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2-25

「ああ、模倣していると言っても所詮は知性のない連中のものまね。劣化コピーとすら言えないようなものばかりだ。そしてこれらは全て『特型』と呼ばれる固有個体であり、特型はこちらが攻め込まない限り姿を現すことはない」


 またイザリアの説明によると人型のデペスは分類上は「人形型」と呼ばれており、造形が人型なだけで細部を見れば人ではないとすぐにわかるそうだ。

 能力をコピーしているわけではなく、あくまでも模倣であり、真似ようとしている痕跡が確認されたから、そう呼ばれているだけであるとイザリアは語った。


「だが、例外というものは存在する。それが魔法や武器の扱いだ。対人能力を必要とするのはこいつらが原因だな」


 特に魔法に関しては英霊が使用するレベルのものが存在することが前回の攻勢で明らかになっており、これらの特型の中でもさらに特殊な個体が厄介なのだとイザリアは語る。


「公式にはないが、前回エデンが攻勢に出たのは凡そ四十年前。その時は私も参加していたが……」


 あれは気持ち悪かったぞ、と嫌なものを思い出したように顔を顰める。


「話はわかったが、それを最初に教えない理由がわからねぇな。何を隠してんだ?」


「疑われる理由なんてここには幾らでもあるだろうが、大した理由ではないぞ? 私が調べた限りでは『人型だと言うだけで余計なことを考える者』というのは出てくるそうだ」


 最悪だったのは「人を模すのであれば、意思疎通が可能なのではないか?」と他の英霊を誘い行動に出た者がいたことだ。

 当然彼らは戻ってこなかったし、その結果デペスが英霊に対してどのような適応をしたのかは不明。


「少なくとも、エデンにとって良い影響はなかっただろうと記録にある。こういう阿呆もそうだが、人の姿をしているから戦えない、という者も現れる。他にもあるが、そっちは自分で調べてくれ。英雄と呼ばれるほどの実力があれ、功績があったとしても、人間というものはそこまで賢い生き物ではない」


 だからタイミングが重要なのだ、とイザリアは締めくくる。

 ちなみにもったいぶった話にしたのは少し驚かせようと思っただけらしい。

 要はただの仕返しである。

 どっかの馬鹿が無駄に煽らなければもっと話はスムーズに進んだだろう。

 それを悪びれる様子もなく言うこいつもだが、原因となったおっさんにも視線が集中する。

 当然このおっさんが申し訳なさそうにする素振りを見せることはない。


「ともあれ、勝ちは勝ちだ。次回の出撃で合同作戦をやっておこう」


「即席の連携で結果が出るとは思えねぇけどな」


 自分が負けたことが気に食わないのか、まだ何かにつけて口を挟むデイデアラ。

 それを笑うように突如頭に響く声。


『だからこそ、こういう魔術がある』


 頭に響いたのはイザリアの声。

 それが所謂「念話」とかそういう類のものだとすぐにわかった。


「電子機器は外では使えない。となれば、こういった現代魔術が役に立つ」


 互いが使えなければ送信のみの一方通行ではあるが、上空からの視点を得る魔術も存在しており、全員の位置を把握することくらいは余裕でできると豪語するイザリア。


(なるほど、確かにこれなら「指揮権を寄越せ」と言うのも頷ける)


 司令塔であり広範囲殲滅もできるのが彼女の強みだと思っていたが、実際は回復や支援も可能というのだから多機能型の英霊である。

 公式情報だけでは知り得なかったその真価に俺は感嘆の声をあげる。


「『万能』の二つ名は伊達ではない、ということか」


 俺の言葉に「そうだろう」と上機嫌に頷くイザリアだが、逆に目に見えて機嫌が悪くなるデイデアラ。

 わかっていたがこのおっさんは大人げない。


「イザリアちゃんの価値がわかってくれて何よりね。アタシも嬉しいわぁ」


 そして何なんだ、お前のその口調は?

