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当然のことながらこの結果に抗議が始まる。
話を聞くとケイはしっかりと武器の貸出は問題ないことを確認しており、この結果に椅子をバンバン叩いて猛抗議。
だが返って来た返答は「一対一のルールです」というもの。
詳しく聞くと、地上のルールと同様に一対一で戦うのが今回のルールであり、能力で生み出された武器を使ったことで実質二対一となったために反則負け、というのが今回の敗因らしい。
つまり「武器の貸出」ではなく「能力の貸出」という判定になるのだそうだ。
ケイは「武器を借りるのはルール的に問題はあるか?」としか質問していなかったので、その返答は「問題なし」となる。
逆に「英霊の力によって生み出された武器を借りるのは?」と聞いていれば答えは「ルール違反」となっていた。
(あー、武器を借りたのではなく「能力を借りた判定」になるのか)
確かにレールガンなんぞ貸し出した日には誰でも規定外領域に突入する。
これはケイの確認不足としか言いようがない。
そう思ったのだが……俺は思いっきり自分の能力を「武器」として貸し出していたことを思い出す。
何より俺自身が「武器」だと認識していたのである。
僅かながら責任があることを感じながらも、同時にあることを思い出す。
召喚された英霊は生前に即した能力を得ることがある。
俺や最高戦力の具現化もこのケースに該当しており、新たに得た力は必ずしも固定されたものではない。
肝心なのはこの先にある「能力の発展」である。
エデンが公開している情報によれば、召喚された直後は弱くとも、最終的には規定外領域に迫る勢いで成長した英霊もいたらしい。
もう誰も残っていない第二期の英霊の話だが、これ以外にも能力が成長しているケースは幾つか存在しており、あの最高戦力もこれに該当していると書かれていたはずである。
そして俺は既にこの兆候を見ている。
そう、何故か前作の凸システムで強化される武器。
発見に至るまで確認していなかったので確実なことは言えないが、これが能力の発展の結果だとしたら、他シリーズの武装やシステムも導入できる可能性が存在することになる。
この考えに至った直後、今回の失敗は一転して価値あるものへと変化した。
可能性の段階とは言え、この気づきは今回の失敗以上の価値がある。
思わずケイによくやったと親指を立てて頷いてしまうくらいには想像力が暴走している。
「お前はどうしてそうガキに甘いんだよ」
それを目敏く見咎めるマリケス。
もしかしたらあんなことやこんなこともできるかもしれないのだ。
その可能性にいち早く気づくことができたのであれば、ここでの敗北なぞ余裕でおつりがくるレベルである。
(爆撃支援とか出てきたらどうなるんだ? 初代の破壊光線銃とか出たら勝ち確だし、巨大ロボにも乗りたい。ああ、そうだ。VR化前の作品からでもいけるならインチキフックも欲しいぞ)
今の俺は正に古典にある「夢が広がりんぐ」という状態にあった。
「あれも欲しいこれも欲しい」に「あれもできるこれもできる」とポーカーフェイスで指を折って何やら数えている姿は周囲にどう映るのか?
この時の俺は想像を膨らませることに夢中になっており、そんなことをお構いなしに時折首を傾げたり、天井を見上げたりしていた。
そんな中、俺が我に返った時には既に三回戦が始まっていた。
状況はわかっていたことだがリオレスが優勢。
対戦相手となったのは「シェルカ」という魔法戦士。
両刃の片手剣にバックラーを装備しており、彼女の魔法なのか二本の剣が宙を舞い、リオレスを攻撃している。
(あー、自立兵器も使いてぇなぁ)
油断するとすぐ思考が戻りそうになる。
目まぐるしく金髪と茶髪が入れ替わり、その度にシェルカは手にする剣を変えている。
いや、あれは「変えさせられている」と言うべきだろう。
目に見えてわかる実力差。
特に攻撃スピードは段違いと言ってよく、ほぼほぼ防戦一方に追い込まれている状況を魔法を使ってどうにか耐えているようにも見える。
「見事なもんだねぇ」
戦いを見ているレダがぽつりと感想を漏らすが、恐らく彼女は今あの場所に自分がいたらどうなっていたかを想像している。
どちらも明らかな格上。
リオレスに至っては全力で振るうことができる剣を手に入れてから明らかに剣の速度が違っており、レダの目ではもう追い切れていないように思える。
