2-16
目標を撃破したことで気でも抜けたのか、スコール1が呆然としており、そこに突っ込んできた昆虫型を避け切れず、左腕に食らいつかれた。
直後に内部から爆発した昆虫型だが、スコール1の左腕もまたなくなっていた。
群がるデペスに四度目のレーザースライサーが使用され、奥の手一つを全スロット分使い切る。
空白地帯ができたことで時間を稼いだスコール1がバトルスーツ姿となるも、またもランクが下がっている。
だが使用する武器に影響はなく、むしろエネルギー量を増やし、継戦能力を重視したタイプは今の状況には適合しているとも言える。
左右交互に放たれるリニアキャノンが周囲のデペスを撃ち抜き、右手に持った重機関銃で正面の敵を倒して進む。
それでも敵の群れは徐々に距離を詰め、迫る昆虫型がスコール1を嚙み砕かんと口を広げた。
その中に重機関銃を突っ込み、大量の弾丸をぶち込むと同時に武器を切り替え、接近していたデペスをまとめてブレードと刀身から放たれた光波で切断する。
弾が切れれば武器を切り替え、あらゆる武器を使いこなして無双するスコール1――その映像を病室で同期に囲まれながら見ている俺は思う。
(なぁにぃこれぇ?)
口にこそ出さないが、俺の感想が正にこれである。
何か意識を失ったかと思えば、気づいたときには病室である。
その間の出来事が現在病室のモニターに映し出されているのだが……〇〇無双でもやっている映像か、これは?
ちなみにこの後も味方が到着するまで戦い続け、敵百万弱のうち、四十万強を俺一人が倒したらしい。
「ああ、それでこのリザルト画面なのか」といつもと比べてやたらとでかい画面に加え、小さくなりすぎたスクロールバーを見て納得する。
「……腕は生えるんだな」
そう言って映像の中で失われたはずの左腕を動かして確かめる俺。
「いや、そうじゃねーだろ」という一同の心の声が聞こえた気もするが、俺は容赦なくそれを無視。
質問攻めに遭うのは目に見えているので今は少しでも時間を稼ぎたい。
「済まないが、しばらく一人にしてくれ」
俺の言葉に一人、また一人と病室を出ていく。
最後に女医を称するリコレアが「今はゆっくり休んでくれ」とだけ言って出て行った。
一人になった俺はまずはリザルトを確認する。
(大量すぎる……いや、高ランク武器がいっぱい欲しいとは言っただけどさ)
恐らく見落としがなければほぼほぼコンプリートできている。
特にTier1相当のレーザースライサー、重力砲、プラズマキャノンに加え、最高ランクのスナイパーライフルにロケットランチャーと目ぼしいものは全部ある。
さらに上位の強化服とバトルアーマーにジェットパック、それに加えてビークルまで揃っているのだから、文句のつけようがない結果である。
また兵装には共通と専用があり、リザルトが獲得順で並んでいると仮定すれば、各種形態を解放した後に専用武器が出ていることになる。
つまり、これらの兵装は条件を満たしていない状態では出てこない設定だった可能性が高い。
ちなみにバトルアーマーとジェットパックの詳細はこんな感じになっている。
バトルアーマー
重装歩兵をコンセプトとした高火力と高い耐久性を誇る強化服の上位互換。
重量による機動力の低下を背部に装着したブースターで無理矢理解決した兵装であり、内臓された大容量エネルギーパックでシールドも展開できる。
反面燃費は悪く、短期決戦においてこそ真価を発揮する。
両肩と両腕、合計四つの武器スロットが最大の強みであり、特に専用武器は強力なものが多く、火力による制圧ならばこれに勝る選択肢はない。
ジェットパック
空も飛べる一人空挺部隊。
強襲用の高機動部隊を作る予定だったが、使用難度が高すぎたことでお蔵入りしたという悲しき設定を持つ兵装。
ブースターによる加速と飛行能力を持つが、軽量化のためにエネルギーパックまで犠牲にしたことで、限界稼働時間が使用者に大きく依存する。
武器スロットが一つしかなく、近接武器の使用も視野に入れる必要もあってか、専用装備が強力でもジェットパック解除後の弱体化という欠点を覆すことは難しく、高度な戦略と練度が要求される非常に難しい兵装。
ゲームならではの地形を利用した戦術ではとてもお世話になる。
ゲームならばこれらを装着して出撃するか、ビークルを利用するかの選択になるが、全部使えるのが現状かと思われる。
「状況に応じて使い分けることができるならそりゃあんな風になるわな」とスコール1のあの暴れっぷりに納得しつつ、今回の出来事について考える。
(完全に俺の意識は飛んでいた。この体にはスコール1となった彼の意志が存在している可能性が極めて高い)
プレイヤーの分身がプレイヤーを乗っ取るとかホラーめいたことを考えるが、ゲームのキャラが前に出ていると考えれば、一応納得はできる現象と言ってもよい。
だからと言ってそれを許容できるか、と問われれば勿論NOである。
誰が好き好んで消え去りたいと言うのか?
ただ、そうなる要因はほぼほぼ確定しており、その原因もわかっている。
原因は彼が持つ憎しみ。
憎悪の対象である敵に誘発され、キャラクターに設定された人格が前に出てくるのか?
それとも俺が余計なものなのか?
