3-5
攻める時は戦力を小出しにせずに一気に叩く。
当たり前のことではあるが「じゃあ、一斉に攻めましょう」と足並みが揃うかと言われれば、現場にいる者としては首を縦に振るのは難しい。
味方の位置情報が正確に知ることができるような通信装置があるならばともかく、大雑把に知らせる程度で「足並みを揃えろ」と言われても、この大群を相手にそれは無茶な話である。
何が言いたいかというと……俺のところに馬みたいな中型が一斉になだれ込んできた。
昆虫型の方も一匹だけだが釣れてしまっており、中々にエキサイティングな状況となっている。
攻勢に転じたかと思えば、逆に俺のところを攻められているというわけだ。
恐らくだが、ドローンを狙撃をしていたら奥の敵を釣ってしまい、それに反応して一気にこちらに流れてきたのではないかと思われる。
(ノンアクティブの巡回型を引っかけた気分だ!)
バイクで器用に敵陣を駆けながら、機械型が放つビームの被弾を最小限に抑え、敵も減らさなくてはならいのだから忙しい。
この間にもドローンの投下は行われており、前線へと高速で向かうやつらを狙撃もしている。
こうなる前に重力砲を撃っておくべきだったと後悔する。
二発目のレーザースライサーを馬に対して使ったのも失敗だった。
それに関しては「また突出するのが出てきたか」と状況が悪化する前に早期対処とすぐに行動に移したのも悪かった。
「他の動きもしっかり見てから武器を選択するべきだった」と悔やみながらブレードを振るって小型の獣型を斬り捨てる。
(ガトリングは使い切った。敵が近すぎて爆風兵装は使えない。同じ理由で重力砲は自爆する)
レーザースライサーは残り二発。
リロードする余裕がないので次々と武器を切り替えながら周囲のデペスを倒しているが、そこに立ち塞がったのが三匹目の馬。
そのでかさから周囲の雑魚を巻き込んでのレーザースライサーは使えない。
たとえ足を持っていったとしても、その首で暴れられるのも困るのだ。
シロナガスクジラよりもでかい馬の突進をどうにか回避し、続く機械型からのビームをバイクのバリアで受ける。
ごりごりと削られるエネルギーに舌打ちをしつつ、俺は意を決して小型の虫を使ってバイクで飛ぶ。
直後にバイクを解除し、慣性で宙に投げ出されたところでジェットパックへと換装。
上空へと逃げて仕切り直そうとしたところに飛んでくるサソリの糸。
「そりゃ飛んだら狙撃されるよな!」と最悪の予想が大当たりだが、これを近接武器を糸に向かって投げつけることでどうにか直撃を回避する。
間髪入れず地上に向けて重力砲を放つ。
厄介なサソリを巻き込むように撃ったつもりだが、バッタのような足を使いこちらに向かって飛んできた。
それでも重力砲の影響範囲内だが、直撃でなければ倒せるかどうかは怪しいのが中型の耐久力。
ここで倒すしかない――直感的にそう感じた俺は武器をプラズマランチャーへと変更し、飛び掛かって来たサソリに向かって自分よりも大きな光弾を放つ。
光弾が直撃したサソリの半分が消し飛び、武器を切り替えるも背後から迫るのは馬鹿でかい馬の顔。
反動制御にスラスターを使い、静止射撃となった隙を敵は見逃さなかったのだ。
(回避は無理! 銃だと遅すぎる! 近接武器は……!)
一瞬の迷いが生死を分けることもある。
近接武器を投げ捨てていたことを気づいたときには、既に馬が口を開けて俺を飲み込もうと迫っていた。
だから俺は取り出した。
この場面で必要なのは威力ではない。
現状を脱する爆発力だ。
俺は馬の歯を砕く爆音と共にその反動で後方へと吹き飛び落下する。
咄嗟に選択した武器はパイルバンカー。
その反動で無理矢理体を後方へと飛ばし、ジェットパックを重力砲の影響から逃れるように全力で加速させる。
当然移動するだけで終わるはずもなく、上空から機雷をばら撒いて地上の敵を排除する。
近接装備を変更してブレードに戻し、専用武器のプラズマライフルをなおも俺に食いつこうとする馬の顔面に叩き込む。
だが、顔半分を失ったところで止まらないのがデペス。
巨大な爆発の衝撃波を背中に感じながら、二発目の重力砲を別の中型に向けて放つ。
最早温存など考えている余裕はない。
半分になった顔面で体当たりをしてくる馬の首を斬り飛ばし、そのまま光波で地上の敵をぶった斬る。
エネルギーパック直結型のレーザーランスへと武器を変えて急降下。
地上すれすれの低空飛行でランスチャージをぶちかまし、エネルギーを浪費したジェットパックをバトルアーマーへと換装。
両手に重機関銃、両肩にレールキャノンと小型と中型を同時に対応できる武器にして、敵の攻撃をシールド展開で防いでゴリ押しする。
ドローンが出てくれば両手をスナイパーライフルに変更し、スコープを覗かずに狙撃を成功させ、シールドを展開する余裕がなくなれば近接武器に切り替えて周囲の敵を薙ぎ払う。
