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15)エピローグ

本日は、2話、投稿しました。2話、同時に投稿してあります。

こちらは2話目です。




 リュカたちが帰国した頃。

 通常であれば、国のために任務を遂行した使節団は手厚く出迎えを受け、歓迎式典などが行われる。だが、そういう計画は何も聞いていなかった。

 その理由も、おおよそわかっていた。

 使節団一行は、清々しい心地で帰国した。

 式典も出迎えも、要らなかった。

 襲撃された理由も分かりきっていた。

 アロイス王子が、先駆隊の使節団の護衛を削ったからだ。

 おまけに、入り込んでいた内通者のうち、従者に加わっていた者は王族が絡んでいた。

 従者と言っても、内通者の男は従者の取りまとめ役を担っていた。従者たちを顎で使う立場であり、責任者だった。

 当然、重い責務を担っており、選ばれるのはそれなりに名誉なことだ。

 騎士団長やアーシュは、使節団の安全にも関わることなので選抜は慎重にすべきと考えていた。

 常識的な者は誰でもそう考える。

 そこに口出ししてきたのが王弟であり、王弟の「知人」の兄という男をゴリ押しされた。

 のちに、「知人」というのが愛人だったとわかった。

 襲撃後、リュカたち使節団はブーレ王国に到着し、無事に任務を終えた。

 その間、サレイユ王国からの指示は、軒並み無視して全てを完了させた。

 本国からの指示は「アロイス王子がそちらに到着するまで待て」というものだった。

 今回の襲撃ですっかり怖気付いた第一王子は、残党の捜索を終えて安全が確保されてから向かうと言い、国王もそれに賛同。

 騎士団は捜索に駆り出された。

 アーシュは、襲撃事件ののち、使節団の護衛の立て直しを終えると残務処理のためにしばらくは残った。

 ルドア大陸連盟から経緯を調べるために人が派遣されることとなり、アーシュが対応することになっていた。

 使節団は、ルドア大陸連盟からも軍の護衛が出されることとなり、安全に移動することができた。

 アーシュは、連名からの使者の応対を済ませると、信頼する部下に残党の捜索をゆっくりと行うよう指示し、王都に戻った。やりたいことがあったからだ。

 アーシュの部下は、アーシュの「やりたいこと」の計画を聞くと、

「やり遂げてください、こちらはしっかり、ゆっくり、残党の捜索をやっときますから」

 と請け合った。

 元より、万が一、残党がいれば責任問題となるため、念入りにやらなければならなかった。

 王からの指示でも「一人も残すな」なのだから、騎士団としては「そんなの確認できるかよ」と思っても逆らえない。

 生き残りが森の奥地に潜んでいても「許さん」と言うのであれば、もうアロイス王子はよほど遠回りして何か月もかけて移動するしかないだろう。

 そんなわけで、話し合いの場にアロイス王子が駆け付けられるはずもなく、王子無しですっかり済んだ。

 国王らはこれが我慢ならなかった。

 第一王子は、まだ立太子前だ。

 何ら功績もないばかりか成績も振るわない第一王子ではあるが、王家の長子ゆえに「王太子になるのだろう」と諦めの目で見られている。

 御年二十歳だが少々若く見える。幼く見える、とも言う。

 アロイス王子の華々しい国際デビューは、紛争解決のための調印の場が相応しいと王家は考えていた。

 熱望していた、と言っても良い。

 本人は何ら役に立たず、むしろ邪魔をしたにも関わらず、なにを言っているんだ、としか当事者たちは思わなかった。

 ゆえに、待たなかった。

