3-12
まるでライフル弾のような速度で投擲された転移剣を狙撃する。
これで本当に弾丸サイズだったなら到底無理な芸当だが、標準的なロングソードくらいの物体であれば問題ない。
ゲームにありがちな青天井の難易度上昇に付き合えば、これくらいはできるようになるものなのだ。
なお個人差はあります、という注意だけはしておきながら四度目の転移剣の狙撃を成功させる。
当然その後に転移してくるフィオラにも弾丸をプレゼントしているが、こちらは二回目以降はあっさりと防がれるようになった。
それくらいは余裕でしてくるような相手であることは百も承知なので、今はこの距離を保った状態で向こうの動きを待つ。
俺の予想では次に使って来るのは「報復装威」か「雷皇剣」あるいは軍勢召喚だと思われる。
軍勢は俺が広範囲攻撃を仄めかしたため、そもそも使ってこない可能性がある。
報復装威は「報復」と名に付くこと通りに「与えられた傷を相手にもつける」能力。
雷皇剣は雷をまとう剣なのだが、それを放出することもでき、その射程は六宝剣の中で最も長い。
しかも速度が雷と同じというのだから見てから回避は不可能。
但し、刀身にまとう雷を一気に放出するため、一度使うとしばらく使えないという欠点があるらしく、これを長射程武器として使うということは、それだけフィオラを追い詰めたということになる。
本来なら近接戦闘で雷を節約して使えば、人間相手にはかなり有効な攻撃手段となるのだが、出し惜しみでもしたのか使ってこなかった。
このまま距離を離すことができるならば、滅殺ミサイルも視野に入るのだが……流石にそれを傍観するような相手ではないはずだ。
だが狙わない手はないし、狙っていると見せかけるだけでも効果はある。
こちらの狙い通りに事を運ばせまいと妨害する動きがあれば、それは俺にとって付け入る隙となる。
よって、何もしてこないというのなら、俺はこのまま距離を取らせてもらう。
五度目の狙撃を成功させ、フィオラが放った転移剣を上空へと弾き飛ばし、転移してくるであろうポイントへと弾丸を放つ。
しかしフィオラは転移してこなった。
次の瞬間、俺の進行方向先に突如現れた転移剣。
「げっ」という声を思わず出した直後に雷皇剣を構えるフィオラが出現する。
「どうやって?」という疑問はその姿を見て氷解する。
フィオラの周りに浮かぶ宝剣と星具。
手にしたものと合わせて全部で十三――予想よりもずっと早い段階で全力を出してきた。
(距離を詰めるために時砕剣と転移剣を使ったのか!)
あれだけの距離があり、俺が一切感知できなかったことからそれ以外に考えられない。
迫る雷皇剣をバリアで受け止めたが、バイク本体にまでダメージが通り、泣く泣く俺はビークルを解除。
次を出してもそれに乗る時間を作り出さねば壊されるだけなので、距離を取るのは諦めてフィオラを迎え撃つ。
接近戦となった以上は対応できる武器に替えなくてはならない。
両手にショットガンを持ち、右手による牽制の一射は飛来した超越斧槍が銃口の手前で全弾防ぐ。
斧槍を弾き飛ばしはしたものの、タイミングが良すぎるインターセプトに内心舌打ちをしながら、続く左手のショットガンによる第二射は何故か弾倉が空になっており不発。
恐らくは事象転換で何かされた。
剣の射程に入り、転移剣による切り払いをバックステップで回避するも、雷皇剣ではない違和感に気づいたときには遅かった。
その手に転移剣は既になく、背後に回られるという直感を信じてショットガンを捨てて肩のブレードを抜く。
間一髪で俺の首に迫る雷皇剣をブレードが止めるが、電撃がビリビリと痛い。
そこに迫るは「握殺の籠手」とかいう対生物限定で相手の防御力を無視して握り潰せるガントレット。
思わずブレードの出力を上げて光波を放ってフィオラを強引に離れさせる。
僅かとは距離を取れたが油断はできない。
俺は視界の隅で転移剣を捉えようと眼球を動かすがどこにもない。
「しまった!」と己のうかつさを呪いながら横に飛ぶ。
同時に背後から胴体を二分するように放たれる斬撃。
地面に手をつき、強化服の能力をフル活用で蹴り上げるカウンターはドレスのスカート部分を破っただけに終わる。
「やるではないか」
楽しそうに笑うフィオラだが、危うく殺されかかった身としては怒りしか沸かない。
「こちらもそろそろ出し惜しみはしない」
「あれだけ自信満々だったのに先に本気出したの?」と暗に煽ると目に見えて機嫌が悪くなるフィオラ。
重力砲は多分避けられるので使うのはレーザースライサー。
勿論のことながら殺傷能力が高すぎるので、使い方を誤れば報復装威で俺が死ぬ。
負けを認めさせられるくらいに重傷を負わせようと思っても、時砕剣と事象転換があるのでそもそも可能かどうかが疑わしい。
本当に「なんだこのチートは?」と悪態を吐きたくなる。
当の本人はと言うと「かかってこい」とばかりにパンツ丸出しで踏ん反り返っている。
俺は大きく息を吐くと頭の中で戦術を組み立てる。
(あとは俺の体がどうなっているか次第)
APさえ尽きなければ俺は無事なのか?
