2-10
攻防は現状維持で続いている。
アーシダの防壁は今はなく、残るはケイの陣地のみとなっているのだが……これがまた予想以上に持ち堪えている。
地形を操作をして防御陣地を構築するのが彼女の能力と思っていたが、壊れた端から修復しており未だ一発たりとも中には通していない。
強力な一撃には対処できないらしいが、軍勢を受け止めることができるからこその「要塞」なのだと認識を改める。
とは言え敵の数が数である。
こちらがどれだけ火力を出しても陣地は着実に削れていく。
「待たせたな、再展開だ」
防御を解除した際にボロボロだった衣装がほぼほぼ元通りにまで復元しており、アーシダは再度防壁を展開する。
これにより陣地の修復の時間を確保し、デペスは再びアーシダの防壁を破壊しなければならなくなった。
防御特化型のシナジーが中々にえげつない。
これに加え、レイメルが持つ切り札で陣地の再展開まで可能というのだから、この安定感は素晴らしいの一言に尽きる。
大したもんだ、とそちらに目をやるとちびっ子はまだ足をパタパタさせて余裕の表情。
そして目が合ったと思ったらこのドヤ顔である。
(結果を出してるから何も言えねぇ)
守られている内にサクサク数を減らそうと弾を配って弾をばら撒く。
視界がビームまみれで正確に狙うなどとっくに諦めており、既に全員が僅かに見える敵影に向けて弾をばら撒いている、というのが現状である。
とは言え状況は悪くない。
そう思っていたのだが、唐突にちびっ子が派手に舌打ちをする。
何かあったのか――そう思った直後、空から人が降ってきた。
「お邪魔するよ」
防衛陣地に降り立った人物はジャミトス。
どうやら魔力が心許ないので、しばらくは回復に専念するとのことである。
ちびっ子は彼が来ることに舌打ちをしたようだが……他の面々もあまりいい顔をしていない。
前にも見たような光景に「嫌われてんなこいつ」とチラ見した程度で済ませる。
あまりかかわることのない人物なので、特に言うこともないのだ。
こんな状況なんだから仲良くやれとは言わないが、険悪なムードを出すのは止めてほしい。
「やれやれ、嫌われてしまったものだ」と腰を下ろすジャミトス。
「誰彼構わず『解析』しようとすれば、そうなるのも当然ですわ」
そこにアネストレイヤがその理由を突き付ける。
エリッサも警戒していた様子だったが、そういうことだったのかと納得しつつも、実は俺も何かされていた可能性があり、それに全く気付いていなかった事実に少しこの魔術師が怖くなる。
見た目は若いのに言葉が爺くさいという胡散臭さと相まって、警戒対象として全員がピリピリしている。
「お前の所為だぞ、さっさと出て行けよ」と心の中では掌が大回転。
そんな中、レダが深刻な顔で一言。
「圧力が増している」
新品のマガジンを俺から受け取るレダと射撃の合間合間に「やっぱりそうだよね」と同意するウィーネリフェルト。
この爺さんは休んでいるので、その分敵が押し寄せてきているということだろうが、他の場所も同様に崩れており、無事なここに集中している可能性だってある。
初めて状況がはっきりと悪くなっていることを感じた。
その直後、唐突に俺を貫通するように警告の赤いラインが見えた。
思わずバッと振り返ってそちらを見る。
防御陣地をすり抜けるように蛇行しながらも、しっかりと俺に向かって伸びているそれには見覚えがある。
だが、ビームの嵐がその発生源の特定を困難にさせ、ここにいるメンバーは誰も気づいていない。
「火力を右側に集中させろ!」
俺が叫ぶとアサルトライフルを持った四人が駆けつけた。
大まかな位置だけならわかる。
だからそこさえ外せば問題ない。
明らかに俺たちの攻撃以外で機械型の爆発が起きている。
それに気づいた面々が撤退を支援するように射撃を開始。
(警告の赤いラインが消えている。こちらが気づいたことがわかって攻撃を停止したか)
こういう使い方もできるのか、と自分よりも他人がこの能力を理解しているようで複雑な気分になる。
次の瞬間、地上から何かが飛び出してきた。
それは俺が予想した通りエルメシアだった。
防御陣地の外壁に飛び移った彼女はすぐさまこちらへと降りてくる。
「流石に攻撃の密度が高すぎるわ……」
大きく息を吐いて腰を下ろすエルメシア。
ちらりと俺を見るが何も言わずに呼吸を整えている。
ジャミトスほどではないものの、全員の表情を見る限りあまり歓迎されてない様子である。
「あんたでも無理かい」
そんな中、最初に口を開いたのはレダ。
「量が多すぎて視界がおかしくなるのよ」とビームで見えないことを愚痴るエルメシアだが、その目が隠れるヴェールは一体何のためにあるのだろうか?
(てっきり魔眼とかそういう類のものだと思っていたんだが?)
