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 黒い閃光のような直線的な攻撃を大きく避ける。

 続く無数の弾丸のような連続攻撃を前に出ながら回避する。

 エルメシアの攻撃に範囲攻撃や散弾も混じり出したが、一人が出せる弾幕量では対処は容易い。

 攻撃は激しさを増すばかりだが、こちらも負けじと銃弾をエルメシアの右手に集中させている。

 何処に撃ち込んでも銃弾は止まるので、それなら難易度が高そうなよく動く手に狙いを定めただけである。

 動く標的を常に攻撃し続ける訓練には丁度良い。

 右手だけを的確に撃ち続ける俺に苛立ったエルメシアの攻撃は苛烈になる一方、その精度や戦術は雑なものへとなっていく。

 こちらの攻撃が挑発として機能したらしく、思わぬ結果にエイムが少し乱れてしまう。

 とは言え、誤差程度なので修正は容易だったことに加え、偶然エルメシアの放った散弾の一発に弾丸が命中したことで相殺が可能であると判明。

 理屈は不明だが魔法攻撃が銃撃で相殺や減衰できた。

 そこからは相手の猛攻を綺麗に回避しながら、徐々に距離を詰める余裕も生まれた。


「何なんだ、お前は!?」


 エルメシアが叫ぶと目の前が真っ赤に染まる。

 広範囲攻撃が来るので素早く後退。

 その間にも射撃は忘れない。

 弾丸が全て目の前で止まろうとも無視して撃ち続ける。

 手が空いているならば撃ち続ける。

 相手からすれば「ダメージを与えることができない格下」としか映らないだろう。

 だがその格下に攻撃が当たらないのだ。

 攻撃力は低く身体能力も際立っているわけではないのに異常な回避能力を持っている。

 ちぐはぐもいいところだろう。

 だから混乱して叫ぶのも仕方がないのかもしれない。


(それで広範囲攻撃の乱発かよ!)


 癇癪を起した子供が手当たり次第物を投げつけるように手を振るうと大きな爆発が立て続けに起こる。

 その全てを回避できていたら良かったのだが……俺の足では間に合わず最後の一発で右半身が巻き込まれた。

 連続爆破は合計12発。

 5発目までアサルトライフルを撃っていたのは少しばかり余裕をこきすぎたと反省する。

 だが、あの爆発に巻き込まれたにしてはダメージが少ない。

 まだ動けるし右手も動く。

 どうやら予想よりも俺の体は頑丈なようだ。

 嬉しい誤算に少しばかり口角が上がる。

 銃を構え直した俺を見るエルメシアの表情が変わった。

 先ほどと全く異なる無機質な声――俺を嘲る様子もない感情の見えない口元。


「気が変わった」


 エルメシアはそれだけ言うと身に纏うローブを剥ぎ取るように脱ぎ捨てる。

 宙を舞うローブ。

 しかし落ちる気配はなく、ローブは宙を漂い少しずつ形を変えていく。


「闇よ来たれ。おぞましき羽ばたきは世界を覆う」


 宙を漂い形を変えるローブにエルメシアの手が触れる。

 直後、ローブは黒い鳥に姿を変え、首にかけたコインを連ねたような装飾具のみとなっていたエルメシアの上半身に幾つもの模様が浮き上がる。

 その姿に全身で嫌な予感を感じた俺は全力で走り出す。

 後退ではなく前進。

 よくわからないが俺の直感が「距離を取るのはまずい」と全力で警報を鳴らしている。

 だから前へと走り出したのだが……カラスのような黒い鳥が口を開くと足元から伸びる赤い線。

 地面から伸びた影のように黒く長い針を体を捻って回避。

 続く鳥の口から放たれた黒いレーザーの薙ぎ払いを前転で避け、追撃の爆発を左に飛んでダメージを最小限に抑える。

 流石に回避アクション中の無敵は再現されていないようだ。

 そのことを残念に思う間もなく地面から伸びる無数の赤い線が俺を取り囲む。


(これは避けきれんな)


