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「あー、言いたいことはわかる。だからまずはこちらの話を聞いてくれ」
そう言ってローガンは俺に落ち着くよう促す。
落ち着いているので大丈夫なのだが、キャラを考えればかなり不機嫌になっていてもおかしくはない。
エデンの状況を鑑みるに英霊たちを娯楽として見ていることを考えたが、そこについてはローガンが「その側面も確かにあるが、今回はそのような意図はなかった」と否定。
隣人は主任であるローガンから仕事を押し付けられ、急ぎ足で何処かへ向かったので、今は二人からじっくりと事情聴取ができる状態にある。
「住人として誰がどのように戦い、エデンを守っているかは知りたい。上層部も最低限はそれに応えることにしていた。だが、ある人物が『英霊の戦いをもっと広めるべきだ』と言い始めた」
この時点で何かを察した俺はわかったように小さく頷いたが、どうも今回は事情が違うらしい。
「ええ、あの人が発端であることには違いないんですが……」
「今回は少しばかり事情が違う」
アリスが言葉を濁し、ローガンがそれを繋ぐ。
事の経緯は予想通りの戦場の記憶である。
それ自体はポイントを使えば閲覧可能な資料としてデータ化されているのだが、問題はあの場にいた一人の職員が俺のストーリーを見て、自分で動画を作ってしまったらしいのだ。
「感化されて行動に移すのは良いことだと思う。しかし、だ。それを無許可でやるのはいけない。勿論彼は厳重注意だけではなく、減俸という形で処罰も受けている」
「でも、そのデータが人の目に触れた……まではまだ良かったのですが、見た人物が全く無関係の部署の職員でして、その映像をそうと知らずに公認の創作物として共通サーバーへと移してしまったんです」
「……それが広まってしまったと?」
ローガン、アリスに俺の順番で事の経緯が流れていく。
俺の言葉に揃って頷く二人。
本人曰く「あんなの見せられたら作るしかないじゃないですか」とのことらしいが、個人で楽しむだけのつもりだったとも言っており、誰かがデータを無断で閲覧したというのが彼の主張であるとローガンが語る。
公認の創作物と思われたのが、何処かの最高戦力さんが毎度のように自分の活躍を動画化させていたのが原因であることに加え、俺がその対抗馬となっている現状から「そういうものだ」と判断してしまったらしい。
一度広まったものはなかったことにはならない。
結果、彼が作った「スコール1~英雄の軌跡~」は大反響を呼んだ。
青い地球を守るため、ホープ1から始まった物語はスコール1となって、ここエデンに召喚されるまでとなっており、前後編合わせて五時間強の大作となっている。
「個人でよく作れたな」と思ったが、技術力は地球と違うので便利なツールの一つや二つはあるのだろうと納得しておく。
「市民からは『続きはいつ頃の予定ですか?』という質問が大量に届いておりまして……」
「何でもいいからグッズが欲しい、という声も届いている」
二人の言葉に黙って耳を塞ぐ俺。
どこかの変態が露出しまくったお陰でこちらにも影響が出ている。
本来は市民や職員の知る権利を満たすものだった。
しかしあの変態が介入したことで、それが娯楽の意味を持つに至り、人々はそれに熱狂している。
言われなくともわかる状況に目を閉じ、耳を塞いで現実逃避をするように天井を見上げる。
それから大きく息を吐いて向き合う覚悟を決め、一つ確認のために二人に尋ねる。
「まさかとは思うが……正体がバレないようにというのは?」
「お察しの通り、君のファンが押し掛ける」
思わず「平和でいいことだ」と皮肉が出る。
(いや、まあ気持ちはわからんでもない。『スコール1』の設定はどう考えてもこのエデンにぶっ刺さる。人気が出るのも理解はできる。しかし、だ)
だからと言ってこの状況が喜べるはずもなく、むしろ「何やってんだよ」と文句の一つでも出るのが自然な反応だろう。
どこかの露出狂のせいで市民が英霊を「そういうもの」だと思ってしまっている可能性もあり、その辺りを詳しく二人に問い質す。
「君の予想通りだよ」
残酷なまでにその通りだった。