エネルギーがなくなれば別のバトルアーマーに切り替え、APが尽きればまた別のものへと換装する。
たった一つの判断ミスでここまで泥臭い戦いになるとは思っていなかった。
やはりエリクサーは使ってこそである。
下手に温存しようとするから状況が悪化した時に「あの時使っておけばよかった」と後悔するのだ。
そうやって反省するだけの余裕を確保したところで俺は大きく息を吐く。
前線を上げていたデイデアラの姿を視界の端で捉え、徹夜明けのもう一仕事とばかりに腕を回して肩をほぐす。
さて、ここからは後半戦だ。
足並み揃えて敵をすり潰していくとしよう。
それからしばらく前線を押し上げたところで、残りの中型である昆虫型タイプDが動き出す。
しかし今更中型が一斉に動き出したとて、既に数を減らしたデペス側の圧力は低く、いともたやすく迎撃され、何故か前に出てきたドローン空母を狙撃で落としてからは最早流れ作業と化した。
時折送られてくる合図に従い、敵を防御陣地へと誘導しながら迎撃する。
色々な武器をリロードする余裕があるくらいには向かって来る敵の数が少なくなっている。
「ほー、そんな風になってたのか」
「ああ、まさか最高戦力がこんなところにまで来るとは思わなかった」
既に勝利は目前といったところであり、こうしてデイデアラと話をするくらいには余裕がある。
吸い込まれるように防御陣地へと向かうデペスの残党を確実に処理をしているさまを眺めつつ、デイデアラはこちらで先ほどあった話を聞いており、その変態っぷりに驚いている。
「見た目はいいんだけどなぁ……」
残念そうなデイデアラだが、どうやらこのおっさんはあの違和感に気づいていないようだ。
英霊は召喚される際に「全盛期の姿」がリソースを用いて構築される。
どうみてもフィオラの姿は十代半ばから後半であるが、彼女が老いてなお戦場を駆けていたことは確定しており、また少女と呼べる年代で賊と戦ったのが初陣であったとも書かれていた。
ならば、全盛期の見た目が十代というのは明らかにおかしいのだ。
あの年齢のまま死亡したエリッサとは状況が全く違う。
その点に違和感を感じた俺はさらに詳しく調べた。
しかし不自然なほどにこの件について触れられていなかったのだ。
だから自分が持てる権限とポイントを使って「調べ尽くした」と言ってもよい。
結果、通常ならばアクセスできないデータすら閲覧し、フィオラ・アルフメルデが召喚された当時はあのような姿ではなかったことを突き止めた。
二十代半ばから後半のれっきとした成人の姿であったと当時の記録にあったのだ。
だが、驚くのはその続きだ。
「自らの肉体が召喚したリソースによって構築されたものであるとわかると何を思ったか、フィオラ・アルフメルデは『理想の美少女になる!』と弱体化を受け入れてまで無理矢理姿を再構築した」
リソースを無駄に消費して「儂の考えた最強の美少女」になり弱体化してなお、最高戦力となれるだけの強さを持つことは驚愕の一言に尽きるが、話はこれで終わりではない。
奴の好きなものに「美少女」という項目があり、日常的に女性に対してセクハラを行っていることも記録されている。
加えて、当時の記録にはフィオラ・アルフメルデの性別に言及したものが何処にもない。
つまり元の性別は不明。
俺が調べた限りではあの変態の性別を断定する材料がないし、そもそも何故こんなことができたかも不明である。
これらの詳細が既に消されている、という可能性が真っ先に頭に浮かんだが、その根拠もないのでこの件はここでお終いだ。
(あれの異質さを知ると「そんなまさか」と否定しきれないのも怖いんだよ)
この話にはさらに怖いところがある。
フィオラ・アルフメルデの伝記にはこうあるのだ。
「齢六十過ぎてなお、気に入った強者があれば閨へと連れ込んだ」
ちなみにこの伝記も本人談であり、既にエデンにはいないが、別の時代から呼ばれた英霊からもこれが事実であることを確認済みらしい。
男だろうが女だろうがお構いなし――元が男の可能性が存在する以上、正に知れば知るほどにかかわりたくない相手である。
そんな奴がこの後も俺を待ち構えているのだ。
俺があそこまで逃げに徹するのもご理解いただけたことだろう。
一難去ってまた一難。
今はこの戦場に集中するべきだが、あの変態の魔の手から逃げることも重要である。
いっそのことリオレスになすりつけることも考えたが、後から恨まれるのは確実なので実行は難しい。
そんなことを考えながらデイデアラとくだらない話をしていると、こちらに向かって来るデペスがほとんどいなくなっていた。
ここまで来れば残党の処理である。
ポイントを稼いだ遊撃組はここで終了。
残りは防衛陣地にいる同期に任せて後退する。
バイクに跨る俺はデイデアラを放置してエデンへと走り出す。
後ろから何か聞こえるが、残念ながら俺は帰る場所が違うのだ。
エデンにあるゲートは四つ。
さて、何処に向かうのが正解だろうか?




