2-14
次の襲撃まで最短で三日。
そのような事情もあってか、前回チームとして戦ったメンバーとの相談もスムーズに終わった。
ポイントも欲しいが今は力を取り戻すことを優先する。
その主張を覆すことは彼女たちには難しく、むしろより強力な装備を借りることができるようにもなる可能性が考慮され、惜しまれながらも今回は単独で行動することになった。
高レベルの武装はエネルギーを必要とするものがあるので、貸し出すには向いていなかったり、強力であるが故に扱いが難しく、到底他人に使わせることができないものが多々あることは黙っておく。
そうしていつも通りの日々を過ごすこと三日――予報通りの襲撃が来る。
(そう言えば、襲撃予報はあるのに天気予報はないのか?)
エデンは所謂ドーム状に囲まれたアーコロジー。
外の天気はどうでもいいのか?
それとも衛星がないからできないのか?
この戦いが終わったら調べてみるか、と俺は作戦室へと急いだ。
そんな訳で作戦室に続々と集まる第八期の面々。
予報では今回は中規模の襲撃とのことである。
ジェスタも笑ってはいないので余裕のある相手ではなさそうだ。
それもそのはず、確認できているだけでも見たことのある中型が四体。
別のタイプの中型に至っては八体もいるそうだ。
「大型が混じっていないだけマシ」とのことだが、今回は五期以降が全員出撃するということで「戦闘の勝利は疑っていない」というのが上層部の見方なのだと言う。
「ただな、こいつが厄介なんだよ」
そう言って映し出されたのは初めて見る中型「キメラ型タイプB」と名付けられたデペス。
こいつに関する情報をモニターに出したジェスタが簡単に説明してくれる。
「文字通り色んな生物を組み合わせたかのようなのがキメラ型の特徴だ。こいつは中型しか存在しない。サイズは見ての通り、以前戦った獣型に比べれば小さいが、攻撃性能がとにかく高い」
サイズによるパワーの獣型に比べ、様々な生物の部位を使った鋭い攻撃や搦め手まである多彩な攻撃手段。
その全てが致命的なダメージに繋がるとジェスタは俺たちに警戒を促す。
またそれ以外にも「昆虫型タイプC」という未見のデペスも今回はおり、見た目はムカデとハサミムシを足したような形をしており、こいつの毒は英霊に対しても効果があるので注意が必要であるそうだ。
死ぬようなものではないと言うが、その牙から大量に注入された場合は保証できないとのことである。
八期も全員が揃い、各々が今回の敵と戦術について質問する中、それらを中断したジェスタが通信を始める。
相変わらず会話の内容は何も聞こえないが、雰囲気からどうやら何かイレギュラーな出来事があったのはわかった。
少しして通信を終えたジェスタが考える素振りをしたかと思えば、モニターのリモコンを操作し始める。
「あー、追加の情報だ。新種が現れた」
何人かが「新種?」と首を傾げているが、それに構わずジェスタはモニターにデペスの群れを映し出す。
「記録では新種は二百年ぶりになる。上層部が対策会議を緊急で開く。出撃は少しだけ待ってくれ」
そう言ってモニターの映像が何度も切り替わり、映し出されたのは空に浮かぶ新種の姿。
その映像を見た瞬間、俺は驚愕のあまり立ち上がっていた。
「……おい、あれって?」
こちらを見てモニターを指差すデイデアラ。
「どういうことだ」と空に浮かぶアレを見たことがある英霊たちが騒ぎ始める。
それを静めるジェスタもまた、事情を知っているのかこちらを見ている。
(同じだ。デペスに寄生された証拠でもある菌糸のようなものはあるが、形は全く同じだ)
モニターに映し出されている新種――それは俺が良く知るゲームにおいて「ドローン空母」と呼ばれる敵である。
地球軍VSというゲームシリーズでは毎回のように登場する「雑魚敵をどんどん増やすタイプ」という面倒な敵。
その面倒な相手が、俺がここに来る間際までプレイしていた最新作のデザインそのままの姿でモニターに映し出されている。
「何故?」という困惑。
「どうやって?」という疑問。
それらを瞬時に塗り潰していく黒い感情。
乱れる動悸、無意識に心臓を掴むように服を強く握るその手が震えた。
俺の意識はそれらを認識する前に、電源を落とすようにブツリと途切れた。
立ちすくみ、自らの胸を掴んでいた手を離したスコール1が歩き出す。
何処に向かうつもりなのか?