視界不良はほとんどのメンバーの悩みどころなので「あー」とか「まあねぇ」といった同意の声がちらほらと上がっている。
実際俺もヘルメットのバイザーを下ろしてなければ目が痛くなっているだろう。
ちなみにバイザーは音声認識で上げたり下ろしたりできるし、手動で操作も可能である。
ゲームでも各種情報画面はバイザーに表示されている設定であり、それはこちらでも生きている。
通信機器も備え、自動光量調整や暗視なども一応できる多機能なヘルメットである。
ミッション直前にバイザーが下り、ヴォンという効果音と共にゲームらしい情報が表示されて戦闘開始となる演出が嫌いな奴はおるまい。
ジョニーは自前のゴーグルで目を保護しているので大丈夫そうだが……他の面々は瞬きの回数が妙に多いことからも、結構きつかったのが窺える。
「折角だし、私もここで戦わせてもらうわ」
「儂は回復に専念する。空で戦う方が都合が良かろう」
この二人、互いの顔を確認した瞬間から声をかけるどころか、目を合わせようとすらしていない。
ここで唐突にやり合うよりかはずっといいので何も言わないことにするが、第八期の絆とかそういうのは期待できないのかもしれない。
ともあれ、エルメシアという火力要員が来るのは歓迎だ。
少々押され気味だったが、これで押し返せれば他の場所にも余裕が生まれることだろう。
弾薬を配りながらリロードする俺は、状況が好転することを祈って引き金を引き続けた。
「……あなた、やるわね」
感心したような、どこか引き気味な様子でちびっ子を褒めるエルメシア。
あれからしばらくしてジャミトスが飛び立ち、エルメシアが加わったことで徐々に押し返してはいたのだが、敵の攻撃が止むことはなく、ただひたすらに防御陣地は削り取られていた。
にもかかわらず持ち堪えた。
レイメルの切り札を使うことなく、防衛陣地は戦線が有利な状況になるまで味方被弾ゼロで守り通したのだ。
「イェーイ」とでも言うように無表情でダブルピースをかますちびっ子だが、これは素直に称賛する他ない。
エルメシアの広範囲殲滅力が加わったことで、防衛陣地の再構築とアーシダの防壁に余裕ができた。
そこにアネストレイヤの範囲攻撃が重なったことで一時的とは言え、敵の攻撃がかなり減少したのだ。
これは押し寄せる敵の数が減ったのではなく、射程距離に入る前に倒している最初の状況に戻ったことを意味している。
また、ジャミトスが爆撃を再開したことで圧力が減少したことも合わさって、徐々にではあるが、この状況を維持できるようになり始めている。
それもこれも、あの前もまともに見えないような弾幕量を防ぎ切ったケイの防御陣地があってこそである。
(エルメシアが褒めるのも納得の貢献度だわな)
しかも本人にはまだ余裕があるように見えるのだ。
「もしかしてこの同期、かなりやべー奴なのでは?」とちびっ子呼ばわりはしない方がよさそうなことに今更気が付いた。
そしてもう一つ、大事なことを忘れてはいけない。
「この陣地、動かせるんだったよな」
ぽつりと呟いた俺にケイが「ん」とだけ言って肯定する。
敵の数が少なくなれば、このまま移動して別の場所へと援護に向かえるわけである。
ただ速度は徒歩くらいらしく、その恩恵にはあまり期待しない方がいいと横でリロード中のジョニーが教えてくれた。
「ゆっくり動くからお散歩」
ケイの補足に「あ、ネーミングの由来そっち?」と目に見えてできた余裕に気が緩んでいることを自覚する。
実際、新たに展開したアーシダの防壁が機械型の攻撃を粗方防いでおり、防御陣地もほとんど削れなくなってきている。
水を飲んでレーションを齧る余裕まであるのだから、ここはもう大丈夫と言ってよいだろう。
なので俺は周囲の敵は味方に任せ、遠い敵をスナイパーライフルで狙撃する。
それでも敵の攻撃は徐々に減っていくのだから範囲攻撃の重要性がよくわかる。
(高ランクのロケランがあればもっと楽に戦えてたのかねぇ)
敵の数は見えている範囲でも少なくなったと感じる。
そろそろこの戦いも終わる。
狙撃を続ける俺の視界に連続して敵が爆散している場所が現れた。
恐らくはデイデアラ辺りがこの辺にまで来たのだろう。
ならばあの周囲は任せて他に移るとしよう。
そう思って狙撃位置を変えたのだが……他も大分数が減っており、周辺の敵に至ってはそろそろいなくなりそうなほどである。
最後は「折角だ」と攻撃モードに切り替えたアーシダが三体の機械型を切り刻んで終了である。
俺は狙撃できる対象を探すが射程距離内ではもう戦闘は行われていない。
それを伝えると全員が大きく息を吐いて「疲れた」とばかりに腰を下ろした。
「お疲れ」
そう言って唯一最初から最後まで座っていたケイが足をパタパタと余裕を見せている。
アサルトライフルを回収をし、要求されるがままにレーションを配り、最後までスコープを覗いて警戒を絶やさないロールプレイを続ける。
そうしていると戦闘終了の信号が空に上がった。
今回も無事に勝利である。
「あなたがいるなら組むのも悪くないわね」
どうやらエルメシアはケイを認めたらしく、機会があればまた一緒にやろうと言い出した。
エルメシアには全員が思うところはある。
しかし彼女の殲滅力は喉から手が出るほど欲しい。
なので「私たちもいるけどね」とウィーネリフェルトが口を挟む程度で済ませた。
何事もなく終わった――そう思って帰路に就いた我々を待っていたのは、第八期に戦死者が出たことを告げる訃報だった。