 喉まで出かかった言葉をグッとこらえて頷くザイスを見る。


「第七期の代表であり顔でもあるイザリアちゃんが舐められるってことは、アタシたちも舐められてるってことになるの。それじゃいい顔なんてできないわよねぇ?」


 ザイスが睨む先はデイデアラ。

 新たな火種がそこにあるのはわかるのだが、口調の所為で内容が頭に入ってこない。


「ふーん、延長戦でもいいんだぜ、こっちは?」


 勝手に決めるデイデアラだが、俺は巻き込まれたくないので距離を取ろうと腰を浮かしたところで、職員の制服を着ているリアディに止められる。

 何事もなかったかのように振る舞っているが、ノーガードの撃ち合いをしていたのだ。

 治療班の一員でもあるリアディに見てもらっている真っ最中である。

 今のところおかしなところはないようだが、正直自分でもダメージや体力がどうなっているのか知りたいので、調べられる範囲で見てもらっている。

 ちなみにリアディは現在自身の技術を用いたマッサージを開発中らしい。

 傷つけることなく体内に触れることができる彼女にとって、この視点は新しいものだったらしく、研究を一旦放置して寄り道中であることを聞かせてくれた。

 研究者やオタクに見られる興味のあることには早口になる現象は、世界が変われど同じのようだ。

 それはさておき、目の前ではデイデアラとザイスがバチバチに睨み合っている。

 不穏な空気が流れているが、止める者が誰もいない。

 周りを見るに全体的な空気としては「勝手にやれ」といったところだろう。


「こっちもなぁ、あんな決着だと不完全燃焼なんだよ」


「いい加減あなたの物言いにはうんざりだわ。アタシがお仕置きしてあ・げ・る」


 どうやらエキシビションマッチが決定したようなのだが……先ほどから二人の会話の中に違和感を感じている。

 いや、正確に言えばザイスの声だ。

 口調ではなく、一瞬だがノイズのようなものが混じっているように聞こえたのだ。

 その時、俺はハッとなってイザリアに見えるように手を挙げる。


「確認したい。今も実施訓練中か?」


 俺の質問の答えとばかりにイザリアは驚愕の表情を浮かべて見せる。


「……驚いたな。どうやって気がついた?」


 こちらの声色から確信に近い質問と判断したのか、イザリアは感心したように頷いており、手を挙げてどこかに合図をする。

 恐らくこれで俺に使われていた魔法が解除されたと思われる。


「ほう、汝は誰に言われるでもなくあれに気づくか」


 誰の声かと思えば、デイデアラと睨み合っていたザイスだった。


(良かった! ハゲマッチョのおねぇ言葉キャラなんていなかったんだ!)


 どうやら俺は何らかの影響で翻訳がバグっていただけのようだ。

 ホッと一安心したところで、詳細を聞くべく視線をイザリアへと向ける。


「お前に使われていたのは精神魔法だ。思考や発言を誘導する際に使われるもので、こいつは隠蔽されると周りは察知できず、本人が違和感を感じなければ対処も難しい」


 よくわかったな、と改めてイザリアは感心している。

「翻訳が有り得ないくらいバグってたよ」と正直に言うことはできないので、会話の中で違和感を感じたと嘘にならない程度にはぐらかす。


「状況的に可能性を考えての発言だ。毎回……いや、次ですらこう上手くいくかはわからない」


 謙遜ではなく事実として語る俺の言葉を正しく受け止めるイザリアは「なるほど」と言って考える素振りをみせる。

 魔法を受けた影響よりも状況からの推察で見破ったと解釈してくれるように話したつもりだが、恐らく彼女なら正確にこちらの意図を汲んでくれるはずだ。

 こちらの話はまとまりそうなのだが、まとまらない話もある。


「やはり汝は罰するべきである。来い、我が品格とは何たるかを教えてしんぜよう」


「はっ、お上品に言ったところでやることは変わんねぇだろ」


 改めてデイデアラとザイスの会話を聞いてみる。


(独特というか古風というか……)


 ザイスの言葉が逆にわかりにくくなった気がするのは気のせいだろうか?

 もしかしたら翻訳さんは仕事をしていたからこそああなってしまったのか?

 仮に精神魔法の影響で不具合が発生したのであれば、何故彼だけがおかしなことになっていたのか?

 わからんことだらけだが、そこに追加されるようにイザリアの質問攻めが始まる。


「それよりだ、お前は一体どうなっている?」


 試合を思い出したのか、俺の理不尽っぷりを非難しつつ「どういうことなんだ?」と質問を繰り返す。

 どうなっているのかなんて俺が知りたいくらいである。

 質問から逃げるように頭を後ろに倒して天井を見上げるが、そこにあったのは視界を塞ぐリアディの谷間。

「大きいねぇ!」とでも言えばよいのかと思ったところで何を調べているのか、こめかみの辺りを痛いくらいに指でぐりぐりされた。

 偶然なのだから許してほしい。

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― 新着の感想 ―
今回は"声”だったけど、これが"物音"だったりした日には物凄くやりにくくなる攻撃方法だな。劣化版とは言えそういった攻撃を相手が使ってくる可能性もあるって暗に宣言してる訳だしね。そして、もし相手が英霊…
ハゲマッチョのオネエが居ないだと! なんてもったいない!
おっきいんだもの。みちゃうんだよねー。眼の前の先輩にはないから…… ハゲマッチョオネエではなく、ハゲマッチョ古代人みたいな感じだったってことでいいんだろうか。というか、デイデアラにはどう聞こえてるんだ…
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