 軽い舌打ちの後、覚悟を決めて引き金を引きながら僅かな隙間にスライディング。

 返しの付いた棘の森を抜けることには成功したものの両肩を負傷する。

 激しい痛みと出血に一瞬だが降参の二文字が頭を過る。

 しかし「痛みはあるが戦闘に影響はない」と戦闘を継続。

 即座にそう判断できた理由はわからないが、今は目の前に集中である。

 ローブが化けたカラスのような何かとエルメシア――どちらも目を離してよい状況ではない。

 幸いなのはレーザーをぶっ放してくるカラスがエルメシアの傍を離れることができないのか、常にその周囲を飛んでいること。

 相手の攻撃は今のところ対応できているが、警告が出ないものがないとは思えない。

 例えば威力を考慮していない牽制。

「英霊」と呼ばれるからには相応の戦闘経験があって然り。

 たった一度の被弾で謎を解き明かしてくる可能性は十分に考えられる。

 全方位攻撃を最小限の被弾で切り抜け、引き金を引き続けるも結果は変わらず。

 対象をカラスに変えてみたが、こちらも同じように目の前で弾が止められる。


(ほんとこれの原理がわからん。魔法でシールド張ってるとかそういうのだとは思うんだがなぁ……)


 対処法が何も思いつかない。

 正にお手上げ状態である。

 それでも引き金を引くのはまだ余裕があると見せかけるため。

 勝負を諦めていないと思わせなければ、英霊としてここにいる意義を問われかねない。

 とは言え状況が悪いことには変わりなく、こちらから変えることもできないとなれば相手に動いてもらうしかない。

 だからこそ、こうして無意味に思える銃撃を続けているわけなのだが……悪いことに徐々にエルメシアが俺の回避能力に対応し始めてきた。

 それが先ほどから続いている全方位攻撃。

 タイミングを合わせての一斉射撃も混じり始めたことで、エルメシアの対応策が固まったことを察する。

 直撃させる必要はない。

 相手の攻撃が通用しないのであれば、着実にダメージを与えることで勝利が確実となるという至極真っ当な戦術を選択された。

 そこに気づいて舌打ちを一つ。

 それを聞かれたのかエルメシアの口角が上がる。


「まだ、何も見せないつもり?」


 勝ちを確信したわけではないだろうが、エルメシアが笑いながら聞いてくる。

 俺が実力を隠していると思っているようだが、残念ながら隠すような手札はない。

 そう思われても仕方のない誘導をしたことを悔やみながら必死に回避行動を取る。

 しかしここで何も言わずに戦闘を続行すれば、それこそ相手の思う壺である。

 エルメシアが「このまま封殺」という選択をした以上、俺が動かなければ何もできずに負けることになる。

 せめて何かは残さなければ、俺の今後に悪影響があるだろう。


「……銃についての知識はあるか?」


 だから俺は口を開く。

 この状況を打開できる攻撃力がないならば、あると思ってもらうしかない。

 情けない話だが「はったり」以外の手札がもうない。

 相手の挙動から見える僅かな警戒。

 絶え間ない攻撃を避けながら距離を詰める。

 被弾は常に最小に抑えてはいるが、既に全身から出血しているような状態だ。

 銃を撃つ手は止めている。

 俺がやるべきことは引き金を引くことではない。

 まだ弾が残っている弾倉を外し、何度も見せたリロードの手順を見せる。

 だが、今回は外した弾倉をエルメシアに向かって放り投げた。

 カラスモドキの口から離れたレーザーを紙一重で避け、銃の照準を投げつけた弾倉に合わせる。

 狙いを勘違いしたエルメシアが初めて防御に回り、俺は全力で距離を詰める。

 放物線を描く弾倉は狙い通りにエルメシアへと落ちていく。

 その先にあるのは初めて目に見えるようになった魔法の防御壁。

 だが、弾倉は防御壁に当たる前に消え去った。

 俺が弾薬パックに手を突っ込み、新しい弾倉を取り出したので古いものが消えたのだ。

 弾倉を銃に取り付けてリロードが完了する。

 ただのブラフ――エルメシアはそう理解した直後に攻撃に移る。

 そこに俺はアサルトライフルを優しく放り投げた。

