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「……で、あんたはどうすんだい?」


 周囲が盛り上がっている中、何も言わなかった俺の隣にいたアウトローな感じ――西部劇に出てくるガンマンみたいな服装をした赤毛の女性に声をかけられる。

 その一言で周囲の目が一部俺に向けられた。

 下手なことは言えないな、と空気を読んだ俺は「このキャラ」っぽい言葉を口にする。


「……俺はただの兵士だ。戦場があるのであれば戦う。それだけだ」


 俺はぶっきらぼうに言い放つ。

 状況はなんとなくだが掴めてきた。

 だが俺がどういう理由で呼び出されたのかが全くわからない。


「質問がある」


 なので直接聞くことにした俺は説明をしていた女性が見えるように挙手。

 相手が頷くのを確認してから質問する。


「『英霊を召喚した』と言うが、それはどういった基準で行われている?」


 俺の質問にそこが気になっていた連中が同意するように「確かに」や「気になるな」とかの声が聞こえてくる。

 というか言葉が通じるのは何故だろうか?

 そこら辺は「お約束」なのだろうが、一応聞いておいた方が良いのかもしれない。


「英霊とは……その世界、その時代で確かな功績を残した英雄。それこそ歴史を変えるほどの功績、類まれなる実力が死後称えられ、時に神格化されるほどの英雄を指す言葉です。当然英霊にはそこに至る経歴があり、その大小には差があります。我々が召喚するのはその中でも特に実力のある英霊。それこそ世界を変えるほど特筆すべき功績がある特別な英霊です」


 どう考えても俺には当てはまらない。

 恐らくは他にも何かある。


「他に条件はないのか?」


「……後悔の念が強い者。例えば、守りたかった者を守れず『死んでも死に切れぬ』という強力な思念が、その強さ故に選ばれることもあります」


 俺は息を吐いて「そうか」とだけ言った。

 周囲の英霊の中にも思い当たる節がある者がいるのか、同じような溜息が聞こえた。

 その胸中を慮ってかしばしの静寂が流れた。

 これでわかったことがある。

 俺の最後の記憶は世界記録目前でのゲームオーバー。

 発狂したかと思われても仕方ないほどに叫んでいた記憶がある。

 つまり俺はその「英霊が呼び出される条件」を上書きするほどにあの時のワンミスを後悔しているということになる。

「それでこのゲームの姿なのか?」と自分を笑う。

 そして俺が作ってしまったこの空気を払うように進行を促す。


「すまなかった。続けてくれ」


 そう言って居心地悪そうに壁際へと歩く……が流石に距離があるので柱を背に腕を組んで俯く。

 そこで反対方向に同じことをしている英霊が既にいたことに気づいた。

 まあ、これだけ人数がいるのだからキャラ被りは仕方ない。

 女性の咳払いの後、説明が再開すると俺は黙って耳を傾けた。




「……以上となります。何か質問はありますか?」


 そう締めくくった女性の名前は「アリス・アークライド」と言い、説明中に質問されるまで名乗ることを忘れていたという中々お茶目な人だ。

 彼女自身は研究員としてここ「エデン」に努めており、英霊たちの仮初の肉体が正常に機能しているかどうかのチェックなどをしているとのことである。

 ちなみに全盛期の力が使えるかどうかは英霊次第なところがあり、大体数人くらいは生前と同じ強さを取り戻す前に消えてしまうらしい。

 消える原因は主に戦死。

 大規模な戦闘になるとどうしても戦死者が出るそうだ。

 他にも生前の未練がなくなったことで消え去ることもあるそうだが、その時はきちんと元居た世界へと送ると言っていた。

 これからについてだが、まずは生前の感覚を取り戻すための訓練を予定しており、その期間にデペスの基本情報などを覚えてもらう。

 それが終了次第、順次戦闘に参加となるようだ。

 待遇についてだが、こちらは三食つきの個室。

 戦果に応じて贅沢品なども買えるようになっており「戦果の独り占めはしないように」と釘を刺された。

 当たり前だがフレンドリーファイアはご法度だ。

 戦果を数値化した「戦果ポイント」がマイナスになるそうだ。

 爆風兵装や爆発物の取り扱いは注意しなければならない。

 説明が終わったのでこれから訓練場を案内してくれるらしく、アリスが先導のため速足で歩き出す。

 部屋を出ると思ったよりも近未来感が薄い。

 装飾もなければ窓もない無機質で殺風景な廊下に出る。

 床材はコンクリートだろうか?

 天井には四角い照明が等間隔に並んでおり、探せば地球にもありそうな内装である。

 そんな感想を抱きつつ、長い廊下をぞろぞろと移動して辿り着いたのが四つのエリア分けされた訓練場。

 目的地へと歩きながらアリスが軽く訓練場の説明をしてくれる。

 射撃訓練用に一人で利用できる場所もあるので、エイム調整のために一度行っておいた方がよさそうだ。

 英霊同士の戦闘訓練もできる闘技場のような場所もあり、時折起こるいざこざに利用されることもあるとのことである。

 これを聞いて何人かの英霊が「ほう」と楽しそうな声を上げる。


(頼むから戦闘狂はこっちを見ないでくれよ)


 少なくとも現状自分がどうなっているかも把握できていないのに戦闘は無理だ。

 しかし俺が知る通りの性能があるのであれば、敵の大群相手には恐らくかなり役に立つ。


(問題はどの程度攻撃が通じるか……)


