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一応武器の貸し出しをしていない今回の戦果はそれなりにあったのだ。
だからこそ、全額ぶっぱでどうにかなると思っていた。
そもそも「誰が何を買った」など大した情報でもないと思っていたのだが、思いの外プライバシーにかかわるものは高額になるのだと知った。
とは言え、それも建前次第。
「相手のことを知りたい」と「怪しいから探りを入れる」では必要なポイントも違ってくるらしく、そこにエデン側が納得のいく理由があるのであれば尚更とのことである。
ならば、とそこからの交渉には熱が入った。
今の俺では前借すら無理だったので、新武器の披露をあの青い柱でやってようやくクリア。
ここから条件を変えて必要なポイントを下げ、予想される戦果から出撃二回分の前借を使って俺はようやくエルメシアが何にポイントを使ったのかを知ることができた。
悲報:国堕とし、または祭礼の魔女エルメシアに腐女子疑惑が浮上
どうにかエルメシアが購入した作品の画像だけ見せてもらうことができた。
そんな俺を待っていたのは、男と男が絡み合う所謂BL作品という現実。
「俺は明日からエルメシアという人物をどういう目で見ればいいのだろうか?」と遠い目で天井を見上げる。
アリス曰く「ここエデンの歴史は長く、色々な創作物のデータがそれこそ山のようにあるんです。普通の人なら一生かかっても消費し切ることはできません」とのことである。
その山のような創作物の中からアレをピンポイントで見つけ出した、ということは「そういう趣味がある」と捉える外なく、ますます以てどう接するかと頭を悩ませる。
これまで通りにすればいい、というのはわかっている。
しかし腐女子にせよオタクにせよ、その熱量というものを俺は知っている。
(エルメシアの言う通り、今後の戦闘に関しては信じてもいいのかもしれない)
このまま疑い続けるのではなく、信じる方向へ進めば何か変わる可能性だってある。
だが可能性としてこれが欺瞞情報であり、彼女が誰かが自分を調べることを前提として見せるために用意したものである、ということも考えられるのだ。
但し、これは魔法文明の人間がいきなり機械関係に熟知した行動を取っていることになるため、流石に考え過ぎだろうと自分でも思う。
「映画を始めとする創作物の鑑賞に時間を費やす英霊は多いですから」
この件に関しては何もおかしなことはない、と笑顔で断言するアリス。
「お前もそちら側の住人なのか?」という疑惑はさておき、エデンにはデペスとの戦いが始まる前の人類が生み出した数々の文化がデータとして保存されており、それらをいつでも再生できるようにしている。
ポイントさえあれば幾らでも利用可能とは言うが、詰まるところは有料コンテンツ。
それだけの自信があると肯定的に捉えてやりたいところだが、ポイントを使わせる場所が少ないエデンでは、これくらいしか安定して戦果への報酬にできるものがない、というのも実情らしい。
なるほどな、と頷きながら一応今回の件は解決となるのだが「戦果を期待していますね」と営業スマイルを浮かべるアリスに俺はただ頷くしかなかった。
もし俺が元の世界に戻ることができたのであれば、ここで見た創作物を丸パク……もとい、参考にして何か作るのも良いかもしれない。
そんな妄想が捗って仕方がないのは、俺もこの手の文化にどっぷりと浸かっている証拠なのだろう。
ちなみにポイントを使って得た情報には守秘義務が付いてくる。
まあ、こんな内容なので話す気もなかったが、エルメシアに対して敵対的であった彼らはどうするのだろうか?