 任務を終えた使節団に対して、歓迎式典も出迎えもなかった。

 命の危険に晒され仲間を失った使節団は、国の歓迎など要らなかった。

 リュカは、アーシュとレオネの出迎えを受けた。

 到着時刻は全く公にされていなかったにも関わらず、二人は正確に知っていた。

 アーシュ経由で知らされた他の家族や同僚たちも出迎えた。

 リュカの部下ファレルは、治癒師の治癒を受けて馬車で移動できるほどに回復していた。後遺症なども残らないだろうと診察を受けている。

 他の怪我人たちもすでに命の危険はないという診断だった。

 外交官や高官らは、ようやく任務を終えたと実感した。

 リュカは帰国したのち、なぜかアーシュとレオネが仲良くなっており、国内の様子が変わっていることに気づいた。


□□□


「それで? 二人はなぜそんなに親しくなってるのかな?」

 悪いことではない。

 だが、まるで、実の伯父と姪のごとく親しげな二人に、リュカは胸がざわついた。父であるリュカは、リリアナがいるために思うように娘に会えなかったというのに。

 レオネが「アーシュおじさん」と親しげに呼ぶたびに、なぜか旧友を殴りたくなる。

「そうだな、リュカがブーレにいる間に色々とあったんだよ、こちらでも」

 アーシュは、リュカの気持ちも知らずに、朗らかに言いながら数枚のチラシ状のものを書類入れから取り出した。

「号外?」

「ああ、そうだ。王都中に配った」

 リュカは号外と大活字で記された大判の紙に視線を落とし、愕然とした。

『王弟殿下、愛人に唆され、内通者を使節団に入れる』

 記事には、そう大きく見出しが付けられていた。

 今回の襲撃のなにもかも全てが、暴露されていた。

 第一王子アロイスの安全のために使節団の護衛が削られていたことや、襲撃事件の際に四人が亡くなり六人が重軽傷を負ったが、亡くなった四人のうち三人は、内通者だった従者が殺害した。

 内通者の男はロウインと名乗っていたが、ロウインは仕事が全く出来ず、他の従者たちの上司ではあるものの命令が一貫せずに従者たちは苦労している様子が見てとれた。

 そのロウインは、襲撃事件の夜に、他の従者たち三人を斬り殺した。

 ロウインは、王弟がゴリ押しして使節団に入れた男だった。

 王弟の愛人が、浮気して知り合った男だとのちにわかった。

 愛人の兄だという話を鵜呑みにし、ろくに調べもしないで入れた。

 その男に、三人は殺された。

 襲撃を受けた際に死んだ文官は不運だったが、ロウインに殺された三人は、王弟が内通者を入れなければ防げた犠牲者だった。

 襲撃事件ののち、四人を亡くし、怪我で同行できなくなった者も含めて七人を失ったが、軽傷だった者は治癒を受けながら任務をやり遂げた。

 使節団は立て直しをしてブーレ入りし、任務を遂行した。

 その間、王宮からは「アロイス王子が到着するまで待っていろ」という命令が矢のように来ていたが、ルドア大陸連盟の立ち合いのもとで調印を行えるのは期限がある。

 アロイス王子を待っていたら、せっかくの紛争解決ができなくなる恐れがあった。

 それなのに、何ら意味もない王子の到着を待てと命じ、アロイス王子の方は「道中の安全が確保されていない」と一向に来なかった。

 全権委任された代表が署名し、無事に完了して帰国した使節団を、「アロイス王子に署名させなかった」と王宮は労うこともせず、歓迎式典も出迎えすらもなかった。

 号外は、それらの内容を詳細に調べるとともに、王宮で語られたアロイス王子の暴言や、王弟の女性関係の酷さや、何ら関係のない部署への人事の口出しや、騎士団の軍備を節約させて王妃の宝飾品代を作っていることなども暴露されていた。