 まるで相手に投げ渡すような受け取りやすいパス。

 思わずそれを手に取ってしまったエルメシア。

 手を振るい、指を鳴らして魔法を使う彼女の手が塞がった。

 攻撃でなければ防御壁は通る。

 通らなくともこのまま終わらせるつもりだったが、通るのであれば都合がいい。

 俺は抜き放ったコンバットナイフを逆手に持ち、近接戦闘の距離まで詰める。

 エルメシアがアサルトライフルを投げ捨てた時にはその刃が届く距離まで近づいていた。


「ちっ……!」


 聞こえたのは小さな舌打ち。

 エルメシアが後ろに飛ぶが、その前に俺の手が間に合った。

 腕を取った――そう確信した直後に何かがぶつかる音。

 頭部に飛来したそれは額を撃ち抜くように衝突し、その勢いで俺は綺麗にすっころんだ。

 危険な攻撃ではなかった。

 直撃であったにもかかわらず、痛みはあるが大したことはない。

 故に警告が出現せずに反応が遅れて被弾した。

 俺の頭を撃ち抜いた正体はエルメシアの首にかけられていたコインを連ねたような装飾具。

 それが分離して俺の額に命中したというわけだ。

 つまり、今エルメシアの上半身を隠すものは何もない。

 ナイフを手放し大の字になって倒れた俺はエルメシアを見る。

 彼女自身もこんなものがクリーンヒットするとは思っていなかったのか、困惑気味のように見えた。

 攻撃が止まっているのがその証拠だ。


「あー、戦いに男も女も関係ないし、形も大きさも大変良いとは思うが……胸は隠せ」


 がっつり見ながら言うセリフではないと思うが、被弾した言い訳はあった方が良い。

 直後に放たれるカラスレーザー。

 それを飛び跳ねるように全力で回避。


「待て、俺の負けだ」


 戦闘終了を呼びかけるも追撃の散弾が飛んでくる。

 片手で胸を隠しながら無言の攻撃が続く。

 自分から見せておいてなんだその対応は、と文句の一つも言いたくなるが、何を言っても今は逆効果になりそうなので回避に専念する。

 もしかしたらあのコインは自動防御のようなもので、それを発動させられてキレているのか?

 俺はアリスに戦闘終了してもらうように呼び掛ける。

 デイデアラのおっさんが満面の笑みで親指を立てていたことに苛立つが、どうにかこの茶番を終わらせることに成功した。


(俺をダシにしてエルメシアを測ってたのはわかってんだよ)


 余裕がある時に俺は何度か視線をあいつらに向けていた。

「俺の実力を知りたい」と言いながら、連中が見ていたのはエルメシアだった。

 単純にエロイ恰好しているから、で済ませることができれば楽だったのだが……仮にも「英霊」と呼ばれる存在である。

 初日に危険視されているであろうエルメシアの手札を探ろうとするのはおかしなことではない。

 ただ戦っていればいい――ここがそうではないとわかったことは収穫かもしれないが、あまりよくない情報である。

 この明らかな探り合いでわかったことは、英霊同士で争う可能性は十分にあること。

 良からぬことを考える者とそれを危険視する者。

 名目ではこの場所がその解決策となっている。

 しかしそれは本当に機能しているのか?

 英霊の多くが戦死しているとのことだが、そこに別の誰かの思惑はなかったと言い切れるのか?

 その判断がつくまでは下手に集団の中に入るのは得策ではないかもしれない。

 あの日、あの場所にいた英霊以外にも既に呼び出されている者たちがいるのはわかっている。

 派閥や勢力図についても調べる必要がある。

 だがその前にするべきことがある。


「医務室はどっちだ?」


 直撃は最後だけだが全身に切り傷があって服がかなり赤い。

 この体の怪我はどういう風になるのか、デペス戦の前に知れたことは良かったと思うことにしよう。

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ローファンタジー要素見当たらないし
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