2-23
まずは検証だ。
腕を組み「やれるものならやってみろ」とばかりに不敵な笑みを浮かべるイザリア。
取り敢えずは反射がどうなっているかを知るため、最低ランクのハンドガンに武器を切り替える。
真正面に発射するのではなく、足を狙うように角度を付けて引き金を引く。
するとほぼ同時に衝撃が加わり弾かれるハンドガン。
俺は「なるほど」とわかったような素振りで呟くとハンドガンを構え直して歩き出す。
イザリアの背後に回っても彼女はその場から動かない。
それどころか振り向きもしない。
余程の自信があるのか?
それとも動くことができないのか?
(それがブラフという可能性もあるんだよなぁ)
再びハンドガンを構えると今度は当たらないように撃ってみる。
だが、これも反射してハンドガンに命中。
背後からだろうが当たらない攻撃だろうが反射してくることがわかった。
ハンドガンをリロードして戻し、次に近接武器をコンバットナイフに変更。
それを投げ捨てるようにイザリアに向かって放り投げる。
すると放物線を描いたコンバットナイフが巻き戻るように手元に返って来た。
「そういうパターンか」
イザリアに聞こえるように俺は呟き、攻略法に心当たりがあるかのように揺さぶってみる。
しかしイザリアは動じることなく俺に背中を向けたまま黙っている。
こちらとしては次にやることは決まっているので、そのままじっとしてくれる方が有難い。
「遠近ともに高性能なカウンター。どのような攻撃にも対応しているからこそ、動く必要がないのか。それとも動けない理由があるのか」
俺は喋りながら背後からイザリアに歩み寄る。
彼女の肩を掴むように手を伸ばすも、それを阻むように押し戻そうとする何かがある。
これ以上手を前に出せばオートカウンターが発動する――そう感じた俺は手を引っ込めた。
「確認するが、そのままでいいのか?」
武器を切り替え、準備を終えた俺が質問する。
「寡黙と聞いていたが、案外饒舌じゃないか」
俺は「そうか」とだけ返すと彼女の足元に地雷を撒いた。
次にクラスター爆弾を設置、続いてハンドグレネードを爆発しないように彼女の足元に転がす。
まだまだ終わりではないとばかりにサンダートラップ、焼夷グレネード、時限爆弾と次々設置。
「……何をしている?」
俺が背後でゴソゴソとやっているのが気になるのか、イザリアが聞いてくる。
それを「気にするな」と一言だけ返して作業を続け、設置できそうなものを粗方出し切った俺はイザリアから距離を取る。
「耐久テストを行うが、大丈夫だな?」
十分に距離を離したところで返事を聞く前に容赦なく起爆スイッチを押す。
天井まで届くほどの大爆発。
予想通り直後に見える背後から伸びる警告ライン。
振り向きざまにムラサメを抜き放つが、これはイザリアの持つステッキで止められる。
何をどうすればあの棒切れでムラサメを止められるのか?
本当に魔法というのは不思議である。
「加減を知らん奴だな!」
ステッキから伸びる光をレイピアのようにしての近接戦闘が開始。
イザリアの素早い動きに入れ替わり立ち替わりの攻防が繰り広げられる。
爆発痕が見えたが床が大きくえぐれていた。
流石にあれだけの爆薬を一度に起爆させれば、反射だのカウンターだの言ってられなかったようだ。
そうこうしている内にムラサメにエネルギーが充填され、刀身に帯びる光が強くなる。
この状態のムラサメと打ち合うのは危険と察したか、イザリアは回避と同時に後ろに飛んで俺から距離を取ろうとする。
当然それを見逃すほど俺は甘くない。
空を切ったムラサメから放たれた光波がイザリアへと飛んでいく。
手を前方に突き出し、魔力による防御壁を展開したと思われるイザリアだが、光波の一撃を受け止めきれず、弾かれるように床を転がっていく。
俺は追撃のために武器を変更。
Tier1サブマシンガン「ソウル」――装弾数48発を三秒足らずに撃ち切る瞬間火力以外何の取柄ものない武器であり、プレイヤーから「早漏」というあだ名までつけられた悲しき銃である。
だが、瞬間火力だけは高い。
体勢を立て直す前に放たれた弾丸だが、これをイザリアは地形操作で傾斜のある防壁を作り難を逃れる。
リロードに時間のかかる武器なので、そのまま別のものへと切り替えたところで後ろから声がかけられる。
「スコール1、お前の致命的な弱点を教えてやる」
振り返ると宙に浮かぶイザリアの姿。
事前に調べた通り、先ほどのように短距離転移の魔法で移動したようだ。