「不敬罪は大丈夫なのか」

「全て事実だ。調べてある。事実は不敬罪に当たらない。緘口令も敷かれていない、ああ、緘口令が出る前に号外を配った」

「緘口令が出たのか?」

「出た。レオネの占いでわかっていたので、それまでに配りまくった」

「これに関して、レオネの占術を利用したのか」

「お父様、当然ですわ。アーシュおじさんの計画がうまくいくように、全面的に協力させてもらいました。皆さんの能力が高かったおかげで、うまくいって」

「ちょっと待て。皆さんというのはなんだ?」

「あぁ、まぁ、王家の衰退を願う仲間だ」

 アーシュが白状し、リュカは項垂れた。

「そんなものに娘を巻き込んで」

「お父様。私は、自ら巻き込まれましたの。あんな王家、潰れて仕舞えばいいんだわ」

「不敬罪というものがあってね、レオネ」

「捕まる前に逃げますわ。お父様も一緒に。後に残るのは、あの第二夫人と血の繋がらない姉だけですもの」

「ほぅ、血が繋がらないのかい?」

 アーシュが面白そうに口を挟む。

「あら、そんなこと言いました?」

 レオネがとぼける。

 リュカはさらに項垂れた。

 リュカは数か月ぶりに帰国し、知ったのだ。

 これまで、サレイユ王国は国王の権限が強かった。

 それが、留守にしているうちに国会で法改正されていた。

 国王の権力が大幅に縮小されていた。

 それは、サレイユ王国始まって以来のことだった。


□□□


 リュカがブーレ王国関連で国を留守にしている間に、レオネは中等部の三年に進級していた。

 レオネにしてみれば、中等部の真ん中は、ブーレ王国のことで気に病んでいるうちに過ぎていた。

 ダラスとメイベルが心配し面倒をみてくれたおかげで、成績は思ったほどは落ちなかった。課題の提出を手伝ってくれたダラスには感謝だ。

 あの時は成績なんてどうでも良いと思っていたが、過ぎてみればやはり助かった。

 父は怪我もせず、大役を果たして帰ってきた。

 それに、アーシュたちも歴史的な偉業を成し遂げた。

 サレイユ王国は、近年では少数派だった「国王の権限が強い王国」だった。

 昨今は、愚王の治世となっても国が傾かないように、国王の権限を弱めるのが主流だ。国を思えば、その方が良い。

 ところが、サレイユ王国では、そう言った方向で法改正をしようという動きがあっても毎度、国王が阻止していた。

 昨今のブーレ王国がらみの失態と醜聞で、王家の権威は地に落ちていた。

 元から王家と王族は評判が悪かった。

 サレイユ王国では、識字率と新聞購読者数が高かった。それに、王家が新聞社に圧力をかけようとしても出来なかった。

 まず、新聞社の後ろ盾に、宰相と騎士団とがタッグを組んでついており、密かに豪商たちが支援していた。

 他にも、裏で有力貴族らも協力していたし、魔導士協会や研究所もそっと手を貸していた。

 幸い、サレイユ王国では、三権分立だけは維持されていた。

 そういった内情で、王族が好き勝手にやりながらも、微妙な権力図もまたあったのだ。


 アーシュは、さらに、クーデターの噂を流して揺さぶりをかけた。

 国王が、クーデターを怖れて神経質になっている、という情報を得たので試みた。

 その上で、行われた国会で、宰相が法改正を議題にあげたところ、通ったのだ。

 歴史的な瞬間だった。

 ここまで短期間に目的が達成されるとは思わなかった。

 もちろん、宰相や他の協力者たちは何年も前から、あるいは、先駆者たちは、何十年も前から計画をし準備をし検討を重ねていた。

 それが、とうとう叶った。

 アーシュは、レオネの功績も大きかった、と密かに知っていた。

 アーシュは計画をレオネにおおよそ話していた。詳細は話せなくても、おおまかな概要、あるいは「見出し」くらいは話した。

 その上で「決行日に良い日はあるか」や、「妨害がある可能性はないか」や、「この男は仲間の推薦ではあるが不明な点があるんだ、信用できるか」などなど、気になる点をあれこれと尋ねた。

 レオネが「王家に罪の償いをさせたい」と言って協力的なのを良いことに、なんでも尋ねていた。


 占術の結果で「この計画は致命的な結果になります。今は、絶対にやめておいてください」と必死にレオネに言われ、アーシュが仲間に抵抗されながらも様子見をしていた「侍女の協力を得る」や「従者に王太子の動向を探らせる」は、もしも手を付けたら本当に悲惨な結果になったことが後からわかった。侍女は王太子のお手付きで惚れ抜いていたし、仲間の従者は捕まっていた可能性があった。

