2-12
フィオラ・アルフメルデ――その名前を俺は知っている。
規定外領域と認定され、様々な情報が解禁されたことで、俺は他の英霊について調べたことがある。
中でも最高戦力とされるその人物については、その頭のおかしさっぷりも含めてよく覚えている。
「戦争がしたいから戦争を仕掛ける」
山賊狩りから始まった少女の物語は、いつしか王となって戦に明け暮れた伝記となって後世に残された。
世界を疲弊させ、人類文明崩壊の要因となった大罪人。
覇を唱えるのではなく、徒に戦場を増やしただけの女王。
攻め取ろうとも統治せず、ただただ戦火を拡大させ続けた戦争狂。
散々な言われようだが、これら全てが誇張なき事実というのだから恐ろしい。
そんな人物がここエデンの最高戦力、というのだからこいつは一体こちらに来てどんな力を手に入れたのか?
その部分もしっかりと書かれており、驚いたことに俺と同じで複数の武器を同時に具現化できるタイプ。
しかも具現化するのが武器だけではないときた。
能力名「我が戦争」と恐らく本人が付けたのではないかと思われるこの力――生前、自分が率いた軍勢を呼び出すこともできる能力である。
死ぬまで戦争に明け暮れたウォーモンガーの出す戦力はなんとその数凡そ二十万。
これだけでも十分頭一つどころでなく、抜きんでた強さを持つとわかるのに、この軍勢の中には英霊として呼び出されてもおかしくない英雄クラスが結構な数いるという。
「もう全部こいつ一人でいいんじゃないかな?」と思うだろう。
実際その通りで、エデンの言う「戦果の独り占めは止めましょう」もこいつ一人のために生み出された文言である。
また、エデンで初めてポイントを使って他の英霊を送還させた記録を持ち、その際に対象が稼ぐであろう戦果百年分を僅か八年で支払ったとも書かれていた。
ちなみにこの事件は「英霊全裸対決事件」という意味不明な名称で記録されており、こちらの閲覧にはポイントが必要だったので見ることができていない。
さて、こんな最高戦力の人物像は一体どうなっているのか?
答え――やっぱり頭がおかしい。
好戦的で傍若無人とこれは予想通りである。
そこにナルシストと露出癖が加わり、若返った己の肉体を賛美するババア系美少女が爆誕。
好きなものが「強者」と「美少女」という性豪が、エデンの問題人物であり、現在の最高戦力でもあるという現実には頭が痛くなった。
「お前はどれだけ属性を詰め込む気だ?」と言いたくもなる深紅のゴシックドレスを身に纏った金髪ツインテールの美少女が「フィオラ・アルフメルデ」という人物である。
これの重要そうな部分をかいつまんでデイデアラに説明。
俺やアリスと違い、最高戦力に関する情報がないデイデアラはこれでようやく今回の件が色々と腑に落ちたらしく「あんなやべぇのがか」と絶句していた。
閲覧できる情報だけでこれである。
文字通りポイントが吐いて捨てるほどあるので、大体の意見を通すことが可能だし、本人の性格から我慢なんてするはずもない。
結構な回数エデンとも衝突しているらしく、恐らくあのウォーモンガーには人類の存亡とかどうでもいいのだろう。
(エデンの上層部が俺を新たな最高戦力となることに期待するわけだよ)
考え得る限りの最悪のシナリオが「戦争終わるの? じゃあエデン側抜けてデペス側付きます」は草も生えない。
ただ、このシナリオはデペス側に指揮系統がないことから、恐らくはないだろう。
やるとしたら「戦争が終わった? じゃあ、今から私がエデンの敵だ」くらいだと思われる。
それはそれで酷いシナリオだ。
では、そんな頭のおかしい戦争狂を我らが野性味溢れる蛮族デイデアラ君はどう評するのか?