そんなことを気にするほどの余裕が俺にあるわけもない、とこの件は早々に忘れることにした。
そう思っていたのだが、今俺の目の前にはあの武士もどきがいる。
廊下でばったりと出くわした、というわけではなく、ここに来ると踏んで待ち伏せされていたように思える。
「昨日ぶりだな、スコール1」
俺は黙ってただ頷く。
実は名前を憶えていないのだが、何も言わなくて済むこのロールプレイにはこの時ばかりは感謝である。
「お主も知っての通り、あの女が怪しい動きをしている」
怪しいけど怪しくないのは俺も知っている。
当然だが話す気もないし、そんな義理もない。
おまけに俺にはこいつらとかかわる気もない。
「それを罰すべく我らは動くことにした」
こいつらは何様のつもりだろうか、と武士なのか武将なのか形容しがたい恰好の男を胡散臭いものを見る眼差しで見る。
だが、俺のその反応を無視するようにこいつは続ける。
「確かに個の力では抜きんでているものがあるだろう。しかし、だ。戦は集団戦である。あのような不穏分子は必要ない。そうは思わぬか、スコール1」
「興味がない」
ばっさりと切り捨てた俺に武士もどきの顔が一瞬引きつった。
畳みかけるように俺は「もういいか?」とだけ言うと返事を待たずにその横を通り抜けようとする。
しかしこれをブロックしてくる武士もどき。
「いいのか? 貴様のような弱者がこの先生きのこるには、我らの同志となる以外に道はないのだぞ?」
脅すような口調を俺は嘲笑という形で返答とする。
「本性を現したな」と口にするまでもない。
「我らよりも先に召喚された英霊がどういう者たちかもわからぬ状況で、仲違いするのは愚の骨頂。まとめる者が必要であることすらわからんのか?」
これを聞いて俺は「ああ、ダメだ」とこの男の本性を見切った。
わかりやすいまでの上下ばかり気にするタイプだ。
(そして自分が上にならないと気が済まないタイプだな)
俺が一番嫌いな奴である。
上に媚びる癖に「いつかは引きずりおろしてやる」と虎視眈々と狙い、そのために必要なことを下にやらせて自分は安全な場所にいる。
当然バレれば下の所為にして自分はこれを密告した側に移動するのだから始末が悪い。
「いたなぁ、こんな上司」と人生で最もむかついたやつの顔を思い浮かべて腸が煮えくり返ったところで、なんとこの武士もどきは演説を始めようとしていた。
「わからんならば、教えて――」
「もういい」
それを俺は強めの口調で遮ると露骨なほどに侮蔑するようにこちらを見下してきた。
向こうはこちらを雑魚とでも認識しているのか、強気の態度を崩す気配すらない。
当然、俺も新武器の獲得で足りなかった火力というピースが埋まっているので、強者として振る舞うことを忘れない。
一触即発、とまではいかないが互いに引く気のない睨み合いが始まった……かと思えば通りがかりから声がかかる。
「何をしている?」
現れたのはストーカー……もとい、槍使いのマリケスである。
この登場人物に舌打ちをする武士もどき。
「クドニク、てめぇまたやってんのか?」
どうやらこの男、同じようなことをこいつにもやったようだ。
明らかに不機嫌になったマリケスだが、そこに俺の一言が刺さる。
「クドニク?」
恐らくはこいつの名前だろう。
そう聞き返したことで、ようやく俺が自分の名前を憶えていないことを察するクドニクという名の武士もどき。
顔が真っ赤に染まるという表現はあるが本当なんだな、と興味のない視線をくれてやる。
「こいつの名前だ。まあ、お前はそうだろうな」
顎で武士もどきを差した後「くくく」と小さく笑うマリケス。
それにブチ切れたクドニクが「後悔するなよ!」と捨て台詞を吐いて立ち去った。
「……で、何なんだ、あいつは?」
実際興味はなかったが、さも「興味なくて聞き流してました」という風にマリケスに尋ねる。
「確か……『他に呼び出された英霊と諍いが起きた時のために団結する必要がある』とかぬかして、俺にあいつらの同志になれ、とか言ってた馬鹿どもだ」
こいつの中では英雄とは人を救う存在だ。
それが派閥を作り出し、人間同士の争いを想定して動くなどあり得ない話だろう。
よって英雄マニアの判定はアウト。
あいつらは「英雄にあらず」と見做され、マリケスの中では初期の俺と同じ……いや、もしかしたらそれ以下として扱われているのかもしれない。
「ああいう連中は決まってくだらない報復をしてくる」
「用心するんだな、スコール1」と言うだけ言って立ち去るマリケス。
どうやらこいつは本当に偶然通りかかっただけのようだ。
「ストーカー業務も今日は休みか」と俺は安心して射撃訓練場へと足を運んだ。
さっさと切り替え射撃での反動消しを完璧にできるようにしなければ、と小さな目標に向かって邁進する。
やることはあるのはよいことだ、とこの時の俺は楽観視していた。
警告されてなお、警戒していなかったのはこの世界の状況を知るに従い「そんなことをしている余裕などあるはずがない」と高を括っていたからか?
それとも「英霊と呼ばれる者がそんなことをする馬鹿ではない」と思い違いをしていたからか?
人は派閥を作るもの――社会に出れば嫌というほど知ることになり、そのメリットとデメリットを体験しておきながら、この時の俺は「何もしなかった」という致命的なミスを犯した。
その自覚がないままに時間だけが過ぎていき、訓練の成果に満足して眠りに付く。
そんな日々もほどなくして終わりを迎える。
襲撃のアラートが鳴り響き、俺は確かに自信を胸に作戦室へと急いだ。
先生がいたのでつい・・・




