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登場するや否やレーザーに飲み込まれたフィオラだが、腕を組んでいたためか上半身の一部を残して深紅のドレスが下着諸共綺麗に焼けてなくなっている。
「我が登場セリフを遮るか、この痴れ者が!」
そう叫んで何処からともなく取り出した剣を投げつけ、ドローンを撃破する下半身丸出しのフィオラ。
レーザーの直撃を受けても服が消し飛んだだけで済まされるおかしさよりも「客観的に見ると俺もこんな感じに武器出してんだな」と自分の理不尽さを自覚する。
爆散するドローンを見て「愚か者が」と吐き捨てたフィオラが改めて俺に向き直る。
レーザーで焼かれたボロボロのドレスのまま、腕を組んで槍の上から踏ん反り返っている。
「余の名は『フィオラ・エル・ダンテ・アルフメルデ』! ダンテを簒奪せし戦の王! さあ、我が名を称えよ、余を崇めよ!」
「服を着ろ」
恐らく決めゼリフか何かだろうが、下半身丸出しで威張ったところで威厳などありもしない。
なので俺は冷たく言い放つ。
こいつについては嫌というほど調べたので、今更裸になろうが動じることはない。
しかしこのアホには道理が通じない。
「この戯けぇ!」
俺を罵倒すると同時に焼け残ったドレスを勢いよく破り捨てる。
「世界の至宝たる我が美しき肉体に恥ずべき箇所など毛ほどもないわ!」
そう声を荒げて戦場の真っただ中でポージング。
見た目は確かに美少女でスタイルも良いが、中身を知っている俺は無反応。
フィオラ・アルフメルデに関するデータはエデンに大量にある。
生前の情報も多く、そのほとんどが本人著という精神的露出狂。
勿論目の前で当たり前のように裸になっているのでまごうことなき露出狂である。
そんな変態を冷めた目で見ているとフィオラが唐突にフッと鼻で笑う。
「どうやら余の美しさを前に言葉もないと見える」
呆れる俺の視線をどう捉えたらそうなるのか?
理不尽にブチ切れたかと思えばこの自意識の高さである。
注意点として「極度のナルシスト」と書かれるだけのことはある。
(信じられるか? エデンの職員は毎日コレの相手してるんだぜ?)
敵が迫っているのに悠長にポージングを変えて自画自賛する露出狂を前にすれば、エデンの職員および上層部の苦悩には同情を禁じ得ない。
そんな俺の想いを見当違いな方向から、さらに斜め上に捉えたフィオラは最高に頭の悪い結論を出して気持ちよくなっている。
「仕方のない奴め……許す! 存分に欲情するがよい!」
カッと目を見開き、悦に浸るその顔面の横をスナイパーライフルの弾丸が通り過ぎ、フィオラの髪を揺らすと背後から迫るドローンを撃墜する。
「ここは戦場だ」
まだ戦闘中なんだから持ち場に戻れよ、という意味も込めて態々当たらないギリギリを狙って狙撃。
「如何にも。そしてここには余の好敵手足り得る貴様がいる」
意思疎通ができない相手と話すことの苦痛を感じながら、俺は迫りくるドローンとデペスを迎撃する。
「持ち場に戻れと言っている」
「もう終わった。ミグニの奴にはもう少し余に相応しい戦場を用意するように言わねばな」
規模はこちらの方が上だが、それでも一つの戦域をほとんど単騎で終わらせたというのだから恐ろしい。
最高戦力の肩書は伊達ではないということだが、今更ながら俺がその候補になっているのはどういうことか?
(俺を対抗馬にすることでこの変態を落ち着かせようとでも思っているのかね?)
ついに実際に話すことになってしまってわかったが、そもそも意思の疎通ができていない。
こいつは我を通すことしかしない。
それだけの力を持っており、力を持つ者としてそれを当然のことと認識している。
故に話が通じない。
俺はフィオラ・アルフメルデという人物をそのように評するが、恐らく間違ってはいないだろう。
「戦場に居座るのであれば、それに相応しい恰好をしろ」
俺の言葉に一考の余地でもあったか「ふむ」とだけ言うとフィオラは槍の上から飛び降りる。
着地に間際に鮮やかな深紅のドレスが彼女の身を包み、地面に突き刺さる槍を掴んで引き抜くと一振りしてカメラを意識したかのようにポージング。
無駄に洗練された無駄のない無駄な動きである。
「着替え取りに帰れ」と言ったつもりだがその必要はないらしい。
(俺が強化服を変更する時もこんな感じなのかね?)
