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ぶつかる前に射程を生かしてできる限り削るのは当然だが、如何せん相手の数が多い。
バイクに跨りスナイパーライフルで狙撃を続けるが、敵の数が減っているようには到底見えない。
まあ、これはわかっていたことなので気にしない。
やはり数を減らすためには重力砲くらい撃ち込まなければ体感するのは無理だろう。
リロードをしながら目算で距離を測り、頃合いと見るやバイクを消してバトルアーマーへと換装する。
両手両肩、四つの武器スロットを埋めるミサイルランチャーによる一斉射。
これをTier1からTier5までを順番に切り替えて撃ち尽くしていく。
ミサイルが撃ち終わったら今度はグレネードランチャーへと変更。
敵の群れを押し止めるが如く爆風の嵐が吹き荒れる。
だが、それでも突破してくるほどの大群。
バトルアーマーを解除し、バイクを出すと接近する昆虫型に向けてロケットランチャーを放ち、周囲を巻き込んで足止めをするとその場から離脱する。
距離的にはまだ余裕はあったのだが、視界に映る昆虫型のタイプDがいるので油断は禁物である。
サソリのような尻尾の先端から射出される蜘蛛の糸のような攻撃は非常に厄介である。
スナイパーライフル級、とまではいかなくとも、かなりの長射程の攻撃であり、その速度も侮れない。
何より怖いのはその命中精度である。
事前情報があったにもかかわらず、敵の群れの中で動き回るデイデアラが被弾したのである。
威力こそ低いものの、動きが封じられるというデバフは圧倒的な数的優位を取られている側にとってこれほど厄介なものはない。
なのでできればこの中型をさっさと倒しておきたいのだが……中型はその大きさに比例した耐久性を有しており、迫りくる敵の波を無視して狙撃をするにはリスクが大きすぎる。
そもそも虫型のタイプDは防衛陣地側で処理することになっている。
「任せるしかないか」とバイクに乗って引き撃ちへと移行した俺は昆虫型タイプDを常に視界に納めるように立ち回る。
そんな中、突如として戦場にそそり立つ細長い柱。
ケイの地形操作で生まれたそれは戦況を知らせるためのものである。
今回構築された防御陣地には高さがある。
高所から戦場を見下ろすクドニクは状況に応じ、今のように地形操作を使って合図を送る。
長さや形状でその意味を予め決めており、今回は俺の動きが早かったため、今しばらくここで迎撃をすることになった。
「まあ、こっちはバイクだしな」と武器スロットをフル活用でロケットランチャーを撃ち込み続ける。
今は味方との足並みを揃えている最中なので、重力砲の出番はまだ先の話である。
ちなみに重力砲やレーザースライサーは二週間で弾数が回復した。
計算上一日当たり7%くらいの回復になるわけだが、同じ撃ち切り武器のガトリングガンは九日で回復しており、恐らくTierによって回復速度が異なるのではないかと思われる。
さて、ロケットランチャーを連続でぶっ放したことで空白地帯が出来上がる。
やはり広範囲高火力は偉大である、とこの僅かな猶予時間でリロードを行いながら防御陣地の方を見る。
(敵にはまだ取りつかれていない。予想通りに動く陣地を障害物と捉えて避けるように動いている、か……)
ある程度は事前情報でわかっていたことだが、防壁を作るとデペスはそれを障害物と認識し、避けるように動く傾向にある。
エデンのデータベースには過去に魔法を使って陣地を作っていたことがあり、その時の評価が「進行を遅らせることができる程度」となっていた。
これはケイのように状況に合わせて新規に作成や修復を行っていない、または防壁としての能力が低かったことを意味しており、エデンが「お散歩要塞」の異名を持つ彼女を正しく評価できなかった理由でもある。
だが、クドニクはこれを正しく評価した。
「進行を遅らせることができるのであれば、存分に妨害してやろう」
そう言って笑うクドニクは「人の嫌がることを進んでやりましょう」の精神でゆっくりと動く防壁を用いてデペスの進行を的確に遅らせ、遅々として進まぬ最前列に渋滞を誘発させることに成功する。
そこに叩き込まれるエルメシアの範囲攻撃。
出来上がった空白地帯になだれ込むデペスに追加で叩き込まれるアネストレイヤの極大の炎。
そこに更なる追撃として近接戦闘主体の英霊たちが走り抜ける。
大量に設置された防壁がデペスの動きを妨害し、ゲリラ戦さながらの少数対多数の形が構築されている。
この一連の流れを可能としたのが地形操作による合図である。
通信手段はない。
連絡役などいない。
ならばどうするか?
古代、人類は遠距離の連絡に狼煙を用いた。
わかりやすく目につくものがあればそれでよい、とケイにあれこれと注文をしていたクドニクの姿を思い出す。
これならば陣地の防御性能と合わさり問題はないだろう。
そう思ってデペスの迎撃に集中する。
今回の俺に与えられた遊撃の役割は明確である。
「敵を外に逃がすな」
一言で終わった遊撃隊へと説明。
敵を両サイドから挟み込み陣地へと誘導して処理する。
シンプルな作戦だとは思うが、遊撃担当が俺とリオレス、デイデアラにジャミトスの四人というのは少なすぎるのではないだろうか?