第五期以降の英霊たちのほとんどは何かしらの形で市民に知られている。
それどころかグッズ化もされており、ほぼ全員がフォトカードになっている。
そんなものを作っている余裕はあるのか、と聞きたいが……苦笑するアリスを見るに結構ギリギリのように思える。
「しかし、わかりやすい希望というのが必要なのも事実なのだ」
沈痛な面持ちでエデンの実情を語るローガン。
言わんとしていることはわかるのだ。
デペスを一方的に蹂躙できるような戦力がこのエデンにいる――その宣伝となる英霊たちの活躍は間違いなく希望となる。
先の見えない長きに渡る戦いは間違いなく人類を疲弊させている。
だから彼らには必要だったのだ。
エデンが滅びることのない理由が、人類が生き残るための希望が、今を生きる者たちには何よりもそれが必要だったのだ。
その希望がわかりやすい形で提供できるとなれば、エデンが飛びつくのも理解はできてしまうのだ。
あの変態がそこまで考えてやっているとは思えないが、エデンがその提案を蹴ることができなかったのは、ある意味当然だったのかもしれない。
「しかしそれはそれ、これはこれだ」
誤魔化されてやらんぞ、とローガンを見る。
この反応も予想できていたらしく「そうだよねぇ」と困った様子のローガン。
アリスも「あはは」と小さく笑って誤魔化そうとしている。
「実際、今のあなたはフィオラと人気を二分する勢いで伸びています」
「実態を知らないというのは幸せだな」
アリスの言葉に遠い目をする俺。
取り敢えず第八期のフォトカード化は着実に進んでおり、今更止めることはできないそうだ。
召喚されてから随分と時間がかかっているように思えるが、英霊の数は減る一方なのだ。
だからある程度落ち着いてから作成するようになったらしい。
「英霊が死んで数が減ったなど伝えてもマイナスしかないわな」と俺も納得する。
この件に関しては無償で黙認するか、協力してポイントをもらうかは本人の判断に委ねているらしい。
無償とは意外とケチ臭いと思ったが、俺の選択は当然前者である。
見えないところで勝手にやってくれ、ということだが、エデンとしてもそちらの方が助かるようだ。
理由は人手不足。
市民にやらせると資材管理やらで労力がいる。
エデンの資源状況を公開などできるはずもなく、職員が関与せざるを得ない案件を無駄に作りたくはない。
必要だとわかっているが、バランスが重要であり、それを崩すような真似はできないというのがエデンの本音である。
「市民だけではなく、職員の心の安定にも君という存在は大きい。それを利用させてもらっている立場で言うのは心苦しいが、どうにかお目こぼしいただけないかね?」
エデンのためには必要である、ということをことさら強調して頭を下げるローガン。
それに倣ってアリスもまた「お願いします」と頭を下げる。
こうなっては頭ごなしに否定はできない。
「……俺がかかわらなければならなくなるような事態だけは避けてくれ」
キャラ設定を考えるならばこの辺りが限界だろう。
どんな形であれ、彼らは守るためにこうして俺に頭を下げている。
スコール1は縋りつく手を払い除けることができる男ではない。
見透かされているようにも思えるが、こればっかりは仕方がないと思って諦める。
これでこの話は終わりとなったわけだが、肝心なことを聞きそびれた俺は扉を開けたところで二人を呼び止める。
そのことで不安に思わせてしまったようだが、リモコンに関する質問だとわかるとわかりやすくホッとしていた。
リモコンは単にバッテリーが切れているだけであり、テレビの横についている端子で充電ができるようだ。
自室にあるタイプよりも旧型のモデルで、英霊が使用する部屋は基本最新の設備で統一されており、エデンなりに俺たちを優遇していることを知った一日だった。
余談だが、暇だったので件の動画を見てみた。
個人作成とは思えないクオリティであり、俺の話をしっかりと忠実に再現していた。
これを記憶を頼りに作ったというのだから驚くしかない。
そして思わず呟いてしまった「かっけぇなスコール1」に気づいて思わず誰もいない部屋を見回す。
ストーリーは過去作でも最高なのは俺自身が認めている。
だからこれはそういうことだ。