いっそのこと無視してみるか、とフィオラを巻き込まないようにデペスを迎撃する。
「確かに、戦場にいるのであれば、相応しい恰好は必要だ。しかし、だ。余の美しさは語るまでもなく、そこにいるだけで戦場の華となってしまうのは避けられん。命を懸けて戦う泥臭い戦いも美しいが、それを超える余はどうすれば?」
「いかん、これはどうしたものか?」と勝手に悩み始めたのでバイクに乗ってこの場から離脱する。
今は戦闘中なのでそちらに集中しなければならない。
というかそもそも変態の相手などしたくない。
そう思っていたのだが、俺の横を剣が通り過ぎたと思ったらその変態が突如として現れた。
「余を放置するとは良い度胸だ」
「戦闘中だ。他所でやれ」
取り付く島もないどころか取りつかせる気もないので一顧だにせずデペスを迎撃。
「仕方ない。では、この戦いを終わらせるか」
そう言って手にした剣を消したかと思えば、フィオラは旗の着いた槍を取り出す。
「この戦場は第七期と第八期のものだ。劣勢ではない以上、お前がかかわる余地はない」
「ふむ……確かに、成長の機会を取り上げるのは余の本意ではない」
戦争狂いというだけあって、戦いに関しては何かしらの執着や美学でもあるかと予想していたが、どうやらそれはアタリだったらしく、他者の戦いを取り上げることは躊躇するようだ。
「では戻ってからにするとしよう」
「スコール1、貴様の帰還を持っているぞ!」と新たに出した槍を投げると空中で静止する。
フィオラがそれに飛び乗ると槍が動き出し、高速で飛び立つと高笑いをしながら去って行った。
去り際の高笑いがドップラー効果を伴いフェードアウトしていく。
当然のことながら承諾していないので俺にあいつと戦う予定などない。
帰りは別のゲートからエデンに入ることにしよう。
頭のおかしい戦闘狂に付き合う気などさらさらない。
今は戦闘中なのだから、そちらに意識を集中させなければならず、変態の相手をする余裕はたとえあってもないものとして扱う。
乱入者のせいでリズムが乱れ、一度リセットを行うべく火力を出して状況を整える。
バトルアーマーに換装し、両手両肩ガトリングによる掃射で正面のデペスを薙ぎ払う。
全弾撃ち尽くした後はバトルアーマーを解除し、ジェットパックへと換装すると同時に高く飛び上がる。
ロケットランチャーを撃ち下ろしながら戦況を確認。
どうやら想定からは大きく外れてはいないらしく、何処を見ても崩れた戦域は見受けられない。
強いて言うならジャミトス周辺に敵が溜まっているように見えたが、そちらは七期の方へと流れるので大丈夫だろう。
確認を終えた俺は地上に降り、ジェットパックを解除してバイクを出す。
空に浮かぶ空母がまたドローンを追加したので、そちらを狙い撃ちターゲットをこちらに向ける。
こいつらの相手は経験が最も多い俺がする。
光弾はともかく、レーザーのように回避が難しい攻撃はできる限り俺に向けさせるのが効率的だ。
距離があったとしてもスナイパーライフルなら届く。
高速で飛び回る敵の相手は遊撃の面子を考えれば俺が対処するのが正解である。
またロールプレイを考えてもこの行動に不自然さはないので、獲物の横取りと言われることもないはずだ。
前に出過ぎないように動き回り、敵の動きを調整しつつ数を減らしていると遠くで伸びる柱が見えた。
どうやらリオレスとデイデアラが攻勢に出るようだ。
リオレスは大丈夫と思うがデイデアラが向こうの速度に合わせられるかが心配だ。
「少し火力をそちらに向けるべきか」と悩んでいるところにこちらにも柱が生えてくる。
短めの柱の先端がデイデアラのいる方角を向いている。
(流石、希代の名将と言われるだけあってよく見ているな)
俺が攻勢に出るのはまだ先だが、ようやく戦いの終わりが少しだが見えてきた。
地上の迎撃に上空への狙撃と忙しいが、ここが踏ん張りどころというやつだろう。
きっちりとやり切って今回のMVPをいただくとしよう。