 国王がブーレ王国関連は箝口令を敷くだろうことと、その日時までもわかっていたために、印刷業者の尻を叩いて号外を配るのを早めた。

 おかげで、ぎりぎり間に合い、記事を一つも無駄にせずに済んだ。

 それこそ、終いには決行日は必ずレオネに確認してもらった。

 レオネの占術に助けられたことが多々有った。有りすぎた。幸運を占術によって招くことができた。

 アーシュは、こんなにも短期間にうまくいったのはレオネのおかげだとつくづく思っている。


 レオネは望んでいた「王家の罪の償い」をさせた。

 王弟はその後、司法で裁かれた。生涯幽閉だ。外患誘致罪で有罪だった。極刑ではないが、決して恩赦はない。

 母の死は、レオネはもう、司法に償いを求めるのは諦めていた。証拠がないからだ。人を殺めてそのままで済むとは思わない。でも、母を殺させたのは、あの憎い女だけではないとわかっていた。


 王家が力を失ったおかげで、ベルジュ公爵家の罪も暴かれた。

 不良率の高い武具や魔導具を、王宮や騎士団に無理矢理、高い値段で卸させていた。

 司法で厳正に裁かれ、お取り潰しが決まった。

 不正が長年にわたっていたために、生半可な処罰では済まなかった。

 リリアナが実家の力を失うと、すぐにリュカは離婚の手続きを始めた。

 当然、リリアナが拒否したため、裁判所に申し立てた。

 隣国、グルミア王国の学会で「夫婦の魔力量から子の魔力量を推定する方法」が確立されたため、セイレンがリュカの子でないと証明できると申し立てた。

 裁判所にリリアナとセイレンが出頭しなければ離婚は成立だ。

 リリアナとセイレンは止むなく裁判所に出向いた。

 セイレンは悪あがきか、魔力を上げる魔導具を身に付けていたが、当然ながらすぐに取り外されて魔力量が鑑定された。

 驚くべきことに、セイレンの魔力は「ほぼ無い」だった。魔導具が壊れていないかと二度も確認された。

 サレイユ王国の一般の民でも魔導具を仄かに輝かせられる。セイレンは、裁判所の灯りを暗くして確認し、ようやく僅かに輝かせる程度の魔力はあった。逆にいえば、それしかない。治癒師まで出てきてセイレンは調べられた。

「健康です」と治癒師は太鼓判を捺した。単に、魔力が微量なだけでしょう、と有能な治癒師は告げた。

「セイレン・ラシーヌは、リュカ・ラシーヌの子ではない」と証明された。

 離婚は成立し、リリアナとセイレンは潰れたベルジュ家に戻された。


 レオネは、呆気なくも報復が終わったことを知った。

 あの赤毛の夫人を増長させ、父と結婚させ、さらに母を殺す資金を提供した者たち、すべてが共犯者だった。

 母が不審死すれば、リリアナが裏にいると誰もが思っただろう。下手な毒薬は使えなかった。誰も知らない、痕跡も残らない、ふつうでは手に入らない、この上なく高価な毒が使われた。暗殺者も手の混んだやり方で母に近付いた。父が母を護っていたからだ。

 それら全てに途方もない金と人が動いた。

 リリアナだけで出来るわけがない。

 協力者の一つが王家だった。

 ベルジュ公爵家は王家に依存していた。人々から憎まれてもいた。


 ラシーヌ侯爵家の本邸はいつも遅くまで煌々と灯りが灯されていた。レオネの閉じた瞼には克明に残されている。一人きりの夜に離れの窓から眺めた、父がいるはずの窓を。

 今はもう、消えた灯りだった。



本編は完結しましたが、もう一話、後日談があります。

2、3日後の予定です。

後日談は、イルージャの帰国と、リリアナ夫人視点の離婚話を少し、などになります。

お読みいただき、ありがとうございました。なにとぞ、最後までお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
完結、お疲れ様でした。 緊迫した展開が続き、特にお父様の戦闘シーンは「お父様、がんばれ!」と拳を握って応援してしまうほどでした。(声は出していないのでご安心ください) アーシュおじさんの王都での闘い…
お父さんが無事で、ほっとしました。 レオネとリュカ(プラスアーシュ)の物語が、毎日楽しみでした。 後日談、嬉しいです。
はー、面白かった…けど主役はパパだったなぁ…面白かった リリアナ視点の離婚話めちゃ楽しみ
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