 こればっかりは実際にやってみないとわからない。

 最高攻撃力でダメージが入らないのであれば、完全にただのお荷物になる。

 この場合は大人しく非戦闘員となるか、デペスとやらに通用する武器を借りる外ない。

 そんなことを考えているとアリスが止まったらしく集団が停止した。

 取り敢えず目的地に到着したようなので壁を背に腕組みをする。


「それでは今からこの柱に向かって一人ずつ攻撃をお願いします」


 そう言ってアリスは天井まで伸びる大きな青い柱をポンポンと叩く。


「この柱は受けた攻撃を数値として出力可能な装置です。頑丈さは折り紙付きですので全力でお願いします。あ、周囲に被害が大きいようなものはできれば遠慮してください」


 後片づけが大変になりますので、とアリスはおどけてみせる。

 誰が最初に行くのか、と俺は周囲を窺おうとした直後に手を上げる者が一人。


「そういうことならまずは私から行こう」


 そう言って前に出た最初に全員をまとめた金髪のイケメン剣士。

 腰に差した剣を引き抜き柱へと歩く。

 そして特に気負うような素振りもなく「ふっ」と小さな声と共に踏み込んで一閃。

 恐ろしく速い一撃だったが、どういうわけか目で追えた。

 どうやら身体能力はこの姿を基にしているようだ。

 元の姿だったら踏み込みすらまともに見えていなかったのではなかろうか?


「……1286。いきなり四桁が出ますか」


 柱の傍に現れた宙に浮かぶ半透明のモニターに表示された数値を見てアリスは驚愕している。


「柱を切断するつもりで切ったはずなんだが……」


 不満気なイケメンだが「そう簡単に壊れるものではありませんが壊そうとしないでください」とアリスは注意する。


「しかし傷一つなしか……これは修復したのか?」


 イケメンの質問にアリスは「その通りです」と頷く。


「稀に空間を削り取ったりするような攻撃をする方もいるんですよね。そちらを測るためにも柱に与えられたダメージを即座に修復するような形になった、と言われております」


 アリスの説明に悩み始める英霊たち。

 恐らくどういった攻撃をするのかを考えているのだろう。


「折角ですので、ここで簡単な自己紹介をお願いします」


 柱から離れようとしたイケメンにアリスが待ったをかけ、自己紹介をする流れとなる。


「リオレスだ。見ての通り、剣以外に取柄がない」


 それだけ言うとリオレスは英霊たちの中に戻る。


「それじゃ、次は俺様がやらせてもらおうかね」


 そう言って前に出たは如何にも「蛮族」のような見た目で大きな斧を持った髭を生やした茶髪のおっさん。

 ボサボサの髪と上半身が裸に近い姿はだらしないというより野性味で溢れている。


「質問だ。こいつの最高記録は幾つだ?」


 斧を片手に振りかぶった髭のおっさんがアリスに尋ねる。


「2208です」


 予想された質問だったのだろう。

 アリスは淀みなく即答するや否や、髭のおっさんが気合の入った声と共に大きな音を立てて斧を振り抜いた。


「……1672。そう簡単にはこの記録は抜けませんよ? 1000年に渡るデペスとの戦いの中で生まれた記録なんですから」


 そう言って笑みを浮かべるアリスと後ろ頭をぼりぼりとかく髭のおっさん。


「あれで2000もいかねぇか。『デイデアラ・ガリメデス』だ。『屍の山を築きし殺戮の王』の話を知ってる奴はいるかい?」


 恐らく自分の逸話か何かなのだろうが、もう少しマシなものはなかったのだろうか?

 印象が悪かったのか一部の英霊から視線が厳しいものになっている。


「では次は私が」


 この状況を意に介した様子もなく前に出たのは正に「妖艶」という表現がぴったりの美女。

 透けるほどに薄いヴェールで顔を隠し、これまた透けるようなローブのような衣装を身にまとう黒髪の美女が幾つもの黄金の腕輪を鳴らして柱の前に立つ。

「いい尻してんな」とさっきのおっさんが顎に手をやり見入っているが全員が無視。

 女性の方も気にすることなくゆっくりと指先を柱に添える。

 その瞬間、とてつもなく嫌な予感がした。


「おい」


 反射的に声をかけてしまった。

 だが同じように何かを感じていたのか、半数以上の英霊たちが臨戦態勢を取っている。


「冗談よ」


 そう言って顔を隠した女はこちらを見て笑うと柱に向き直り――ビシリと音がした。

 

「祭礼の魔女『エルメシア』。よろしく」


 ひび割れたままの柱に背を向けて歩き出すエルメシア。

 その後ろで「2018です」とアリスは驚愕の声を漏らす。

 恐らくだが、あの攻撃をもっと広範囲に行おうとしたのではないだろうか?


(英霊なら……いや「自分と同格ならばそれくらいどうにかできる」とでも思っているのか?)


 壁を背にして何事もなかったことに安堵していたところ、エルメシアがこちらに向かって歩いてきていることに気が付く。

 腕を組んで顔は伏せ気味のまま、目だけをそちらに向ける。

 正面に立ったエルメシアは俺の顔を覗き込むと囁くように声をかけてきた。


「あなたの番、楽しみにしてるわ」


 隠れていない口元の笑みが彼女の狂気を浮かび上がらせる。

 用は済んだとばかりに俺に背を向けて歩き出すエルメシア。

 周囲からは明らかに要注意人物として警戒されただろうが、そんなことはお構いなしに英霊の輪の中に戻っている。

 俺は動揺を隠すようにそのままの姿勢で沈黙を保つ。

 ちょっとヤバイ奴に目を付けられたかもしれない。

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