徐々に追い詰められていくシェルカは完全に防戦一方となり、十分すぎるくらいに粘り強さを見せつけたものの、起死回生の攻勢の一手を真っ向からねじ伏せられ、その喉元に剣を突き付けられたことで敗北を認め決着。
息を切らすシェルカと何事もなかったかのように振る舞うリオレス。
こうして一勝二敗となり、俺の出番が回って来る。
リオレスがすれ違い様に頷いたので頷き返したが、多分「頑張れよ」とかそういう激励だろう。
というわけで対戦相手を待つことしばし、俺の前に現れたのは第七期の規定外領域到達者イザリア・メーデン。
「正々堂々戦おうか」
そう言ったイザリアだが、戦う前に俺のペナルティを決める必要がある。
能力を貸す反則をした以上、能力を制限する罰則が適切だろう、というのがイザリアの主張。
「それが通ると何もできないのだが?」とは言えず、黙って裁定を待つ。
結果、俺が背負ったペナルティはビークルとバトルアーマーの禁止に留まった。
もともとビークルを使うつもりはなかったので、これならば許容範囲である。
俺は頷きこの裁定を受け入れる。
ぶっちゃけ、勝ちに行くだけならバイクに乗って高速戦闘に付き合わせるか、距離を離して全力ミサイル攻撃かで多分終わる。
そんなわけで開始位置への移動となるわけだが……その前にイザリアから提案があった。
「ここを壊すと後が煩い。お互い規定外領域に到達する攻撃はなしにしないか?」
まずはレールガンで様子見しようと思っていたのだが「壊れるのか」と呟き少し考える。
いざとなればプラズマキャノンの火力で押し切ることもできるので、この提案はこちらにメリットが少ない。
相手の高火力を封じることができると言っても、俺が知る限り彼女の最高火力は3400くらいであり、こちらが使える手札と相殺するには明らかに足りていない。
だが、敢えてここは乗る。
断ることを想定してのことだろうが、俺はその逆を行く。
「いいだろう」
ただそれだけ言って開始位置へと移動するが……何もない。
そこで俺は相手側にミリダがいることを思い出す。
「あ、これ正解がないやつだ」と諦めて戦いに集中することにする。
要は勝てばいいのだ。
開始位置に就いて取り出したのはTier1ライフル「マークスマン」である。
バランスを重視した結果、攻撃力3600に装弾数32発で特筆すべき点が何もなしという「他でよくね?」の代表格。
手に入れて最もがっかりする最高ランクの称号をほしいままにし、Tier1の面汚しとまで呼ばれた残念武器。
様子見するには丁度良い。
何せ初お披露目の武器である。
こちらが相手の情報を見ているように、向こうもこちらの記録を探って対策している前提で戦いに挑むのが道理。
ならば、最初に出すのは初見の武器。
公式の場で使っていないレールガンならば最初の一発で終わる可能性もあったが、ここは対人戦の経験を積むと割り切ろう。
両者が配置について睨み合う。
開始の合図と同時に俺は引き金を引いて横に走り出す。
直後、警告なしの一撃が俺を襲った。
腕を掠めたのは俺が放った弾丸。
「反射か……」
苦々しく呟く俺に自らの優位性を示すように笑みを浮かべるイザリア。
「スコール1。君のことはしっかりと調べさせてもらった。私にとって厄介なのはあの異常な火力と回避能力。ルールの解釈でペナルティを背負わせ火力は封じた。そして君の回避能力が機能しない攻撃は二つ確認している」
悠長に棒立ちのまま、攻撃すらしてこないイザリアに向かって走る。
「一つは君自身の攻撃」
弾丸は反射される。
ならば攻撃を切り替えれば良いだけだ。
そう言わんばかりに背中から近接武器を抜き放つ。
だが、反射を警戒して使うのはTier4までランクを下げておく。
「もう一つは……」
距離を詰めた俺はブレードの射程圏内に入る。
俺が攻撃モーションに入っているにもかかわらず、未だイザリアは悠長に喋っている。
振り下ろされたブレードはイザリアの肩口から斬り込まれる――はずだった一撃があらぬ方向へと曲げられた。
「オートカウンターだ」
直後、警告のない不可視の攻撃が俺を左方向へと弾き飛ばすと「種明かしだ」とばかりに不敵な笑みを浮かべて両手を広げて見せるイザリア。
「対策は立ててきた。破ってみせろ」という見え見えの挑発である。
しかしそう言われれば燃えるのがゲーマーという人種である。
(お前の敗因はただ一つ、だ)
イザリアは仕様変更やバランス調整と戦い続ける者たちを甘く見た。
運営と開発を泣かせ続けてきたゲーマーの一人として、その対策を完全攻略してやろう。