「実は地球軍VSシリーズは並行世界の地球であった話で……」という可能性は流石に捨てていいだろう。
結局のところ、どれだけ考えても可能性の話しかできず、はっきりわかることと言えば再びドローン空母、あるいは「俺がよく知る敵が出てきた際にどうなるか?」という不安要素だけが残る。
確かなことはこの体には俺とスコール1となった彼がおり、その意識が切り替わるトリガーが存在している、ということだ。
以前からちょくちょく自分の意志とは思えない言動を感じていたので「徐々に融合しているのではないか?」という心配があったが、ここで新たな不安要素が追加されたのは正直精神衛生面上よろしくない。
自分を強く持つとかで対処できるならそれでよいが、そうならなかった時のことも考えねばならない。
頭を悩ませてるところに病室の扉が開く音が聞こえた。
入ってきたのはローガンと見知らぬ男性二人。
片方はローガンと同じ初老くらいで、もう一人は中年の男性である。
「君にはもう少し休んでほしかったのだが……お二方がどうしても、と言うんでね」
苦笑するローガンと深刻そうな顔をしている二人。
俺は仕方ないとばかりにゆっくりと頷く。
「君が撃墜したあの船に時空を越える、もしくはそれに近い技術はあるかね?」
ローガンの質問で俺はこの二人が何を心配しているのかを理解する。
デペスは人類の文明を利用する。
新種と思った敵が実は俺の世界で戦っていたドローン空母だった。
ならば、どうやって宇宙人がこちらにやってきたかを考えるのは自然であり、その技術がドローン空母にあるかどうかを確かめたいのだ。
地球軍VSの設定は暇な時に結構読んだので、そこら辺は問題なく答えることができる。
俺は思い出すように考える素振りを見せてから口を開く。
「……母艦にはワープシステムが存在する。だが、それ以外にあるかと聞かれれば『ない』と断定できる。あのワープには母艦が必要不可欠であることは地球軍が確認済みだ」
そもそも時空を越える力があるというのは初耳であることも付け加え、俺はあからさまにホッとしている二人を見る。
その視線に気づいたのか、安心した二人はようやく自己紹介を始める。
「私は司令部のミグニだ。他の世代の英霊との交流が進めば、私と会う機会も増えるだろう」
その時はよろしく頼む、と握手を求められたので応じる。
「私は議会委員のドッツ・マクレイダだ」
こちらも「よろしく」と言って握手する。
それから和気あいあいとした二人は退室し、代わりにジェスタが入って来た。
「帰れよ」と言いたいが、この二人も何か言うことあるらしい。
「あんなにニッコニコな上層部は初めて見たわ」
ジェスタの言葉にローガンも「まあ、仕方がない」と笑っている。
(俺の敵がワープして来て、その技術をデペスが手に入れる可能性を相当本気で考えられていたようだな)
俺の存在が差し引きマイナスどころか、下手すればドボンだった可能性があったわけである。
それが一先ずでもないとわかれば、スコール1という最高戦力クラスの出現は純粋に朗報となる。
今後も同じように地球軍VSの敵が出現する可能性はあれど、母艦が出てこない限りは対処可能。
そして地球という惑星を欲しがった相手が、わざわざ時空を越えてこの荒廃した星を欲しがる理由は何があるか?
それを考えれば、こちら側に母艦が来る可能性は低いと考えられる。
どうやら二人も同じようなことを考えていたらしく、今後について語るためにここ来たそうだ。
「恐らくだが、司令部はこの戦いを終わらせにかかる。そう遠くない内に大規模作戦が発令するだろう」
ジェスタの言葉にローガンも頷いた。
「私も可能性は薄いと見ている。だが、それで悠長に構えるのは愚の骨頂だ。可能性が僅かでもある以上、我々は事の成就を急がねばならない」
こっちはゲームなのでそんなことはあり得ないとわかっているが、それもドローン空母の出現で揺らいでいる。
「いや、ほんとどっから出てきたんだ?」としか言えない。
何がどうなっているのかわからないので、彼らの言葉に黙って頷く。
実際問題、デペスを倒せば解決する可能性はあるし、何なら考えられる範囲では最も期待できるとさえ言える。
結局は戦うしかない。
モニターに映る映像の中で戦うスコール1を見て、俺にもこんな戦い方ができるかどうかを自問する。
答えは「かなり近づける」である。
今までと違う戦い方になるのだからすぐには無理だが、要点は押さえているつもりだ。
ならば、真似もできるし、何なら発展させることだって不可能ではない。
二人を見送ることなくベッドの上で別れを告げ、モニターの電源を切るとまたも来客。
病室に入って来たのはアリスだった。
これは予想できていたのでベッドに腰を掛けて応対する。
ここに来た理由は俺の状態を確認するため、だそうだ。
見ての通り動く分には問題ないのでその旨を伝え、明日には訓練場に顔を出す予定であることを告げる。
それを聞いたアリスは安心したらしく、俺が単騎で出撃した件で説教を始めた。
なので俺は話を変えるべく、今回の戦果について聞いてみる。
中規模襲撃を一人でほぼ半数倒したのだから、ポイントもさぞかし凄いことになるはずである。
「戦功の独り占めはしないように、と言ってますよね?」
そう言えばそういうのもあった、と思い出すが、それなら最高戦力は一人で三割とか持っていくが、そちらはどうなるのだろうか?
気になったのでと尋ねてみたところ「敵を倒した割合に応じて戦果が引かれていく」そうだが、向こうはもう幾ら引かれたところで桁が減らない状態らしい。
作戦上そうする必要がある場合は問題ないらしいが、基本的に一人で倒しすぎれば過剰と判断された分だけ割合に応じてマイナスが大きくなると説明してくれた。
結果、無事に所有戦果ポイントがマイナスの領域に突入した俺は、最後抵抗とばかりに「どうにかならない?」とアリスを見る。
「規則なのですみません」と謝られる俺は「そうか」とだけ返して天井を仰ぎ見た。