それを瞬時に察した男がスコール1の肩を掴んだ。
「何処へ行く気だ?」
そう尋ねるマリケスだったが、彼はその答えを知っている。
止めなければならない――でなければスコール1は単身であのデペスの群れに向かっていく。
腕力では自分に分がある。
最悪は力づくでも止めるという強い意志で彼を止めた。
だが、彼の肩を掴む腕にスコール1の手が触れる。
それと同時にスコール1の強化服が暗い青へと変化していく。
掴んだ手が握られる。
そして無理矢理引きはがされるマリケスの手。
驚愕の表情を浮かべながら、マリケスは力負けをしている現実に状況を理解する。
「邪魔をするな」
冷たい言葉と底冷えするような眼光。
放たれた蹴りがマリケスを吹き飛ばして壁に叩き付ける。
扉を開け、ヘルメットを被り走り出すスコール1を止める者はいない。
「待て、スコール!」
マリケスの声に我に返ったようにジェスタが動き出すが、その呼吸は荒く、先ほどの殺気すらも感じるスコール1に当てられたのは一目瞭然だった。
ジェスタは何処かに連絡を入れているようだったが、マリケスはそれに介入する。
「ゲートを開けろ! このままだとスコール1はゲートを破壊してでも外に出るぞ!」
この言葉にジェスタは「そんなことできるはずがない」と言おうとするが、それを遮りマリケスは声を荒げる。
「あれは全盛期のスコール1だ!」
マリケスの叫びに「あー、確かに」とこの状況でもマイペースなデイデアラ。
記憶の戦場で見たスコール1の姿を思い出した面々も頷くが、動く者は一人もいない。
「追いかけるぞ!」と扉に向かうマリケスをデイデアラが止めた。
「待てよ。もしも本当にスコール1が全盛期の強さに戻ったのだとしたら……止める理由はねぇはずだ」
デイデアラの言うことはエデン側からすれば「その通り」としか言えない。
スコール1は現在エデンの最高戦力候補として期待されている。
それが現実のものとして機能するならば?
たとえ暴走状態であったとしても、これから起こる戦いを止める理由がない。
詳しい事情を知らないデイデアラであっても、止める理由が見当たらず、あれだけの力を見せたスコール1ならば、無謀な単騎特攻にも該当しない。
デイデアラの場合は単純にスコール1の真の実力を見極めたかった、というのが本心だが、同じことを考えている者は、この第八期の中では多数派となる。
それを察したマリケスは一人、スコール1の援護に向かうことを決心する。
(こんな形で力を取り戻すのか、お前は!)
思い描いていた英雄像――憎しみに囚われているだけではダメなのだ。
守るものがあり、守るためならばどこまでも強くなれるのが人なのだ。
それを信じるマリケスにとって、この復活劇は受け入れがたいものだった。
だから自分一人であっても向かうとマリケスは動いた。
だが、彼の意識は一人の男によっていとも容易く刈り取られる。
「これでいいか?」
動いたのはリオレス。
絶妙な一撃でマリケスを気絶させたリオレスは彼を机の上に寝かせる。
「上層部の緊急会議が終わるまでは出撃は許可できない」
ジェスタの言葉には有無を言わせない圧があった。
しかしその程度の圧に動じる者は英雄とまで呼ばれる彼らの中にはいない。
「一応、その会議とやらの内容を聞いておくわ」
面白そうにエルメシアが質問するが、それとは対照的にジェスタの表情は暗い。
「宇宙を、次元を渡るだけの技術を、デペスが手に入れた可能性がある。会議は恐らくその件だろう」
ジェスタの言葉に全員が気づいた。
デペスは適応し、人類の文明を利用する。
つまり、今あそこにいるスコール1の敵は既にデペスによって寄生されており、解析されている真っ最中か、または「既に解析が完了して用済みになった」可能性がある。
もしもそうなればエデンの、これまでの人類の戦いが無駄に終わるのだ。
ようやくエデンの軍人である彼の不安を知り、その可能性を考えたことで全員が押し黙る。
技術的な面では言えることは何もない。
ならば想像する外ない。
デペスがあの船にある世界を超える能力を手にした場合の世界を――人類が最も恐れた最悪の結末がそこにはあった。
だが、それを否定する声が上がった。
「いや、その可能性は、低いはずだ」
作戦室に入ってきたのはローガンだった。
事態を知ってこの場に駆けつけたらしく、息を切らしている。
「次元移動の兆候は見られなかった。当然これまでに観測もされていない。ならば単独での跳躍ではなく、何かしらの装置によって、観測もできないような微量な影響で送られてきた、と見るのが妥当」
なのであのデペスが単独での次元跳躍の能力を持つ可能性は低い、というのがローガンの結論だった。
ただし、あの船にも何らかの装置、或いはシステムがあることは明白であるだめ、それらがデペスに解析されるのは面白くない事実ではある、と締めくくる。
「問題があるとすれば、その座標になったのが……」
「スコール1」
リオレスの言葉にローガンが頷く。
放置できる問題ではない。
だが、解決のためにできることもない。
最高の戦力と最悪の敵。
この二つを同時に呼び込んだのだと悟ったエデンは今、揺れている。
強力な武器がたくさんほしい?
なら強い敵といっぱい戦わないとね!
次回はみんな大好きの無双会だよ、やったね!