多分大丈夫だろう、くらいには思っているが、それがここで証明される。
初手は手投げのグレネード。
それもTier9の最も弱く、爆発の小さなものを選んだ。
相手に投げつけるのではなく、空中に向かって軽く放り投げる。
必要なのは意外性。
予想外の手を打つことで視線を誘導し、爆発で視界を奪う。
直後に使用するレーザースライサーを両足を切断するように放つと同時に俺の足に激痛が走った。
ここまでは予想通り。
俺はすぐさま自分の足を確認する。
両足は繋がったままだった。
レーザースライサーは間違いなくフィオラの両足を切断したはずだ。
ならば、俺は賭けに勝ったのだろう。
APが尽きなければ大丈夫――その確信を得た俺は強化服の新品のものへと換装する。
それと同時にフィオラが爆円の中から姿を現した。
振りかぶった超越斧槍を俺に叩き付けるようとしたフィオラの目が大きく見開く。
繋がったままの両足、ブレードで受け止められた斧槍。
驚愕の表情を見せるフィオラに俺は解答だとばかりに煽りの一言をプレゼントする。
「エデンに全てを見せていると思ったか?」
「隠し玉はまだありますよ」とばかりにポーカーフェイスでフィオラを後方へと弾き飛ばす。
エネルギー量は少ないが、身体強化を重視した強化服だからこそできる力技である。
「確認する。まだ時砕剣を使えるか? それとも後何回使える?」
時を砕き、特定の事象をなかったことにするような力が無制限に使えるはずがない。
答えを求めたのではなくただのブラフ。
冷静になって考えれば考えるほど、こいつ一人に滅殺ミサイルはもったいないと思えてくる。
どう考えてもデペスの群れにぶち込んだ方が旨味がある。
俺を観察するように見ているフィオラからの返答はなく動きもない。
好都合とばかりに俺は話を続ける。
「これが俺の言っていた切り札だ」
取り出したのはただの大きなロケットランチャーにしか見えない代物。
上空に向けた撃った後は付属のレーザー誘導で着弾地点を操作するだけの簡単な武器である。
シリーズ通してこの手の大火力兵器は威力に応じてでかくなるのが定番なのだが、世界設定の都合でここまでコンパクトになってしまっている。
「言葉通り、エデンそのものを飲み込める。耐える手段はまだあるか?」
「阿呆が。脅しの道具として使ってどうする」
心底呆れたような顔をして見せるフィオラだが、これには俺もポーカーフェイスを崩して苦笑する。
どこかの誰かが言っていた通り、戦略兵器は持っていたら嬉しいコレクションアイテムではない。
使ってこその兵器である。
ゲームの中ならば大いに賛同できるが、生憎とここはそうではないのだ。
「正直に言うとこいつは一回しか使えない可能性が高い。全力で戦う外ないならば使おう。だが今はその時か?」
俺の問いに露骨に不満そうな顔をするフィオラ。
「お前は本来俺が戦うべき相手じゃないんだから貴重な一発を使わせんじゃねーよ」という至極真っ当な意見でぶん殴る。
「そもそも、それを使えば貴様も無事では済むまい。ただの自爆を交渉に持ち込むな」
「そのセリフは俺の足が無事である理由を当ててから言え」
さらに渋い顔になるフィオラに対し「もう十分戦ったのだからここで満足しろ」とも付け加える。
しばしの沈黙。
この戦いはフィオラの無茶で成立したものである。
両者、殺害を禁ずるルールで先に俺はフィオラに王手をかけた。
もしもフィオラがなりふり構わず、さっさと時砕剣と事象転換、報復装威を使っていたならば、立場が逆転どころか俺に勝ち目はなかっただろう。
本人もそれがわかっているから引くに引けなくなっているのではないか?
互いに動くに動けぬ静寂の中、搾り出すような声が聞こえてきた。
「……ダ」
聞き取れないほどに小さい声。
しかし次の瞬間、フィオラは絶叫してみせた。
「ヤーダー! 折角余が全力出してるんだからもっと戦う! たーたーかーいーたーいー!」
唐突にキャラ崩壊をさせてまでダダをこね始める最高戦力。
その最後の手段を見た俺はただただ「こいつぶん殴りてぇ」と拳を握り締めるのであった。