そちらを単刀直入に聞いてみた。
「フィオラ・アルフメルデを実際に見た感想は?」
「やべぇ。絶対に戦いたくねぇな」
デイデアラは比較としてリオレスをまず持ち出した。
曰く「まともに戦ったら勝てねぇ。最初から相打ち覚悟なら、俺も死ぬが殺せる可能性はある」とのことである。
「お前さんも大概だが、今ならまだ殺せる。エルメシアの嬢ちゃんも生きて殺せるかどうはわからんが殺せる。だが、あいつは無理だ」
殺せるビジョンが全く見えねぇ、と言ってお手上げのジェスチャー。
「お前さんが攻撃を予見できるように、俺も相手が殺せるかどうかがわかる。それだけの数を殺してきた、っていう自負もある。だがな、あいつは文字通り桁違いだ」
背景を知って納得した、とも言ってデイデアラは髭を撫でるような仕草を見せた。
それから「間違ってもあいつとは敵対すんのは止めとけ」と忠告までしてくれた。
その後、伝えることを伝えたデイデアラは去って行く。
あのおっさんにしては意外な用件だったが、見方を変えればそれほどまでに昨日の出来事を案じているとも取れる。
これで第八期は合計三名が消えた。
脱落予定の者も知っているだけで二人いる。
この結果を見て俺はふと思ったことをアリスに尋ねた。
「アリス。エデンから見て、第八期をどう思う?」
俺の質問にアリスは答えに一瞬躊躇する。
だが、ローガンは言っていた「規定外領域の者には隠し事はしてこなかったつもりだ」と――ならば、この質問にも正直に答えてくれるはずである。
「あなた次第です」
つまり俺が全盛期の力を取り戻さなければ、その評価は決して高くないと言っている。
ならば、と条件を付けて再度質問する。
「俺以外、ではどうだ?」
「……戦力としては想定を上回ることができておりません。今後の連携が熟達したとしても、他の世代の英霊たちには及ばないかと思われます」
結局は俺次第という回答。
デイデアラには教えていない事実がある。
英霊召喚で呼び出される英霊の数は大体二十人から三十人。
だが、あの最高戦力が呼び出された第五期はたったの五人しか呼び出されていなかった。
その理由はすぐに判明する。
フィオラ・アルフメルデが大量のリソースを使って呼び出された。
そう確信できるほどの差が彼女にはあったと記録にある。
それほどまでに突出しているからこそ、最高戦力と呼ばれるだけの戦闘力を持つに至るのだ。
そして、何故かこれだけの人数を呼び出しておきながら、それと同等の可能性が示唆されている「スコール1」という存在。
(恐らくは第八期の召喚にはイレギュラーが多いのではないか?)
あの時のローガンのセリフには他にも意味があった可能性がある。
公開はできない。
我々にも教えることができない。
それはエデンすらもよくわかっていない可能性。
別世界からの召喚――それは人類の手に余る技術なのではないか?
そんなことを考えながら、今回亡くなった二人についてアリスから色々と聞いていた。
結果、時間を忘れて戦闘詳細報告に遅刻するところだった。
まあ、締りが悪いのはいつものことだ。
開始直前に作戦室の扉を開けた俺を待っていたのは「こんな時間に来るのは珍しいな」という視線。
いつも開始前には座っていたので、毎回来ている連中からすれば、俺が最後に到着するのは余程珍しい出来事のようだ。
(というか……全員いないか、これ?)
やはり初の戦死者とあって皆気になっているのだろうか?
昨日のあの説明ではわからないことの方が多いだろうし、参加人数が増えるだろうとは思っていたが、全員参加は予想外である。
俺は取り敢えず空いてる席に座る。
お隣さんはクドニク……確認しなかった俺も悪いが、睨んでくるのは止めてほしい。
そんなわけで始まった戦闘詳細の上映。
味方は黄色の三角で敵は赤い丸で表示されており、モニターには現在陣形を組んでいる第八期が映っている。
左右均等のへの字型で、頂点部分が陣地を構築した我々のチーム。
まずは遠距離狙撃から始まり、少し時間を置いてからジャミトスの爆撃もそこに加わり始める。
中央の先頭集団が足止めされ、じわじわと前進していく様子が映し出されており、この辺りで両翼の戦闘が始まったようだ。
しばらくは硬直状態が続いたが、徐々に味方が後退を始める。
それとは対照的に遊撃の二名は敵陣で縦横無尽に走り抜けており、この二人が抜きんでた実力を持っていることを見せつける。
そんな戦況であるにもかかわらず、我関せずとばかりに微動だにしない中央。
要塞周囲の敵はゴリゴリと削れ、その分が周囲から補充される様は見ていてグロいものがある。
「俺らこんな数相手にしてたの?」と改めて敵の数に驚くことになった。
周囲からも「あれもつのかよ」とか完全包囲状態にもかかわらず、負傷者すら出ていなかったチームにドン引きしている様子とドヤ顔のケイさんが見えた。
この状況が最後まで続くのである。
これを見ていたジェスタも「え、マジで?」と途中で漏らしていたのだから、あの要塞を見誤っていたのだろう。
さて、ここまではいい。
問題は左翼で崩壊しかかっている一団である。
「ああ、恐らくここでイクオスがやられた」と隣でクドニクが補足説明する。
これだけ物量に差があるにもかかわらず、包囲状態ではないことが彼の指揮能力の高さを物語っているのかもしれないが、その負担をタンク役一人に集中させていたとなれば話は変わってくる。
だが、ここで語られたのは死者となったイクオスの異常とも言える行動だった。
やはり問題があるかもと思い一部名称を変更しました