「お前は魔力を認識していない。科学のみが発展した世界故に、実体化した魔法でなければ感知できない」
だからこの攻撃に対処できない、とイザリアが指を鳴らす。
直後、俺は背後からの爆発の衝撃で前方へと転がり――赤い警告に飲み込まれる。
連続爆発のダメージを最小限に抑えようとするも、何処を見ても真っ赤に染まっており、逃げる場所が見当たらない。
爆発が収まった時、そこには立っていられるのも不思議なくらいにボロボロの姿になった俺がいた。
「魔力を隠蔽してしまえばお前は何も気づかない。そこら中に仕掛けた爆雷魔法は今もお前を取り囲んでいる」
「……なるほど、あれはただの時間稼ぎだったわけだ」
最初のあれはこれを仕込むためのものだったか、としてやられたことに大きく息を吐く。
しかし、これで勝ったというにはあまりにも短絡的すぎる。
俺はボロボロになった強化服の別のものへと換装する。
「魔力の隠蔽か。勉強になった」
「手の内を暴いてやったぞ」と強化服を新品に替え、肉体のダメージなど大したことはなかったとアピール。
「……それで? 次は何を教えてくれるんだ?」
未だ趨勢は不明なままであると言わんばかりに俺は挑発的な物言いをする。
するとイザリアはそれをどう捉えたのか、急に大きな溜息を吐いた。
「あのリオレスといい、わかっているならもう少しスムーズに事を運べるだろうに……どうしてこう英雄と呼ばれるような連中はどいつこいつも癖が強いんだ」
愚痴のようなものを一頻りぼやいた後、イザリアは俺を見下ろしながら宣言する。
「ここから先は実地指導だ。魔法とはどういうものか、現代魔術がどういうものかを教えてやる。なあに、ここでは死なないからな。殺し合いで、思う存分に学んでくれ」
そこから始まったのは正に科学と魔法の撃ち合い、である。
俺の方を科学と呼んでいいのかはさておき「魔法というものを教えてやる」という言葉に嘘はなく、各種属性攻撃に加え、時間差や意味不明な軌道を描く光の弾、目潰しに始まり爆発音による聴覚へのダメージなど多彩な攻防が繰り広げられた。
一方、俺はというとそれはもう遠慮なく弾幕を形成した。
下手に動けば爆雷の餌食になるのはわかっていたので、固定砲台に振り切ってDPSの出せる武器と周辺を吹っ飛ばすための爆風兵装をフル活用。
正に「火力で押し切る」を体現したかのような撃ち合いへと持ち込んだのだ。
序盤こそあらぬ方向に弾が飛んで行ったり、防壁で止められていた弾丸だが、爆風兵装の併用により、イザリアが徐々に回避行動を取るようになった。
すぐに上空での戦いが不利と悟ったイザリアが地上に降り、床材の強度を利用した防壁など作っていたが、そんなもので俺の攻撃を防ぐことなどできるはずもなく、確実に状況を優勢なものへと運んでいった。
こちらも強化服を追加で二度ほど切り替えることになったが、リロードもせずに弾を撃ち続けたことで、先に向こうが押し込まれ始める。
結果、俺は弾数が回復し切っていないガトリングガンまで持ち出すことになったが、無事にイザリアを制圧してみせた。
「おかしいでしょ! どうなってんのよ、あんたのそれ!」
ボロボロになったスーツから見える白い下着を気にする余裕はないらしく、魔力が底をついたのか、防壁すら満足に出せなくなったイザリアが俺に食って掛かる。
「どうして、あんだけ、でたらめに攻撃してんのに、あんたは息切れしないのよ!」
「流石にこちらも疲れたぞ?」
「そういうことを言ってるんじゃない!」と凸凹になった床に倒れ、手足をバタバタさせて俺に文句を言っている。
聞けば攻撃の中で消耗系のデバフが混じっていたらしく、撃ち合いになったとしても勝てる算段でやり合っていたとのことである。
「あそこまでやったのに勝てないとかもうやだー」と今度は泣きが入り出す。
完全に口調が変わっており規定外領域到達者の威厳など何処へやら、自分の言動を思い出したのか「かっこ悪すぎる」と言って両手で顔を隠したりするイザリア。
「あー……俺の勝ち、でいいな?」
念のために確認すると「うっさい、どっかいけ」と床の破片を投げられた。
戻った俺は同期に歓迎されたが、何故かデイデアラが殴られていた。
後ろの席でゆっくりしようとしていたところに「茶番だな」と呟くリオレスと目が合ったので取り敢えず頷いておく。
さて、これで二勝二敗。
勝敗はマリケスにかかっているわけだが……よくよく思い返してみるとこいつが本気で戦っているところを見たことがない。
まあ、俺は勝ったので高みの見物をさせてもらうとしよう。




