に向かって説明を促すと「何故断る!?」と叫んだのが……再起動した第一声がこれとか、やっぱりこいつ頭おかしいんじゃないかな?