第七期が逆方向に陣取っているとは言え、そちらに流れたらどうするのか?
そう思っていたのだが「流れても問題ない」と言い切るクドニク。
向こうにはイザリアがいるので、彼女ならばすぐに敵の流れに気が付くから大丈夫ということらしい。
なお、その一番デリケートな部分にはジャミトスが配置されている。
ジャミトスは基本的に上空から爆撃をしているので、中型の狙撃にさえ気を付けていれば安全と言ってよい。
しかしそうなると「魔力切れを起こすのではないか?」という疑問が出てくる。
(七期に迷惑かける前提か、これ?)
それともジャミトスならどうにかできるという算段でもあるのだろうか?
機械型との初戦闘時は休憩を挟んでいたので気になったが、役割を承諾しているのであれば何かあるのだろう。
ロケットランチャーの爆風に巻き込まれそうになってきたので武器を変更。
リロードの手間を省くため、一部をわざと残して接近させたところをショットガンに切り替えて殲滅。
Tier1ショットガン「ガルム」――北欧神話に出てくる地獄の番犬の名前を持つだけあって、高い瞬間火力を持っており、小型のデペスがこれに耐え得るはずもなく、射程距離の都合上使う機会が少ないのでこうして合間合間に使う武器としては最適である。
さて、そろそろこちらも動き出してよい頃合いだろうとバイクでゆっくり走り出す。
余裕があれば中型を狙いたいのだが、引き付けたい獣型はまだまだ遠い。
虫の方は陣地を攻撃してくれれば、威力の低い粘着糸など脅威にはならない。
動き始めたところで俺に見えるように細い柱がにょっきりと生えてきた。
柱の先端が曲がっており、その方向からデイデアラにデペスが流れ過ぎているようだ。
「少し火力を出しますか」と俺はバイクを走らせた。
結構な時間が経過した。
体感だが五時間くらい戦っているのではないだろうか?
敵の数は確かに減ったとは思うが、倒した中型は突出してきた馬のような見た目のタイプDを一匹レーザースライサーで真っ二つにしたくらいである。
残りはまだ後ろに控えており、時折虫型が防御陣地を狙って糸を出していたが……威力があるわけではないので、外壁だけで対処できている。
その外壁ですらあっさりと剥がれ落ちて新しくなっており、中型の遠距離攻撃を無力化していると言ってよい。
それどころか糸が小型のデペスに絡まり動きを阻害しており、これにより進行速度が落ちているので利敵行為にすらなっている。
もちろんそんなことを理解できるような脳みそが向こうにあるわけもなく、粘着糸に絡めとられた個体が邪魔をしており、動く防壁と合わさってデペスの動きを妨害している。
ここまで想定していたとなれば大したものである。
「敵が考えて動かないからまるでタワーディフェンスだな」
そんな感想をこぼしつつ、防衛陣地を見る俺はリロードが追いつかなくなってきている現状を考える。
圧力は増している。
防衛陣地側は余裕を持って持ち堪えているが処理が間に合っていない。
その分が両サイドに流れており、それらを処理する遊撃組の負担が増しているのだ。
「一度暴れるべきか?」
そう考えたが即座にこれを否定。
まだ敵の数は多い。
この段階でヘイトがこちらを向いて糸が俺目掛けて飛んでくるのはよろしくない。
クドニクの方でもこちらに対する指示はなく現状維持であり、今俺が突っ込んで残りを倒したところで、それはチームの勝利とは言えない。
今回の戦いは練られた戦術がどこまで機能するかのテストも兼ねている。
俺が派手に動くのは最終手段――のはずなのだが、リロードが間に合わなくなるくらい押し付けるのはどうなのだろうか?
(バトルアーマーか重力砲で簡単にまくれるとは思うけどさぁ)
初めて運用する戦術だからか安全マージンを大きく取っていると思っておこう。
そんな風に納得しているところに追加の敵が現れる。
「……来やがったか」
思わず口に出してしまったのは空からこちらに向かって来る敵の姿を見てしまったからだ。
ドローン空母から投下された「飛行型タイプG」と命名されたドローン部隊が向かって来る。
レーザーと光弾の二種類の兵装を持つこいつらに床を舐めさせられたプレイヤーは多い。
こいつらは速くて脆いが油断するとごっそりAPを持っていく。
武器を切り替え、先頭をスナイパーライフルで狙撃すると運が良いことに二枚抜き。
思わず「YES!」と心の中でガッツポーズを取ったところ、何かが俺の耳に届いた。
例えるならば高笑いの声。
当然戦場で聞こえるような声ではないので、俺はこれを幻聴と断定して敵の迎撃に集中する。
しかし次の瞬間、突如飛来してきた槍が地上のデペスを貫いた。
響く笑い声が近づき、その声が止んだかと思えば、斜めに地面に突き刺さる槍の上に着地する人物が一人。
深紅のドレスをたなびかせ、舞い降りた人物はフィオラ・アルフメルデ。
「余、参――」
器用にも槍の上でこちらに振り向くが、セリフを言い終えるより早くドローンのレーザーがフィオラを飲み込んだ。
エデンの最高戦力がこの戦場に介入してきた……はずなのだが、何をしに来たんだ、こいつは?




